第98話 自白(2)
ローゼンクランツ新宅に戻り、ルードヴィヒは、今日の情報収集の報告をルディから受ける。
「んで、どうかぃのぅ?」
「まずは、ドロテーアと侯爵ですが、カミラがドロテーアにずっと張り付いて見張っていたところ、今までに日常会話以上のやりとりは見られないとのことです」
「侯爵邸の魔術結界はどうなってるがぁでぇ?」
「邸宅全体ではなく、各自の私室のみ結界があるようです」
「確かに、あらぁ魔石の消費量がバカにならねぇからのぅ。それが常識的な線だろ。そうすっと、私室の中の会話までは、わからんがぁな?」
「確かに……ですが、二人が私室で密談した様子もないということです」
「そうけぇ。んで、セカンドシェフの方はどうでぇ?」
「帝国大道団系の高利貸しから多額の借金をしているようで、奴らから強引な督促を受けていたようです」
「おおかた、借金を盾に取って暗殺への協力を無理強いしたってとこけぇ?」
「おそらくは……」
「しっかし、何でそんな借金があるがぁ?」
「今のところ、そこまではわかりません」
「まあ、ありがちな話としちゃあ女かのぅ。奥さんとは上手くいってねぇかったんけぇ」
「子供が生まれてから、夫婦関係が冷え込んでいたようです。それに、現在は、妻は子供を連れて実家に引きこもってしまったようで……」
「何でぇ、そらぁ? 浮気がバレたにしちゃあやり過ぎな感じもしねぇでもねぇが、何かあったんかのぅ」
「わかりません」
「そうけぇ……………………」
そのままルードヴィヒは、少し考え込んでしまった。
そして、思いついたように口を開いた。
「そもそもペーター・フォーベックっちぅ人は、どういう人柄んがぁろぅか?」
「生真面目でひたすら仕事に打ち込んできたようです。あの歳で大公女宮のセカンドシェフというのは、その成果かと……」
「なるほどのぅ…………だいたいの事情はわかったすけ、当初の予定どおり、あとは本人に聞いてみっかのぅ」
「承知しました。では、いつ行かれますか?」
「明日、学園から帰ってから、奴さんが仕事から帰ってきたタイミングを見計らっていくとするかのぅ」
「Zu Befehl mein Gebieter」(おおせのままに。我が主様)
◆
ペーターが仕事から帰ってくる時間を見計らって、ルードヴィヒとルディは彼の自宅を訪ねた。
応対に出たペーターは、予想外の客の来訪に、不思議そうな顔をして尋ねた。
「あのう……どちら様で?」
「おらぁルードヴィヒ・フォン・ローゼンクランツっちうがぁども」
「ええっ! あのローゼンクランツ卿ですか?」
「まあ、そうだども……」
ルードヴィヒは、超高額で貴重な魔獣を2度もオークションに出品したり、エルフの性奴隷を破格の値段で買ったり、幽霊屋敷を改装して住んでみたり、血の兄弟団をやりこめたりといった派手な行動をしているため、庶民の中でも名前が知られた存在だった。
ペーターが”あの”といって驚いたのも無理のないことである。
「そのう……ローゼンクランツ卿が私なんかに何の用でしょうか?」
「それより、ちっとばかし話が長くなりそうだすけ、家に入れてもらってもええかのぅ」
「わかりました。ボロ屋で申し訳ございませんが……」
リビング・ダイニングルームらしき部屋に通された。
一見しただけで、部屋が散らかっていることが見て取れた。
「それで、ご用件というのは?」
「ああ。おら家には、今シェフがいねえすけ、おめぇさんはどうかと思ってのぅ」
「ええっ! ローゼンクランツ卿のシェフにですか?」
これには、さしものルディも意表を突かれたと見え、少しばかり驚いた顔をした。
「どうでぇ?」
「そ、それは……やぶさかではないのですが……」
ペーターは、戸惑っている。
シェフとして一本立ちできるというのは、名誉な話ではあるが……
(あんな大罪を犯しそうになった身で、そんな話を受けていいはずがない……)
「そん前に、これを見てもらいてぇがだども……」
いかにもさりげないようにルードヴィヒは言ったが、ストレージから取り出したものは、例のカンタレラのタブレットだった。
途端にペーターの顔は、驚きのあまり引き攣った。
「そ、それは……」
ルードヴィヒは、ペーターを責めるでもなく、のんびりとした口調で言った。
「おめぇさんも嘘がつけねぇ質だのぅ」
ペーターは、それを聞いて、ガックリと項垂れた。
「何で、ああいうことをする羽目んなったか話してくれねぇかのぅ」
「わかりました……」
ペーターは、覚悟を決めた。
「少し長くなりますが……」
「ああ。かまわねぇよ」
ペーターは、妻が妊娠して夫婦仲が怪しくなったことから始め、すべてを包み隠さず語った。
ペーターは、すべてを話し切ると、すべてを観念し、むしろサバサバしたといった表情をしている。
「そういうことけぇ。おらは、これから暗殺未遂の件を官憲に告発しようと思うども、裁判んときは、今言ったことを包み隠さず証言してくれるけぇ」
「承知いたしました。神に誓って……」
「そんだば、よろしくのぅ」
◆
ローゼンクランツ新宅に帰ったルードヴィヒは、ルディに、ペーターの妻のところへ行き、全てのいきさつを伝えるとともに、彼女がこれからどうしたいか彼女の意向を確認してくるように命じた。
「Zu Befehl mein Gebieter」(おおせのままに。我が主様)
ルディは、ペーターの妻ソフィアのもとへと向かった。
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