表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/259

第98話 自白(2)

 ローゼンクランツ新宅に戻り、ルードヴィヒは、今日の情報収集の報告をルディから受ける。


「んで、どうかぃのぅ?」

「まずは、ドロテーアと侯爵ですが、カミラがドロテーアにずっと張り付いて見張っていたところ、今までに日常会話以上のやりとりは見られないとのことです」


「侯爵邸の魔術結界はどうなってるがぁでぇ?」

「邸宅全体ではなく、各自の私室のみ結界があるようです」


「確かに、あらぁ魔石の消費量がバカにならねぇからのぅ。それが常識的な線だろ。そうすっと、私室の中の会話までは、わからんがぁな?」

「確かに……ですが、二人が私室で密談した様子もないということです」


「そうけぇ。んで、セカンドシェフの方はどうでぇ?」

「帝国大道(だいどう)団系の高利貸しから多額の借金をしているようで、奴らから強引な督促を受けていたようです」


「おおかた、借金を盾に取って暗殺への協力を無理()いしたってとこけぇ?」

「おそらくは……」


「しっかし、何でそんな借金があるがぁ?」

「今のところ、そこまではわかりません」


「まあ、ありがちな話としちゃあ女かのぅ。奥さんとは上手くいってねぇかったんけぇ」

「子供が生まれてから、夫婦関係が冷え込んでいたようです。それに、現在は、妻は子供を連れて実家に引きこもってしまったようで……」


「何でぇ、そらぁ? 浮気がバレたにしちゃあやり過ぎな感じもしねぇでもねぇが、(なん)かあったんかのぅ」

「わかりません」


「そうけぇ……………………」


 そのままルードヴィヒは、少し考え込んでしまった。

 そして、思いついたように口を開いた。


「そもそもペーター・フォーベックっちぅ人は、どういう人柄んがぁろぅか?」

「生真面目でひたすら仕事に打ち込んできたようです。あの歳で大公女宮のセカンドシェフというのは、その成果かと……」


「なるほどのぅ…………だいたいの事情はわかったすけ、当初の予定どおり、あとは本人に聞いてみっかのぅ」

「承知しました。では、いつ行かれますか?」


「明日、学園から帰ってから、(やっこ)さんが仕事から帰ってきたタイミングを見計らっていくとするかのぅ」

Zu(ツゥ) Befehl(ベフィール) mein(マイン) Gebieter(ゲビーター)」(おおせのままに。我が(あるじ)様)


     ◆


 ペーターが仕事から帰ってくる時間を見計らって、ルードヴィヒとルディは彼の自宅を訪ねた。


 応対に出たペーターは、予想外の客の来訪に、不思議そうな顔をして尋ねた。


「あのう……どちら様で?」

「おらぁルードヴィヒ・フォン・ローゼンクランツっちうがぁども」


「ええっ! あのローゼンクランツ卿ですか?」

「まあ、そうだども……」


 ルードヴィヒは、超高額で貴重な魔獣を2度もオークションに出品したり、エルフの性奴隷を破格の値段で買ったり、幽霊屋敷を改装して住んでみたり、血の兄弟団をやりこめたりといった派手な行動をしているため、庶民の中でも名前が知られた存在だった。

 ペーターが”あの”といって驚いたのも無理のないことである。


「そのう……ローゼンクランツ卿が私なんかに何の用でしょうか?」

「それより、ちっとばかし話が長くなりそうだすけ、家に入れてもらってもええかのぅ」


「わかりました。ボロ屋で申し訳ございませんが……」


 リビング・ダイニングルームらしき部屋に通された。

 一見しただけで、部屋が散らかっていることが見て取れた。


「それで、ご用件というのは?」

「ああ。おら()には、今シェフがいねえすけ、おめぇさんはどうかと思ってのぅ」


「ええっ! ローゼンクランツ卿のシェフにですか?」


 これには、さしものルディも意表を突かれたと見え、少しばかり驚いた顔をした。


「どうでぇ?」

「そ、それは……やぶさかではないのですが……」


 ペーターは、戸惑っている。

 シェフとして一本立ちできるというのは、名誉な話ではあるが……


(あんな大罪を犯しそうになった身で、そんな話を受けていいはずがない……)


「そん(めえ)に、これを見てもらいてぇがだども……」


 いかにもさりげないようにルードヴィヒは言ったが、ストレージから取り出したものは、例のカンタレラのタブレットだった。


 途端にペーターの顔は、驚きのあまり引き()った。


「そ、それは……」


 ルードヴィヒは、ペーターを責めるでもなく、のんびりとした口調で言った。


「おめぇさんも嘘がつけねぇ(たち)だのぅ」


 ペーターは、それを聞いて、ガックリと項垂(うなだ)れた。


「何で、ああいうことをする羽目んなったか話してくれねぇかのぅ」

「わかりました……」


 ペーターは、覚悟を決めた。


「少し長くなりますが……」

「ああ。かまわねぇよ」


 ペーターは、妻が妊娠して夫婦仲が怪しくなったことから始め、すべてを包み隠さず語った。

 ペーターは、すべてを話し切ると、すべてを観念し、むしろサバサバしたといった表情をしている。


「そういうことけぇ。おらは、これから暗殺未遂の件を官憲に告発しようと思うども、裁判んときは、今言ったことを包み隠さず証言してくれるけぇ」

「承知いたしました。神に誓って……」


「そんだば、よろしくのぅ」


     ◆


 ローゼンクランツ新宅に帰ったルードヴィヒは、ルディに、ペーターの妻のところへ行き、全てのいきさつを伝えるとともに、彼女がこれからどうしたいか彼女の意向を確認してくるように命じた。


Zu(ツゥ) Befehl(ベフィール) mein(マイン) Gebieter(ゲビーター)」(おおせのままに。我が(あるじ)様)


 ルディは、ペーターの妻ソフィアのもとへと向かった。

お読みいただきありがとうございます。


気に入っていただけましたら、ブックマークと評価・感想をお願いします!

皆様からの応援が執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ