表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/259

第98話 自白(1)

 翌日曜日。

 ルードヴィヒの命に従って、各自情報収集に当たっており、それなりに集まってきてはいるようだ。


 幸い、その日も公式の夜会があった。

 招待状は来ていなかったものの、主催者と交渉したところ、出席を許可された。アーメント男爵夫人(フラウ)は、もはや社交界における名士になったということなのだろう。


 夜会に出席すると、昨日に引き続きアーメント男爵夫人(フラウ)とその庇護者たるローゼンクランツ卿は、注目の的となった。


 二人のところには、興味を持った紳士や婦人が入れ替わり立ち替わり挨拶にやってくる。


 その中に、バラック侯爵もいた。

 事前に示し合わせていたとおり、へカティアがカマをかける。


「これは侯爵様にお声がけいただけるとは、光栄ですわ」

「いえいえ。こちらこそ、あなたのような素晴らしい貴婦人にお相手いただけて幸甚(こうじん)です」


「まあ。たかだか男爵夫人を相手に大袈裟ですこと……」

「それくらいあなたは魅力的ということですよ」


「それは、どうもありがとうございます。

 ところで、侯爵様は官憲を管轄(かんかつ)なさっているのでしょう?」

「それはそうですが、何か?」


「実は、不穏な(うわさ)を耳にしてしまったのですが、恐ろしさで夜も眠れなくて……」

「ほう。それは、どのような?」


「どうも大公女のコンスタンツェ様の暗殺を狙っている者がいるということなんですのよ」

「なんと、大公女様をですか! いったいどのような(やから)が?」


「それが侯爵級の極高位な貴族がならず者の団体を使ってやらせるということらしくて……」

「それは()しからん話ですな。それで、噂では、実行者は特定されているのですか?」


「黒幕の貴族の名前まではわからないのですが、ならず者の方は、帝国なんとかという……」

「帝国大道(だいどう)団ですか?」


「そうそう、それですわ」

「そうですか……奴らなら大公女様を狙うということは充分に考えられますね。問題は黒幕の貴族の方ですが……侯爵級ということが本当であれば、数はごく少数に限られますが……何か手掛かりになりそうなことは、噂では何かありませんか?」


「さすがに、そこまでは……お力になれず申し訳ございません」

「いえいえ。今までいただいた情報も十分貴重なものですから……ところで、噂の出所を教えていただくことは?」


「今の不確定な状況では迷惑をかけてしまいかねませんので、そこまでは……」

「わかりました。そこは無理()いをしませんが、もし事件だと確定しましたら、ご協力願うかもしれませんので、あらかじめご承知おきを」


「それは、もちろんですわ」

「では、貴重な情報をありがとうございました。男爵夫人」


 侯爵が手を差し出したので、へカティアはこれに応じて握手をした。そのまま、あっさりと侯爵は去っていった。


 ルードヴィヒは、その応対の様子を言葉の端々から、仕草や表情に至るまで注意深く観察していたのだが……


(どうも怪しいとこはねぇようだのぅ……)


 へカティアにも目配せをしたが、どうも彼女も同意見の様子だ。


 そもそもドロテーアはハインリッヒの婚約者の候補ではあるが、大公子の結婚というものは、そう単純ではない


 通常は、外国や帝国内の有力な領邦の姫を妻として向かえ、その(きずな)を深めるという、いわゆる政略結婚であることがほとんどだ。このため、大公国内部の貴族から妻を迎えることはない訳ではないが、例は少ない。


 既に大公派であるバラック侯爵家から妻を迎えたとして、両家の絆を深める意味はあるが、それは政治的に見て、今必要なことなのか?


 それに、そもそもドロテーアは現時点ではハインリッヒの婚約者ではない。

 そんな不確定な状態で、コンスタンツェの暗殺を(はか)るというのは、かなり無謀な博打(ばくち)であり、良識派として内務担当宮中伯(プファルツグラフ)まで上り詰めた侯爵の行動としては違和感がある。


(どうもドロテーアの独断と考えた方がよさそうだのぅ……)

お読みいただきありがとうございます。


気に入っていただけましたら、ブックマークと評価・感想をお願いします!

皆様からの応援が執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ