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第95話 従叔母(2)

 翌日曜日。

 ぎりぎりまで、ケヴィンの行動や帝国大道(だいどう)団の動静を探ったが、やはり有意な情報は得られなかった。


(こうなっちまっては、水際(みずぎわ)で防ぐまでだ……)


 ルードヴィヒは、覚悟を決めた。


 昼食を軽く済ませると、ルディとともにツェルター邸へと向かった。

 ツェルター邸では、既に馬車が用意されていたので、そこでリーゼロッテが出てくるのを待つことにする。


 しばらくして、出てきたリーゼロッテの姿を見て、ルードヴィヒは目を見張った。


 ドレスは、ナチュラルシックな感じで、デザインもシンプルだし、薄めのカーキ色で落ち着いた感じにまとめている。唇は艶々(つやつや)とした控えめのピンク色で、他の顔の化粧やマニキュアの色も、それに合わせてナチュラルな感じだ。


 彼女の長く伸ばした淡い色の金髪は、自然なカールが大人かわいい感じで、片側サイドを耳にかけ、ちょっとアンニュイな雰囲気を出している。


 イジワルな目で見れば、15歳の少女が背伸びをして大人っぽく見せようとしている意図も感じられるが、今日のリーゼロッテはなんだか大人びて見えるので、さほど違和感はない。


(今日のロッテ様……ヤバすぎだぜ……)


 派手なことを好まないルードヴィヒは、とても好感を持った。


(もしかして……おらの趣味に合わせてくれとるんだろか……)


 ルードヴィヒは、ルディにそっと目配せをした。

 彼は、意図を察したらしく、その場を離れてどこかへ行ってしまった。


 一方のリーゼロッテは、実は、相当な覚悟を決めていた。


 非公式のお茶会とはいえ、名だたる貴族たちの目の前でパートナーを披露(ひろう)するのだ。彼女は、これを事実上の婚約発表のようなものととらえていた。


 それに当たっては、服装にしても何にしても、子供っぽいものは似つかわしくないと考えた。

 それに、ローゼンクランツ新宅を訪問したことで、ルードヴィヒのナチュラル志向を思い知ったところでもある。


 ここは、大人っぽいナチュラルシックな感じで攻めるべきと思った。


 そして試行錯誤のうえ作り上げたコーディネートであったが、思いのほかルードヴィヒには気に入ってもらったようだ。

 リーゼロッテは、これまでのルードヴィヒとの付き合いを通じて、一見無表情に見える彼の顔も、よく観察すれば、その感情を読み取れるようになってきていた。


(もう……気に入ったのなら、言葉の一つも掛けてくれればいいのに……本当に気が()かないんだからあ……)


 そして、ルードヴィヒは、馬車に乗るのをエスコートしてくれたが、少しだけ照れがうかがえた。


 リーゼロッテは、馬車の中で、ふと思った疑問を口にした。


「ルディさんの姿が見えないようですが、どうかされましたの?」

「いやぁ……なんか野暮用があるみてぇで、ちっとばかし出かけたがぁてぇ。お茶会までには合流するすけ、心配はいらねぇ」

「それなら、いいんですが……」


 馬車の中では、それから一言も口をきくことはなかった。


 いつもなら気にならないのだが、今日は二人の間に微妙に緊張感が高まっている気がする。そのため、何だか普段どおりの会話ができていなかった。


 そのまま大公女宮に到着し、ルードヴィヒにエスコートされて馬車を降りた。


 そこに控えていたルディを目にしたルードヴィヒは言った。


「ロッテ様。ちっとしょんべんしってくるすけ、待っててくれや」


(いやん! もうルード様ったら……貴族たる者、もっとオブラートに包んで言って欲しいものだわ……)


 5分ほどして、ルードヴィヒは戻ってきた。

 今度はリーゼロッテが驚く番だった。


 ルードヴィヒは、カーキ色でまとめたスーツを着ていた。

 カーキ色はリーゼロッテのドレスと全く同色ではなく、少し濃いめの色なところがポイントだ。


 男性は皆、(こん)やグレーなどの無難な色の服を着ている中で、これは目立つ色だ。だが、ルードヴィヒが着ると有名ブランドの高級服のように見えてしまうし、事実、とても似合っていた。

 履いているパンツはスリムスタイルなので、鍛え抜かれた尻のトップの位置が高くて上向きであることがくっきりと見て取れ、ただでさえ長い足が一層長く見える。

 スーツも細身タイプで、鍛えられた上半身の体格が(うかが)える。


 胸には、深紅(しんく)薔薇(ばら)が一輪飾られている。それはカーキ色のスーツと見事に調和している。並みの男なら、薔薇に目が行って負けてしまいそうだが、男も見惚れる美貌(びぼう)のルードヴィヒは、決して負けてはいない。


「ルード様。その服は?」

「おぅ。せっかくだすけ、ロッテ様の服に合わせたがぁて」


「それは……どうもありがとうございます。でも、さすがに、その薔薇はやり過ぎなのでは?」

「何言っとるんでぇ。ロッテ様は、おらのラストネームを忘れたんけぇ?」


「あっ! 確かに……」

「そんだば、もう一輪あるすけ、ロッテ様も付けてみらっしゃい」


「ええっ! お(そろ)いで、そんなに目立つ薔薇を付けるんですか?……それはちょっと……」

「パートナーなんだすけ、別に恥ずかしくはねぇろぅ」


(ええっ! 家の象徴である薔薇を付けるって、私のローゼンクランツ家への嫁入りを予約済みってことですかぁ?……婚・約・成・立……みたいな?……(〃´ x ` 〃)ポッ)


「わ、わかりました」

「そんだば、おらが付けてやるすけ」

お読みいただきありがとうございます。


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