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第91話 捕らわれの諜報員(1)

 今から一月ほど前のこと…


(怪しいといえば、怪しいが、これが本物なら千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスだ…)


 Der(デア) Geheim(ゲハイム)dienst(ディンスト) des(デス) Großherzog(グロスヘルツォグ)(大公の秘密機関)のネズミ(スリーパー)である20台前半の女諜報員(インテリゲンツ)は、帝国大道(だいどう)団のメイド募集の張り紙を見てこれに応募することを決意していた。


 彼女は、極右団体でもある帝国大道(だいどう)団に、大公家を害するような動きがないかどうか、内部に潜入・監視することを命ぜられていたのだ。


 しかし、これは第一印象で彼女が疑念を抱いたとおり、(わな)だった。


 ネズミ(スリーパー)である女諜報員(インテリゲンツ)は、最大限に警戒し、辺りに注意を払いながらメイドの採用面接を受けた。

 予想に反して、他にも5名ほどの女性が面接を受けに来ており、彼女らは皆が普通の町娘風だった。


(なんだ。意外に普通じゃないか……)


 帝国大道(だいどう)団はならず者集団として知られているから、普通の庶民なら恐れて誰も面接など受けにこないかと想像していたのだが…


 しかし、彼女以外に面接を受けに来た者は、帝国大道(だいどう)団が用意したサクラであった。

 彼女は、見事に(だま)されたのだ。


 そして、予定どおり、彼女は採用された。


 採用されてみると、やらされた仕事は、掃除や部屋の整理など、ごく普通のメイドの仕事であった。

 それから1週間ほど働き、そろそろ信用されたと思われた頃になって彼女は動いた。


 深夜になって、怪しまれないようにメイドの服装で身を固め、幹部の部屋に侵入すると、小さな灯りをたよりに、めぼしい書類がないが物色する。部屋の鍵の在りかは、1週間のうちに把握済みだった。


 しかし…

 突然勢いよく扉が開かれると、複数のならず者たちが部屋になだれ込んできた。


(しまった! 抜かったか…)


 彼女は、スカートをめくりあげると、ガーターベルトに固定して隠していた短刀(ダガー)を抜き、抵抗する構えを見せた。


 だが、複数のならず者の男たちに周りを囲まれ、抵抗もむなしく捕らわれの身となってしまった。


 彼女は拘束され、地下牢的な部屋に連れて行かれる。


 そして、幹部の男が、彼女に邪慳(じゃけん)に言った。


「てめえには、黒幕と潜入の目的をゲロしてもらうからな」

「これでも私は訓練をしている。拷問(ごうもん)されようが、何をされようが話すものか!」


 女諜報員(インテリゲンツ)は、拘束されてもなお強気だ。


 男は、下卑(げび)た笑いを浮かべながら、意味深に言う。


「これは()きのいいことで……期待が持てそうだが……さて、いつもまで持つものやら……見ものだな……」


 拘束された女諜報員(インテリゲンツ)が、エッチな拷問にさらされるのは定番中の定番ではあるが…


 彼女は、いやな予感を覚えた。


 予想に反して、彼女は無理やり口をこじ開けられると、薬のようなものを飲まされた。

 これは、強烈な催淫(さいいん)効果を持つ麻薬だった。これを致死量の限界ぎりぎりまで投与されたのだ。


 間もなく、彼女は異常なほどの体の火照(ほて)りを感じ、意識の混濁(こんだく)を覚えた。


 これで準備万端と見たならず者たちは、彼女を拘束したたまま、複数で寄ってたかって、乱暴の限りを尽くした。


 麻薬の媚薬(びやく)効果はてき面であり、異常ともいえる強烈な刺激を長時間受け続けた彼女は、もはや自我が崩壊寸前となり、麻薬の効果で見える幻覚と現実の区別もつかなくなっていく。


 そして、口走る訳の分からない言葉の断片から、彼女は、Der(デア) Geheim(ゲハイム)dienst(ディンスト) des(デス) Großherzog(グロスヘルツォグ)(大公の秘密機関)のネズミ(スリーパー)であり、帝国大道(だいどう)団に、大公家を害するような動きがないかどうか、内部に潜入・監視することを命ぜられていたことが(うかが)い知れた。


「おい。てめえら。適当に楽しんだ後は、ちゃんと処分しとけよ」

 ……と言い残すと、幹部の男は、これで目的を達したとばかりに、部屋を後にした。


 常識的に考えて、帝国大道(だいどう)団がメイド募集したところで、まっとうな者の応募などがあるはずがない。

 応募があるとすれば、それはほぼ潜入調査員にほかならない。こうして応募してきた者を拘束して、性的乱暴の限りをつくし、挙句のはてに証拠を残さずに惨殺(ざんさつ)することが、彼らの享楽(きょうらく)の一つとなっていた。

 金曜日に、ルードヴィヒが学園から帰宅した後、ローゼンクランツ新宅のドアノッカーがトントンと鳴らされた。

 いつもどおりに、カミラが応対に出る。


 すると、そこには、妖艶(ようえん)な感じの美女と可愛らしくておとなしそうな少女が立っていた。


 妖艶な美女が言った。


「ここはローゼンクランツ新宅だろう。ここにファケルがいると聞いてきたんだが……」


「あの……ファケルさんのお友達でいらっしゃいますか?」

「そんな(ぬるい)い仲じゃない。家族みたいなものだよ」


「承知しました。では、ファケルさんを呼んできますので、応接室でしばらくお待ちください」

「おう。悪いな」


 (しばら)くして、ファケルが応接室にやってきた。

 彼女は、二人の姿を見ると、意表を突かれたとばかりに、目を見開いた。


「エンプーサとモルモンじゃないですか。どうしてここに?」

「冥界にしても退屈でさあ。ヘカティア様にお願いして現実世界に来たってわけさ」


「へカティア様がよく許可されましたね」

「ヘカティア様もこっち側に来たがってたぜ。さしずめ、あたしたちは先遣隊ってことかもしれないな」


「えっ! へカティア様が?」


(確かに(ぬし)様のことをとても可愛がっておられたけれど……本当かしら……)

お読みいただきありがとうございます。


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