第88話 冥界(2)
ルードヴィヒは、悪ガキたちに誘われて、先日、童貞を卒業していた。相手はプロではあったが……
“相手が素人だと大変なんだすけ”という悪ガキの言葉が、脳裏を掠める。
「それなら、よろしく頼む」
そう言うと、ダニエラはルードヴィヒに酒を注いでくれた。
彼女が体を傾けた際に、上衣の深めの襟ぐりから豊満な胸の谷間がのぞいており、思わず目が行ってしまう。
(わざとじゃねぇとは思うが……)
「これにはダークエルフ族秘伝の強壮剤が入っている。全部飲み干せ」
戸惑いながらも、それに応じる。
「……わかった」
飲んでみると、強壮剤の効果は強烈だった。
その夜。ダークエルフ族のいうところの種付け行為をダニエラに行った。
大きな口を叩いていたくせに、なんとダニエラは処女だったのでかなり気を使った。
(責任は問われねぇたぁいえ、素人相手っちぅのも微妙に罪悪感があるのぅ……)
だが、実は、後に責任を問われる事態になることを、ルードヴィヒは、全く想像もできていなかった。
翌日。族長のところへ向かうと冥界への入り口を教えてもらった。
ダニエラが、見送りに来てくれた。
「おまえが私の初めてで良かった。道中、気をつけてな。旦那様」
(なんでぇ"旦那様"って……それを、よりにもよって、クーニィの前でそれを言わんでくれや……)
いつも無粋な表情をしているクーニグンデの表情は、いつもより輪をかけて機嫌が悪かったが、その理由は言うまでもない。
◆
そして、冥界へと至ったルードヴィヒ一行だったが、ルードヴィヒは当惑した。
冥界は、闇に満ちた真っ暗闇な世界だったのだ。
(しゃあねぇのぅ……)
そう思って、魔法で灯りをともそうとしたとき、不意にルードヴィヒの周りが明るくなった。
「お困りのようですね……」
ふと見ると、美少女の精霊が暗闇に溶け込むように佇んでいた。冥精霊・ランパスである。
彼女は、冥界において松明を掲げて照らしてくれるありがたい存在の精霊であった。
「私は、あなたのことを一目見て気に入りました。私と守護契約を結んでくださるのなら、冥界にいる間、ずっと照らして差し上げることができますが……」
そういうことならば、拒否する理由はない。ルードヴィヒは即答した。
「おめぇがいやじゃねぇなら、ぜひお願ぇしてぇ」
「それならば、よろしくお願いいたします」
「そんだば、早速いくぜぇ」
ルードヴィヒは、守護契約の呪文を詠唱する。
「我は求め訴えたり。冥精霊・ランパスよ。願わくは、汝の魂を我とともに在らしめ、我の祈りを聞き、我を守護することを永久に誓約されたまえ。世々限りなき闇の精霊と冥精霊・ランパスの統合の下、ルードヴィヒがこれを乞い願う。かくあれ」
冥精霊・ランパスの体が神秘的な光に包まれ、とりあえずの守護契約は結ばれた。
「仕来りどおり、契約者様から名前をいただきたいのですが……」
「そうけぇ。んーーん……"ファケル"っちぅのはどうでぇ?」
「とても素晴らしいです。私の名前はファケル……」
ファケルは、自分の名前に感銘を受け、余韻に浸っているようだ。
そして、ファケルの灯りを頼りに、様々なアンデッドやバイコーンなどの聖獣を子分に従えていく。
夢幻界のときと同じく、ここでも幾多の困難を退けながら修行を続けた。
特に、エンペラー・ダークナイトの戦いではかなり苦戦したが、なんとかこれを下した。
戦死した戦士の魂は、戦乙女によって選別され、英雄と認められた者はヴァルハラへと導かれる。
ヴァルハラは、北エウロパ神話における主神オーディンの宮殿にある。ここでは戦と饗宴が行われ、週末の日に備えるのである。
ダークナイトは、武術の達人ではあるが、生前の行いから英雄として選別されなかった者が、冥界に落とされアンデッド化したものである。
武術の達人というものは、得てしてオーバーキルに陥りがちであり、これを理由に英雄となれなかった者も多い。
武術の腕前だけを見れば、ヴァルハラへと導かれた英雄たちと同等かあるいはそれ以上のものをダークナイトは持っている。
魔法に関しては、これもまた苦労の末、エンペラー・リッチを下した。
リッチは、魔導士や魔術師だった者が冥界に落とされてアンデッド化したもので、その事情については、ダークナイトと共通したものがある。
エンペラー・リッチは、古代ルマリア時代に活躍した高名な賢者であったが、やはりオーバーキルのためにアンデッド化していた。彼は、冥界に落ちてからも魔術の探求を続けており、その成果は千年以上にわたり蓄積された途方もないものであった。
ルードヴィヒの優秀な才能は、エンペラー・リッチを魅了し、彼は、禁忌中の禁忌である死霊魔術を含む黒魔術を中心に、魔術・錬金術の知識・技術について、持てる全てをルードヴィヒに伝授した。
こうして、ルードヴィヒは、冥界での冒険を着々と進めていく……
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