第87話 予知(2)
カミラは元悪霊で、死霊魔術により、ルードヴィヒの僕として仮の肉体を得ている。
彼女は、肉体から幽体離脱して行動することが可能であり、念動力の力も使える。
その意味では、相手に霊能者がいない限り、安全にスパイ活動ができるといえばできるのだが……
「カミラさんには、こういう仕事はあんまさせたくねぇすけ、そらぁ、最後の手段にしとこうかのぅ」
「Zu Befehl mein Gebieter」(おおせのままに。我が主様)
ヴィムとリヒャルダの仕事は早く、その日のうちにお茶会の場所と日時を特定してきた。
明明後日の日曜日の午後3時から大公女宮の庭で非公式のお茶会が開催され、上位貴族の子息・息女たちには既に招待状が送られているということだ。
残念ながら、下位貴族の三男坊であるルードヴィヒには、招待状は来ていない。
正式な社会デビューは学校卒業後になるが、上位貴族の子息・息女が、このように非公式の会合を開いて、社会的な研鑽を積むことは、一般的に行われていることだった。
翌日の金曜日、ルードヴィヒは学園に登校するとリーゼロッテに声をかけた。
「ロッテ様。おめぇさんとこに、お茶会の招待状は届いてねぇかのぅ?」
「あら? ルード様。どうしてそのことをご存知で? 確かに大公女様からの招待状が届いていますが……」
(こらぁビンゴだったのぅ。さすがに大公女様もツェルター家は無視できねぇってか……)
ルードヴィヒは、予想が当たって、少しホッとした。
「いやぁ……ちっとばかし小耳に挟んだがぁだすけ」
「そうですか。でも、どうされたのですか? 急にお茶会に興味を持つなんて?」
リーゼロッテは、不審げな顔をしている。
(おっと。こらぁ気づかれねぇようにしねぇばのぅ)
「そらぁ、おらもアウクトブルグに出てきた以上は、そういう社会経験を積むことも必要じゃねぇかと思ってのぅ」
「それはそうかもしれませんね……」と彼女は型どおりの相槌を打つが、まだ納得はしていない様子だ。
「そこでお願ぇがあるがぁども、そのお茶会っちぅのはパートナー同伴でもええがぁろぅ?」
そこに至って、リーゼロッテは、意図を察したらしく、顔を真っ赤に染めた。
「そ、それは確かに、可能ならばパートナー同伴でとは書いてありましたが……」
リーゼロッテは、お茶会の参加については、あまり気乗りがしていなかった。
ライバルのコンスタンツェとは馴れ合いたくない思いがある一方、ツェルター家の立場としては、大公家の面子を立てる必要がある。このため、渋々といった気持で参加を決めていた。
だが、ここに至っての急展開である。彼女は、どう対処したものかとドギマギしていた。
「そんだば、おらをパートナーとして同伴させてくれねぇろぅか?」
(キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!! どうしよう。非公式のお茶会とはいえ、パートナーとして名乗りを上げるということは……ほぼ、こ、こ、婚約者に名乗りを上げるに等しい訳で……それにしても、ルード様ったら、そんな重要なことをサラリと言うなんて……小憎らしい……)
リーゼロッテは、突然の申し出に混乱している。
答えぶりも、少々当てつけがましくなってしまった。
「ルード様が"どうしても"というならば、仕方ありませんわ」
「そうけぇ……そんだば、"どうしても"頼むっちゃ」
(な、なんでそんなに軽く言っちゃうのよ!)
リーゼロッテとしては、もう少し恰好を付けたかったのだが、精いっぱいの威厳を込めて言う。
「わかりました。ツェルター家としても、有力家臣のローゼンクランツ家を無碍にはできませんから、仕方ありません。せいぜいお爺様に感謝なさるがいいですわ」
「すっけんこと、わかっってるてぇ……そんだども、ありがとうのぅ」
リーゼロッテとしては、ルードヴィヒが婚約者であると胸を張って言える覚悟などできてはいない。
(これで、ルード様に強引にねじ込まれたという形はできたかしら……)
ふと二人のやりとりに注目していたクラスメイトたちを見ると、皆が生暖かい視線を送っていた。
(モォ(*ノ∀`*)ノャダァァン☆★ やっぱり恰好つけられていないぃぃっ!)
「礼には及びませんわ。忠実な臣下の一族のためですもの」
「そうけぇ……そんだども、そうやってムスッとしとるロッテ様もまた……可愛いのぅ……」
リーゼロッテは、カチンときた。
こちらが照れ隠しのために、必死に演技しているというのに……
「ちょっとルード様。揶揄うなんて酷いですわ」
「いやぁ、おらぁ揶揄ってなんていねぇさ。本気だがんに……」
リーゼロッテの照れは限界を迎え、ついには開き直った。
(モウダメポ……_φ(゜∀゜ )アヒャ もうどうにでもな~れ)
「そうですか……ようやく私の良さに気付くとは……困ったものですわね」
「そらぁ悪ぃかったのぅ。おらぁ在郷っぺだすけ……」
「お茶会に出席して、せいぜい勉強なさるがいいですわ」
「おう。わかったっちゃ」
こうして、ルードヴィヒは、何とかお茶会に出席することに成功したのだった。
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