第84話 裸体画というもの(2)
反対に、世の中の一般男性の圧倒数は、小柄で巨乳な女子が好みらしい。
ルードヴィヒは、裸体画を見ながら、男子たちが寸評するのを聞いているうちに、プランツェを穢されているような気がして、気分が悪くなり、そっとその場を離れた。
すると、そこにリーゼロッテがいた。
彼女は不機嫌な顔で頬をふくらませている。
「ルード様……」
「な、何かのぅ?」
「本当に、男子たちってエッチなんだから……」
「そ、そらぁまあ男の性っちぅか、なんちぅか……」
「お部屋には見当たりませんでしたけど、ルード様もああいう絵を何枚か隠し持っていたりするのですか?」
「おらぁ、ああいうがんは持ってねぇよ」
「本当ですかぁ?」と言うリーゼロッテの白い目が痛い。
「もちろんでぇ」
……と言うルードヴィヒも、事実として持ってはいないものの、そういうものが欲しいという欲求も皆無ではなく、何とはなしに及び腰になってしまう。
リーゼロッテは、軽くため息をついた。
「まあ、そういうことにしておきましょう。持っていたとしても、娼館通いに比べれば、どうということはありませんし……」
「はあっ? 娼館通いって……ロッテ様?」
「あら? ルード様が娼館通いをしていることを、私が知らないとでも思っていましたの?」
「そ、そらぁ……そのぅ……」
(なんか、浮気がバレて妻におっつぁれてるみてぇになっとるが……)
ルードヴィヒは、ふと思いついたことを口にしてしまう。
「おらたち……付き合っとることになっとるんかぃのぅ?」
リーゼロッテは、ルードヴィヒの思わぬ反撃にたじろいだ。
「そ、そんな聞き方は卑怯ですわ。それを女の私に答えろというのですか?」
「まあ、それもそうだのぅ。そんだば、ロッテ様がいやじゃねぇなら、おらたちはつき合っとるっちぅことにしとこうかぃのぅ」
「ルード様っ? そんな強引なあ……」
「そんだば、そういうこって」
ルードヴィヒとしては、庶民街でデートしたことも、その後に自宅で過ごしていろいろとやらかしたことも、全て自分の意にそってやったことだ。よくよく考えてみれば、これはもはや恋人同士がやる行為だと思った。
それに、彼女には自覚がないと思うが、キスもしてしまったし……
それを、今更、「つき合っていない」などと言って、元の木阿弥にするのは、卑怯だとも思う。
もちろん、リーゼロッテ本人がいやではなければという前提ではあるが……
彼女は、明確に否定しなかったし、ルードヴィヒは、この辺ではっきりとさせておきたかったのだ。
「えーーーーっ!」
このやり取りに注目していたクラスメイトたちは、これを二人の”交際宣言”と受け取った。
そして、それをいともサラリと言い放ったルードヴィヒにクラスメイトたちは驚愕した。
リーゼロッテがローゼンクランツ新宅に招かれたことは衆知の事実であり、そこで何があったかは、様々な憶測を生んでいた。
この交際宣言により、クラスメイトたちは、ローゼンクランツ邸でなんらかの既成事実があったことを確信させられた。
しかし、そこにミヒャエルが待ったをかけた。
「おい。おまえ。俺というものがありながら、二股をかけるとはどういうことだ?」
「二股って、おめぇ。おらたちは付き合ってるわけじゃねぇだろう」
「おまえ。あれだけの既成事実を作っておきながら、よくもそんな口がきけたものだな」
「既成事実っておめぇ。あらぁ単にたまたま……」
「あぁぁぁぁっ! このどアホウが! それを口にしてどうするつもりだ!」
「そう言われてものぅ……」
“既成事実”のワードが飛び出して、教室中が騒めいていた。
リーゼロッテもショックを受けているようだ。
「ルード様。どういうことですか? まさか……」
「いやいや。ロッテ様が思っとるようなことは、何もしてねぇすけ」
「では、何だというのですか、胸を張って言えないようなことなのでは?」
「そらぁ、ちっとばかし人前では話しずれぇことで……」
「もう……ルード様なんて知りません!」
……と言うと、リーゼロッテは、痺れを切らせてその場を後にした。
その場は、うやむやのうちに解散となったが、その後リーゼロッテとミヒャエルは、二人でさしで話をしたらしい。
怖くて結果の詳細は聞けなかったが、ミヒャエルが自分にあったことの事実を語ったものの、リーゼロッテも自分の経験を開示して対抗し、議論は平行線のまま決着がつかなかったらしい。
要するに、両者とも”既成事実”といえば”既成事実”があったということだ。
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