第83話 翼竜会誕生!?(1)
翌日。
ヘルミーネは、黒竜会がお礼参りに来るのではと、ソワソワしていたが、その気配はないまま、店の営業は続いていた。
(このまま何もなければいいな……)
ヘルミーネが、そう淡い期待を抱いたとき、店の扉が不自然にゆっくりと開かれた。
そこに、ドサリと太っちょの男が倒れ込んだ。ジェラルドの弟分のフレーデガルである。
フレーデガルは、腹を押さえて「ウンウン」と呻いている。
「大丈夫ですか? フレーデガルさん」
ヘルミーネが思わず駆け寄って声をかける。
それを聞きつけて、ジェラルドとヤスミーネも厨房から出てきた。
フレーデガルが、ジェラルドの顔を見ると、弱々ししい声で言った。
「兄貴。面目ねえ。黒竜会の奴らに腹を刺されちまった……」
どうやら黒竜会は、クーニグンデが強いと見て、本人ではなく、仲間と目される弱い人間に仕返しをしたということのようだ。いかにもならずものらしい卑劣なやり方だ。
呻いているフレーデガルにクーニグンデが近寄ると、冷たい声で言い放った。
「きさま。男のくせにだらしがないぞ。きさまの締まりのない腹の脂肪のせいで、傷は内臓まで届いていないではないか。そのようなかすり傷は、唾でもつけておけば治る程度のものだ。
主様など、腕の1本や2本失っても平気な顔をしておったぞ」
「そんなぁ。クーニグンデさん。それはなんでも冷たすぎますよう……」とヘルミーネが抗議の声を上げるが、クーニグンデは相手にしない。
フレーデガルに近づき、服をめくりあげると、露になった傷口に、自らの唾を塗りたくった。
すると……。
傷口がみるみるうちに塞がっていく。
“毒を制する者は薬をも制する”ということで、クーニグンデの唾にはちょっとしたポーション並みの治癒力が備わっているのだった。
フレーデガル本人を始め、一同は狐につままれたように、ポカンとしてしまった。
時間が止まったような空気を引き裂くように、クーニグンデが口を開いた。
「それより、きさま。聞き捨てならぬことを言っておったな。”黒竜会”とは何だ?」
「それは……俺らと敵対する団体の名前で……」
「なんだと! 奴ら、誰の断りを得て“黒竜”を名乗っている?」
「そんなこと、俺が知るかよ」
「ならば、その黒竜会なる団体の頭目のところへ案内しろ」
「俺たちだけで殴り込みをかけるってか? そんな無茶苦茶なぁ」
「できないと申すか。ならば黒竜に逆らうことの意味を、きさまから教えてやる。まずは、きさまから死ねぇ!」
そこへジェラルドが割って入った。
「ま、待ってくれ。姐さん。俺たちが案内するから。
どの道、フレーデガルの借りは返さなくちゃならないし、それが遅いか、早いかの問題だ」
そこに、テオバルトも駆けつけて来たので、ジェラルド、テオバルト、フレーデガルの3人はクーニグンデを案内して黒竜会の本部へと向った。
◆
黒竜会の本部にたどり着き、建物に入ろうとクーニグンデが進み出ると、門番が誰何した。
「このアマ! 何者でえ? ここを黒竜会と知っての狼藉か?」
「きさま。死にたくなかったら頭目を呼んで来い。3分間だけ待ってやる。我は気が短い故、それ以上は待てないからな」
「なに血迷ったことを言ってやがる。このクソアマがあっ」
と言いながら門番は殴りかかってくるが、クーニグンデが手を一閃させると泡を吹いてぶっ倒れた。
「黒竜会とかいう奴らは頭が弱いのか? それとも黒竜が舐められているということか?」とクーニグンデは独り言ちた。
後ろに控えていたジェラルドたち3人組は、震えあがった。
建物に入り、進んでいると、構成員が次々と出てくるがクーニグンデの敵ではない。彼女が通った後には、泡を吹いてぶっ倒れた男たちが累々と横たわっている。
それでも、まだ次々と出てくるので、クーニグンデは痺れを切らした。行く手の廊下一面に毒の霧を張り巡らす。
すると構成員はバタバタと倒れ、失神している。
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