第82話 最恐ウエイトレス(1)
望んでメイドをやってくれているルークスは別として、クーニグンデとニグルは、冒険を行うときのメンバーであり、下手に格下の地位に置きなくなかったので、メイドやハウスボーイにはしていなかった。
ルードヴィヒが学園に通うことになったため、ルードヴィヒが冒険に出かける頻度は大幅に減っており、結果、二人は暇を持て余すことになっていた。
そのうちに、二人でつるんで鷹の爪のアウクトブルグ駐屯地に行き、傭兵たちを相手に、鍛錬をするようになった。
しかし、まともに二人の相手をできそうなのは、ダリウスかローレンツぐらいのものであり、彼らとて、本気を出したニグルとクーニグンデに太刀打ちできるかは怪しい。
二人の実力を思い知らされた駐屯軍司令官は、鷹の爪への入団を懇願したが、ルードヴィヒの配下である二人は、拘束されることを嫌い、それを許さない。
それでも司令官は粘りに粘り、兵員不足を臨時に補う予備役兵ならばということで、決着がついた。ルードヴィヒにもこだわりはなかった。
しかし、やはり鷹の爪の傭兵たちでは、二人を満足させられないことに変わりはない。
ときおり鷹の爪に顔を出す一方、二人でつるんで、アウクトブルグ近郊の森などで冒険を請け負うようになり、その活動範囲は広がっていった。
二人の活躍は、100匹近くのゴブリンの群れをあっという間に殲滅したり、Sランク相当のサーベルタイガーの群を討伐したりと派手だった。
冒険者ギルドへも登録していたため、ランクもどんどんと上がっていき、現在では二人揃ってAランクとなっている。
冒険者たちは、”二人を処遇するためには、もはやSランクにするしかないのでは”と噂した。
冒険者たちは、そのうちに二人のことを二つ名でこう呼ぶようになった。
"Jetschwarzes Biest"(漆黒の獣)と……。
ルードヴィヒが、当てにしたのは、クーニグンデである。
ルードヴィヒは、クーニグンデに、本来の趣旨を包み隠さずに伝え、三毛猫亭で働いてみないかと打診してみた。
クーニグンデは、落ち着いた表情で言った。
「主様は、その雌姉妹をいずれハーレムメンバーに加えるおつもりなのですか?」
(まぁた雌扱いけぇ……こらぁ言い方を考えんば、容易じゃねぇことんなるのぅ……)
「そういうわけじゃねぇども、おらが懇意にしてる店だすけ、経営が傾いてもらっちゃあ困るっちぅことんがぁてぇ」
「つまり、ハーレムメンバーにするかは未確定だが、主様の縄張りで保護している雌たちにちょっかいを出す不届き者を成敗せよというご命令で?」
「割り切ってしまえば、そういうことんなるかのぅ」
「承知いたしました。それらの雌たちを保護するのも序列第一位の雌の務めであると心得ます」
「そんだば、よろしくのぅ」
(とりあえずは怒られずに済んだども、大丈夫かのぅ……薬が効き過ぎねぇばええが……)
だが……
「まあ……Es kommt wie Es kommt……」(なるようになるさ……)
その翌日……
「いらっしゃいま……」
三毛猫亭の扉が開き、訪れた女性に来店時の挨拶をしようとしたヘルミーネは、その姿を見て硬直した。
その女性は、背に大型の大剣を背負った完全武装の姿だった。
「あのう……もしかしてルードヴィヒさんが言っていたクーニグンデさんですか?」
「そうだが」
クーニグンデは、違和感に全く気付いていない。
「ウエイトレスをしていただけると聞いていたんですけど、その大剣はいったい……」
「何か問題でもあるのか? 我は不埒な行為を働く不届き者を成敗せよと命じられてきたのだが……」
「いえ。不届き者といっても、ただのお客さんで、武装したりしていませんから」
「なんと、そうなのか。武装もしていない相手に不埒を働かれて泣き寝入りとは、其方ら姉妹も世話が焼けるものだな」
「はあ……そこはまだアマちゃんなので、すみません」
「何も謝ることではない、主様の縄張りで保護されている雌を守るのも、ハーレムの序列一位である我の務めなのだから」
「はいっ?」
いきなり露骨な言葉を聞かされたヘルミーネは、意味がわからない。
「其方ら姉妹も、主様のハーレム入りを目指しているのだろう?」
「確かに私もお姉ちゃんも、ルードヴィヒさんのことが大好きではありますけど……」
「ハーレムの序列は、強さだけではなく、雌としての魅力で決まる。ハーレムメンバーになりたければ、せいぜい女を磨くことだな」
「はあ……」
ヘルミーネは、歯に衣着せぬクーニグンデの言葉を完全に理解はできなかったものの、不思議とその言葉に感銘を受けていた。
そこにジェラルドとヤスミーネが厨房から出てきた。
ジェラルドは、ルードヴィヒの考えならばと、厨房で手伝いをしながら様子を見ることに、ひとまずは同意していた。
「おまえが主様の弟分というジェラルドか?」
「そうだが、おまえこそ兄貴の何なんだ?」
「我は主様のハーレム序列一位のクーニグンデだ」
「何だそれは? 要するに兄貴の女っていうことか?」
「おまえらの言葉で言えば、そういうことになるな」
「そうなのか? 俺は、この間連れ歩いていた貴族の嬢ちゃんがてっきり兄貴の本命かと思っていたんだが……」
「あのような者など、ハーレムメンバーに入ってすらいない。ただの候補に過ぎぬ」
「そうですかい。兄貴の女っていうからには、”姐さん”と呼ばせてもらいやすぜ」
「ならば、勝手にしろ」
そこで、一段落したと見て、ヤスミーネが口を開いた。
「申し訳ないのですが、ウエイトレスは、この制服を着ていただくことになっていまして……」
ヤスミーネは、制服を恐る恐るクーニグンデに渡す。
クーニグンデは、それを淡々と受け取ると言った。
「ウエイトレスなるものも、なかなか面倒なものだな」
「お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
クーニグンデに、店の2階で着替えを済ませてもらい、降りてきたところで、ヘルミーネはため息をついた。
クーニグンデは、女にしては背が高くスタイルも良い、黒髪で切れ長の目のエキゾチックな美人であり、まるでファッションモデルのようだ。
ウエイトレスの制服は、客にちょっとだけサービスするため、ミニとまではいわないまでも、膝上より少し短めのスカートである。
膝上までのぞいているクーニグンデの足は、普段鍛えていることもあって、引き締まっており、そこが健康的な美しさを感じさせる。
(これは……男の人が黙ってはいないわあ……)
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