第8話 村の惨劇(2)
戦闘が終わると、どこに隠れていたのか、ハラリエルが姿を見せた。おおかた空中にでも逃れていたのだろう。
「ルードヴィヒ様。3つめの目を見せてくださいよぅ」
ハラリエルは開口一番、こう言った。
「はあ? 何言ってんでぇ。 すっけんもんある訳ねぇて」
超絶技巧で知られる天才ピアニストで作曲家のリストは、熱狂的なファンから「6本目の指を見せてください」とせがまれたという逸話がある。その時のリストは、今のルードヴィヒと同じような心持ちとなったに違いない。
「は~ん。さては隠してますね。私、見てましたよ。目が2つしかないのに、あんな動きができる訳ありません……。
あっ! わかった。ルードヴィヒ様の目は、実は昆虫みたいな複眼なんでしょう! ふっふっふっ。私の目はごまかせませんよ」
「なに馬鹿なこと……戦闘のときゃぁ、主に闘気と魔力の動きで気配を把握しとるすけ、目にぁあんま頼ってねぇだけでぇ」
「ふ~ん。今はそういうことにしておきましょう。でも、いつか必ず見つけ出してみせますからね」
ルードヴィヒは、ここで話題を変える。
「今はすっけん馬鹿っ話しとる暇はねぇ。生存者がいねぇか確認することが先でぇ」
それを聞いていたライヒアルトは、申し訳なさそうに言った。
「手伝ってくれるか?」
「もちろんだこっつぉ。皆、手分けして探してくれや」
「「承知!」」
ニグルとクーニグンデは素早く行動を開始した。ハラリエルもワンテンポ遅れたと、慌てて探索を開始した。
ルードヴィヒは、倒れている者を見て回るが、皆、手遅れだ。
(まちっと早く発見しとれば、なんとかなったがんに……)
ルードヴィヒは、口惜しい感情でいっぱいとなっていった。
そこでハラリエルが叫んでいる声が聞こえた。
「ルードヴィヒ様ぁ。ここに誰かいるみたいですぅ」
ルードヴィヒが駆け付けると、そこには農機具小屋のような粗末な小屋があった。
「鍵がかかっているみたいで、開かないんですぅ」
そこに、ライヒアルトが遅れて駆けつけて来た。
小屋の扉を守るように倒れている二人の遺体を見て、彼は力なく言った。
「親父……お袋……」
だが、二人は一見明白に手遅れな状態だった。
彼はすぐさま気持ちを切り替えると、小屋の扉に向かった。
「この中に誰かいるんだな?」
そう言うなり、ライヒアルトは強引に小屋の扉を開けようとする。だが、粗末な小屋の割に頑丈で開かない。
そしてはやる気持ちから、強引に扉をぶち開けようとしたとき……。
「待て。おらが開けるっちゃ」
ルードヴィヒが、目を閉じ、何かを念じると、「カチャリ」と音がした。扉の鍵が開いたのだ。
ライヒアルトは不思議に思ったが、問い詰めている暇はない。
彼は勢いよく扉を開ける。
中には、背中に大きな傷を負い、血まみれでうつ伏せに倒れている少女の姿があった。歳の頃は10歳前後くらいだろうか?
彼女は、微かに息をしているようだった。
ライヒアルトは少女に駆け寄ると抱き起し、声をかけた。
「おい。ゲルダ。しっかりしろ。目を開けるんだ……くそっ! ダメか」
ライヒアルトは、ルークスに向き直ると懇願した。
「そこの治癒士さんよう。何とかしてくれよ。ゲルダは俺の妹なんだ。このままじゃ妹が死んじまう」
「わかりました」
ルークスは、ゲルダに近づくと治癒魔法をかけようとした。だが……。
彼女は悲しそうな表情で、ルードヴィヒに囁いた。
「主様。血が失われ過ぎて体力がほとんど残っていません。このまま治癒魔法をかけたら、かえって死期を早めてしまいます」
「そうけぇ……」というなり、ルードヴィヒは考え込んだ。
それも束の間、ライヒアルトが叫んだ。
「おい。ゲルダしっかりしろ!」と言いながら、彼はゲルダを激しく揺すっている。
「どうしてくれるんだ! おまえらがもたついている間に、死んじまったじゃないか!!」
どうやら彼女の呼吸が停止してしまったようだ。
お読みいただきありがとうございます。
気に入っていただけましたら、ブックマークと評価・感想をお願いします!
皆様からの応援が執筆の励みになります!





