第77話 ニュンペーたち(2)
そして、フェルセンに確認する。
「もうええかのう?」
「あとは、泉や川なんかの水回りも必要だね。ナーイアスとカメーネなんかどうだい?」
「おぅ。わかったっちゃ」
(なんか婆さ、調子に乗ってねぇか……?)
そして、泉精霊・カメーネのブルーネと川精霊ナーイアスのフリーセンを一人ずつ召喚したのだが、同様に苦言を言われ、なだめるのに一苦労だった。二人とも美少女の精霊である。
やはり薄絹一枚の姿で、服を着させるのに苦労した。
そして、ルードヴィヒがフェルセンに向かって「もうええかのう」と言いかけたとき、召喚してもいないのに、唐突に少女の精霊が姿を現わした。トネリコの木の精霊・メリアスのエーシェである。彼女もまた、薄絹一枚の姿だ。
「主様っ! 酷すぎるにも程があります。私のことを忘れるなんてぇぇっ!」
彼女は激怒しており、いきなりルードヴィヒの腕にガブリと噛みついた。
「痛ってぇ!」
ルードヴィヒは、彼女を引きはがすと、強引にハグした。さながらボクシングのクリンチである。
が、エーシェは、興奮が収まらず、ハアハアと荒い息をしている。
(しゃあねぇのぅ……こうなっちぁ緊急手段でぇ)
ルードヴィヒは、ハグしたまま、エーシェに自分の魔力を流し込む。
「………………はぅーっ……主様の魔力……気持ちいい……」
「ちったぁ落ち着いたようだのぅ」と言うと、少し安心したルードヴィヒ……だが、しっかりと魔力は流し続けている。
そのうち、エーシェは紛らわしい声をあげ始めた。
「……ハァン……イヤッ……ァッ……ンッ……モぅ……ダメッ……」
そのうちに、エーシェの膝はガクガクと笑い始め、そのままうずくまってしまった。
ちょっとやり過ぎたかと反省したルードヴィヒが声をかける。
「悪ぃ悪ぃ。ちっとばかし、やり過ぎたかぃのぅ」
「もぅっ! 私にこんな恥ずかし声を出させるなんて……主様のバカッ!」
エーシェは、むくれているが、先ほどのような激怒は収まったようだ。
「すっけんこと言っても、おめぇがあんまり可愛い声を出すもんだすけ……」
「だって……私がもうイヤって言ったのに……主様ったら……熱くたぎったものを……強引に私の中に……」
「はぁ? おめぇ……それを人が聞いとったら絶対ぇ誤解するすけ……」
「だってぇ。主様が全部悪いんですよぅ。本当にイジワルなんだからぁ!」
「いやぁ……別にイジワルっちぅつもりじゃぁ……」
「この間だって、私の目の前で人間の女の娘と腕なんか組んでイチャイチャしちゃって……わざと見せつけたんでしょう!」
「はあっ? おめぇ、見てたんけぇ」
「バカァ! 主様のドS! 知っててやったくせにぃ!」
そこでフェルセンが口を挟んできた。
「いい加減にしてくれないかねぇ。こんな痴話喧嘩は、年寄りの目には毒だよ」
「わかったてぇ。んなら、エーシェ。皆んとこへ行くぜ。そん前に服を着替えるがぁぜ」
「ええーっ」という不満の声とともに、口を尖らせるエーシェ……。
「そっけな奴にぁ、もう魔力はやらんからのぅ」
「もーぅっ。主様のイジワル!」と言いながら、エーシェはいやいや服を着ている。
ルードヴィヒは、不満の穴埋めにエーシェの肩を抱くと、二人で屋敷へと向かった。
道すがら、エーシェは意外なことを告白した。
エーシェは、もともとヴァレール城の庭に生えていたトネリコの古木に宿っていたのだが、ルードヴィヒのことを想うあまり、少し前にアウクトブルグのローゼンクランツ新宅のトネリコの木に引っ越してきたらしい。木としては、こちらの方がずっと立派なものだった。
そして、そのトネリコの木は、世界樹の種から生えてきたものだというのだ。
「ああっ? そらぁ、本当けぇ?」
「そんなに驚かなくても……別に世界樹の子孫といっても、世界中のいたるところに生えている、ありふれたものだもの」
「なんでぇ。そっけなもんなんけぇ……」
実は、エーシェの自己評価は控えめなものだった。
トネリコの木といっても、精霊が宿るような古木となると数は限られてくるし、まして、その精霊が上位精霊に昇格することなど極めて稀なことだ。
その意味では、エーシェが宿ることとなったローゼンクランツ新宅のトネリコの木は、次期世界樹の候補といって良かった。ただ、そうなるのは何万年先か、何億年先か知れたものではなかったが……。
お読みいただきありがとうございます。
気に入っていただけましたら、ブックマークと評価・感想をお願いします!
皆様からの応援が執筆の励みになります!





