表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

146/259

第76話 魔女のサバトの呪い(2)

 ルードヴィヒが命じると、ナイトメアは「ヒヒーン」と甲高(かんだか)くいなないた。


 拘束された老人は強制的に悪夢を見せられ、「ギャー」と悲鳴を上げながら、全身から冷汗をかいている。


 しばらくして、ルードヴィヒが「パチン」と指を鳴らすと、老人は夢から覚めた。ハアハアと荒い息をしている。


「さて……どうでぇ?」

「……………………」


 老人はそっぽを向いて無視している。


「言っとくが、さっきから5分しか経ってねぇからのぅ」

「嘘をつけ。半日は経っているはずだ」


「そらぁ、夢を見ていたおめぇの感覚だろ。現実には5分だすけ」

「そ、そんな……」


「まだ、足りねぇようだのぅ。やってくれや」

 ……とルードヴィヒが再び命じると老人は再び悪夢にうなされ始めた。


 人間にとって怖いものとは一つとは限らない。それを手を変え品を変え見せられているのだろう。


 そのうちに鳥肌が立ち、股間を熱いものが濡らした。

 口はだらしなく半開きとなり、(よだれ)が垂れて床を濡らしている。


(こらぁ、どんだけ怖い夢を見せられとるんでぇ。ナイトメア……おそるべし……)


 再びルードヴィヒが指を鳴らすと老人は目覚めた。しかし、意識は朦朧(もうろう)としているようだ。


「さて、また5分経ったども、どうでぇ?」

「本当に……5分……なのか?」


てっぽ()こいても、しゃあねぇろぅ」

「……………………」


「よっぽど楽しい夢みてぇだのぅ。そんだば、サービスしてもう一度……」

「ま、待ってくれ。話す。何でも話すから……」


 老人の話によると、黒幕は薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)という秘密結社だった。

 更に問い詰めると、オークを使ってリーゼロッテを襲撃したことも白状した。


 ルードヴィヒは、ツェルター家と密かに連絡を取り、黒幕等の情報とともに、老人の身柄を同家に引き渡した。

 自分が狙われたと不安にさせたくなかったので、もちろんリーゼロッテ本人には秘密のうちに事を進めた。


 ツェルター家の者は、老人の身柄を引き渡しに来たルディに対し、不思議そうに問うた。


「この者も相当な腕の魔導士(ウィザード)のはずなのですが、それを何の苦もなく捕らえたあなたは、本当は護衛騎士か何かなのでは?」

「いえ。Es(エス) ist(イストゥ) nur(ヌア) ein(アイン) Butler(バトゥラー)lehrling(レアリン)」(あくまで執事見習いですから……)


     ◆


 その日。

 リーゼロッテがローゼンクランツ新宅を訪れるとルードヴィヒは、何食わぬ顔で庭へと案内した。


 リーゼロッテは、ブラックベリーの実がたわわになっている様子を見て、無邪気にはしゃいだ。


「わーっ。凄―い。こんなになってるんですね」

「増えすぎると困るすけ、どんどん取ってくれや」


jawohl(ヤーヴォル)! mein(マイン) herr(ヘル)!」(かしこまりました! 上官殿!)

 ……と言うと、リーゼロッテは、敬礼をした。軍人の真似(まね)をしたようだ。


「ぷっ。なんだ、そらぁ。似合ってねぇのぅ」


 あまりに可愛らしくてルードヴィヒは思わず噴き出した。


「そんな~ぁ。笑わないでくださいよぅ。これでも練習してきたのにぃ」

「すっけんこと練習せんでも、ロッテ様は、おらが守ってやるがんに」


「……………………」


 何気(なにげ)なく言ったその言葉は、むろんルードヴィヒの本心であるが、思いのほかリーゼロッテのハートを射抜いたようだ。彼女は、言葉を失い、無言のまま真っ赤になって照れている。


 そんな彼女を見ると、ルードヴィヒは思うのだ。


(こんなロッテ様を狙うたぁ……薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)とやらは万死に値する……)


     ◆


 マルク・フォン・ツェルターは、リーゼロッテが再び狙われたとの報告を受け取って青くなった。

 そして、激しく歯噛みをした。


「冗談ではないっ! またもやローゼンクランツ翁の孫に助けられるとは!」


 しかも、彼は、仇敵(きゅうてき)薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)であるという情報までも引き出して見せたのだ。


「リーゼロッテを最も守るべき立場の私がこのざまとは、笑えるな……」


 側近が慰めの言葉をかける。


「奴は規格外の化け物なのです。それと比較する方が間違っています」


 マルクは、かえってその言葉に気分を害したようだ。


「"規格外"などと戯言(たわごと)を……できないことの理由を探してどうする。

 私は強くならねばならない。今度こそ私の手で娘を守るのだ。三度目はない」


「奴に追いつけますか?」

「君、私を誰だと思っているのだ?」

お読みいただきありがとうございます。


気に入っていただけましたら、ブックマークと評価・感想をお願いします!

皆様からの応援が執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ