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第75話 薔薇十字団の陰謀(2)

 しかし、ルディは自分の仕事もこなさなければならないし、おそらくは彼女らが事を起こすとしても、深夜だ。

 ルディは、いったんローゼンクランツ新宅へ戻り、大急ぎで仕事を片付けると、夕食後に戻ってきた。


 人々が寝静まる深夜になって、魔女たちは(ようや)く動き出した。

 彼女たちは、大きな魔法円を書き始め、その様を真っ黒なローブを着た老人男性が監督している。


 ルディは、その魔法円を見て驚いた。


(あれは……“魔女のサバトの呪い”か!?)


 地獄の主であるルシファーに捧げる魔女のサバトの呪いは、13人の魔女が(そろ)って行うもので、魔女の呪いの中で最も強力な部類のものである。


 そこまでとなると、狙いは魔術的結界が張り巡らされた貴族の類だと思われる。だが、あの最強の呪いならば、大公宮の魔術結界でさえ突破しかねない。


(どうする?)


 ルディは、今更ながら、ルードヴィヒの出馬を乞うべきだったかと後悔した。なまじっか、主人に(わずら)わしい思いをさせたくないと気を使ったのが間違いのもとだった。


 ルディもルードヴィヒに肉薄するほどの戦闘力を備えてはいるが、13人ものウィザード級の魔女が相手となると容易ではない。


 その間にも、魔女たちは、生贄(いけにえ)のヒキガエルの胸を切り裂いて心臓を取り出し、血を青銅の容器に注いだ。


 そして、手をつないで“悪魔のダンス”を踊り、生贄の心臓と血を捧げて悪魔ルシファーへの呪文を唱えた。


我らは求め訴えたり(エロイムエッサイム)。ミネ ゴムリニ ワヤゲバ オッホズギヨ ォプネムケホ ギウヂ ニバ ダナギトェ セパヨヅ ニピァググボ ェソレナゴ ナユィウベケ ユニツ ホ ヂチセパプベ ゥペ コベダヴ ヅトソゲセコミ グマキ ナモラレルゾ ォキウヤクギカ ドゴボヅグシ アホナッツィ ィコ ネゲゾチ ノゲル オム チ=サ=ァソメ ジサ テサゼシグ ソロィ ダタムズ・ク ユマ 邪悪で傲慢(ごうまん)なる地獄の(あるじ)ルシファーよ。今日(こんにち)(なんじ)の魂を我らとともに()らしめ、我らの祈りを聞き、汝に従う意思を高からしめ、ここなる呪いの秘薬をもって、リーゼロッテ・フォン・ツェルターを呪い殺せしめる機会に、我らの譎詭(けっき)の根源を行使することを助けたまえ。世々限りなき闇の精霊王(レキセテレブラヌム)闇の精霊スピリトゥス・テーネブリスの統合の(もと)、実存し、君臨するルシファーを通じ、我ら13魔女がこれを乞い願う。かくあれ(アーメン)


 呪いによる呪詛(じゅそ)のどす黒い念がツェルター邸の方向に飛び去っていくのがルディには見えた。だが、それは不思議と思っていたよりも弱いようにも感じられる。


("リーゼロッテ様"だと! 何ということだ! 大事に至らなければ良いのだが……)


 ルディは、ターゲットとなったツェルター邸の魔術結界が呪いを(はじ)くことを期待するしかなかった。


     ◆


 ルードヴィヒは、この夜、気分が落ち着かず、眠れなかったため、マリア・テレーゼから習った魔法をメモしたものをチェックしていた。


 だが、突然に気分が悪くなり、心の奥底からどす黒い邪悪な感情が湧き上がってくる感覚を覚えた。


んのっくそっ(こん畜生)! こらぁ……呪いか?)


 一瞬、自分に対して呪いが向けられたのかと考えたが違うようだ。むしろそれは逆で、自分が持っている闇の能力を引き出そうと乞い願うものだ。

 自分の意思とは裏腹に、邪悪な感情は抑えがたく、闇の力が自分の体から染み出ていくのを止められない。


(こん、くそったれがぁ!)


 危機感を覚えたルードヴィヒは、自らに向かって聖化(サンクティファイ)の魔法を全力で放った。ルードヴィヒの部屋が太陽のように明るい光で満たされ、それは邸外まで漏れ出た。


 これにより、ルードヴィヒの闇の力の解放は、なんとか途中で中断することとなった。


 力を使い果たしたルードヴィヒは、もはや体に力が入らなくなり、その場にドサリと倒れた。

 彼の表情は苦悶(くもん)(ゆが)んでいる。それは、あたかも光と闇の力が、彼の体のなかで今も覇権(はけん)を争っているようにも見える。


 程なくして、異変を察知したユリアがルードヴィヒの部屋に飛び込んできた。


 彼女は、倒れ込んでいたルードヴィヒの姿を見て、これに駆け寄ると叫んだ。


「ルーちゃん。なじょしたがぁ?」


 苦悶の表情をしていたルードヴィヒは、それで正気に戻ったようだ。が、その顔色は、真っ青だった。


「あちこたねぇ……大丈夫んがぁて……」

「あちこたねぇって……おめぇ……」


 ユリアは、ルードヴィヒを立ち上がらせると、彼のベッドへと向かった。ルードヴィヒをベッドに寝かせると、いつもの彼女らしからぬ優しい声で言った。


「ルーちゃん。今日は、昔みてぇに、おらが添い寝してやるすけのぅ……」

「おぅ。(わり)ぃのぅ……」


 そう弱々しく言うと、ルードヴィヒは直ぐに寝入ってしまった。

 ユリアは、添い寝をすると、ルードヴィヒの頭を慈愛(じあい)深そうに()でながら、その寝顔を飽きもせずに一晩中見守っていた。


 ルードヴィヒは、ぼんやりとした意識の中で考えた。

(なじょしておらの闇の力が乞い願われる? おらぁ悪魔なんか……?)

お読みいただきありがとうございます。


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