第73話 Sleeping beauty(1)
そのまま草地を歩き、ウサギの巣穴から離れる。
「さぁて……」と言うと、ルードヴィヒは、やおら靴を脱ぎだした。
「えっ? 何してるんですか?」
「草の上を裸足で歩くと気持ちええがぁよ。ロッテ様もやってみらっしゃい」
さきほど素足を見られているので、恥ずかしさはない。
リーゼロッテは、素直に裸足になって、草地を踏みしめる。
「わあ。ヒンヤリとして、気持ちがいいです。草の感触も気持ちいいですね」
そのまま調子に乗って、リーゼロッテは、草地の上をピョンピョンと跳ねまわっている。
(ハハッ。どこの子供でぇ……)
ルードヴィヒは、それを横目で見ながら、草地にゴロリと横になり、寛いだ。
それに気づいたリーゼロッテが駆け寄ってくる。
「なに一人で寛いじゃってるんですかぁ」
「いやぁ……こうしてると気持ちがええがぁよ。ロッテ様もやってみらっしゃい」
リーゼロッテは、ルードヴィヒの横に並んでゴロリと横になった。
「ああ。本当だ。気持ちがいいですね」
「そらぁそうだのぅ……」
会話が続かない……だが、リーゼロッテの気持ちに焦りは生じなかった。
アウクトブルグの町への道中、ルードヴィヒの傍らでゆったりと過ごした時間が懐かしく思い出された。
リーゼロッテは、そっと目をつぶると、のんびりとした気分で持ちのよさを味わうってみる。
横たわった地面はヒンヤリとしている。太陽は既にかなり傾いており、その柔らかな日差しがまた心地よい。
庭の木々をわたってくるそよ風が爽やかだ。その木々から、聞こえる野鳥たちのさえずりが天国の調べのようにも思える。
リーゼロッテは、あまりの気持ちよさに、そのまま寝入ってしまった。
ルードヴィヒもしばらく寛いでいたが、何とも言えない甘い匂いを感じ、ハッとした。
そよ風がいたずらして、リーゼロッテの体の匂いを運んできたのだ。それは、大人の女の成熟したものではなく、この年頃の少女にしか発することのできない若い息吹のようなものを感じさせた。
ふと彼女を見ると、寝入ってしまったようだ。その無防備な顔もまた可愛らしくて、愛おしく、思わず近づいて見入ってしまう。
ルードヴィヒは、衝動に駆られ、更に顔を近づけると、彼女の唇に、チュッと触れるだけのキスをした。
(きゃぁぁぁぁぁっ! 今度こそ、本当にキスされちゃったぁぁぁっ!)
実はそのとき、リーゼロッテは、目覚めていた。
女というものは、男のふしだらな視線を感じる能力があるというのは、本当らしい。
彼女は、ルードヴィヒの熱心な視線を肌で感じ、覚醒していた。
だが、あまりに濃厚なその気配に、真正面から応える勇気がもてず、寝たふりをしていたのだった。
リーゼロッテは、気持ちの納まりがなかなかつかないまま寝たふりを続け、しばらくすると「ウゥン」とさも今起きたかの声を発し、目を開けた。
「(*^.^*)エヘッ。寝ちゃってたみたいですぅ」
「気持ちよさそうだったのぅ」
リーゼロッテは、一瞬、キスのことかと思い、ドキリとしたが、そんなはずはないと思い直した。
「はい。とっても」
「そんだば、そろそろ戻ろうかのう」
二人は再び腕を組むと、屋敷へと戻って行く。
リーゼロッテは、体を密着させてきて、頭もルードヴィヒの肩に預けてくる。
(またけぇ。女衆は、くっつくんが好きだぃのぅ……)
……と思いながらも、ルードヴィヒもやはり悪い気はしていない。
かたわらで、ひときわ高いトネリコの木の梢がカサコソと騒めいた。
おそらくそよ風のしわざであろうそれは、遥か高みから二人を見守っていたトネリコの木が、少しばかり心を乱したかのようにも見えた。
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