第69話 淑女の苦労(2)
せっかくの厚意を無碍にしたかと、少し悪くも思ったが……
(もしや……下心があってのことでは?……まさかね……でも、いちおう確認してみようかなぁ……)
「あのう……ルード様は……そのぅ……女の人の足やおしりが、好きなのですか?」
「ん! そらぁ、男衆が女衆の足が好きんがぁは当たり前でねえけぇ。若ぇ女衆のカモシカのようなスラリとした足もええし、程ええ肉付きをした大人の女衆の足も魅力的んがぁよ。形のええ桃尻もたまらんしのぅ」
(いったい何なの? 男の人の、そのこだわりは!)
リーゼロッテは、男性が、自分の足や尻をそんなこだわりを持って評価していると思うと恥ずかしさでいっぱいとなった。
(でも……その上で、ルード様は、あたしの足が綺麗と言ってくれたのよね……)
リーゼロッテは、ちょっとだけ自画自賛した。
だが、完全に納得はできない。
「そんな目で女性を見るなんて、男の人は不謹慎ですわ」
「すっけんこと言っても、女衆も短ぇスカートなんか履いて、ことさら足を見してるでねぇけぇ」
「いや……あれはファッションの一環で、ことさらに見せているわけでは……」
……と言いつつ、リーゼロッテは、自信がなくなった。
意識的ではなくとも、無意識のうちに、そういう意図が働いていないと言い切れるのか?
それに、自分はそういう勇気がないが、ミニスカートを履いている女性を見ると、そういう意図があるようにも思えてしまう。
「まあ……そういうことんしとこぅかのぅ」
ルードヴィヒは、これ以上この議論を続けるつもりはないようだ。
だが、リーゼロッテは、やめればいいのに、ちょっとしたいたずら心を起こしてしまった。
「それでは、手はどうですの?」
演技っぽく、女王様のように横柄な態度で手を差し出す。
手ならば、いつも露出している部位なので、恥ずかしくはないと思ってのことだったが……。
予想に反して、ルードヴィヒは、女王様の忠臣であるかのような慇懃な態度でリーゼロッテの手を取ると熱烈な感じで言う。
「ロッテ様の手も、前々から綺麗だと思ってたがぁぜ。指はスラリと伸びて関節の形も綺麗だし、爪も綺麗に輝いとるろぅ」
ルードヴィヒは、リーゼロッテの手に顔を近づけ、キスでもしそうな勢いだ。
(ちょ、ちょっと待って!)
リーゼロッテは、急いで手を引っ込め、早速苦情を言う。
「まったくもう……手も足も好きなんて、ルード様はおかしいんじゃないですか?」
「そらぁ、他ならぬロッテ様の手や足だすけ……」
("だすけ"……何なのよ!)
「もう、ルード様のことなんて、知りません!」
……と言うと、じれったくなったリーゼロッテは、プイッと後ろを向いた。
それにより、リーゼロッテの長く伸ばした淡い色の金髪が嫌でもルードヴィヒの目に入って来る。
「ロッテ様は、髪も綺麗だぃのぅ……」
何か気配を感じて、リーゼロッテが振り返ると、ルードヴィヒはリーゼロッテの髪を一束手にしてじっと見入っている。すると、そのまま髪にそっと口付けをした。
それを見ていたリーゼロッテは、髪には触覚がないにもかかわらず、何か甘美な感覚を覚えてしまった。途端に、恥ずかしさから顔から火が出る思いがした。
(きゃぁぁっぁっ! キ、キスされちゃったぁ!……でも、いちおう苦情は言っておかないと……)
「ル、ルード様。髪とはいえ、いきなりキスするなんて……」
「おぅ。悪ぃかったのぅ。あんまし綺麗だったすけ、つい衝動的に……」
「もう……今度から、気をつけてくださいね」
「お、おぅ。わかったっちゃ」
「…………………………」
リーゼロッテは、まだ恥ずかしさが収まらず、黙りこくってしまった。
それは、ルードヴィヒも同じな様子だ。
そして、男性は、女性のことを、髪の毛一本から足の爪の先まで細かくチェックしているものであることを、リーゼロッテは思い知った。それも、少なからぬふしだらな感情をもってである……。
(まったく、一人前の女として、身だしなみも含めて、きちんと生きていくって大変なことなのね。それも、上級貴族ならばなおさらだわ……)
それを考えると、少し気が重い。
「とにかく、この話は終わりにしませんか?」
「そうだのぅ。男と女の話は始めたら切りがねぇすけ」
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