第68話 マッサージ(2)
そして、ルードヴィヒは、もう片方の靴も脱がしにかかった。
もはやまな板の鯉とばかりに、リーゼロッテは抵抗しなかった。
左足の靴擦れも治癒で治すと、ルードヴィヒは、さりげない感じで言った。
「ロッテ様。だいぶ歩いたすけ、足が疲れたんでねぇけぇ?」
「ええ。少しだけ……」
「そんだば……」
ルードヴィヒは、物体引き寄せの魔法で、浴場から風呂桶を取り寄せた。
突然目の前に現れた風呂桶を見て、リーゼロッテは意味がわからず、ポカンとしている。
さらに、ルードヴィヒは、火・水魔法をミックスして発動し、風呂桶にぬるま湯を張った。
リーゼロッテは唖然として見ているしかなかった。
目の前でポンポンと起きていることは、おそらく魔法によるものと思われたが、すべてが無詠唱なので、何か奇跡が起きているようにも見えてしまう。
(これって……さりげなくやってはいるけれど……途轍もない高度な魔法なのでは?)
そんなことをボーっと考えていると、ルードヴィヒに声をかけられた。
「そんだば、ロッテ様。風呂桶に足を浸けてみらっしゃい」
「そうか! 足湯ということですね。どうもありがとうございます」
リーゼロッテは、風呂桶に足を浸ける。
とても気持ちがいい、疲れが抜けていくのが感じられる。
「じゃあ、おらが足を洗ってやるすけ」
「えっ! いや……そんな……」
戸惑っている間に、ルードヴィヒは足を洗い始めてしまった。
ルードヴィヒは、足の指一本一本の間まで、丁寧に指で汚れを落としていく。
(うわぁぁ! これはこれで超恥ずかしいんですけど……)
意識するほど、素肌に触れられる感覚がなまめかしい。
見ていられなくなって、思わず目をつぶったが、却って触られている感覚が冴えてしまった。
(もう! どうしろっていうのよ……)
長くも短くも感じられる時間が過ぎ、ルードヴィヒは、乾いたタオルでリーゼロッテの足の水滴を拭き取った。
これで終わりかと思うと、リーゼロッテはため息がでそうになった。
すると……。
「さぁて……」と言うなり、ルードヴィヒは、やおら部屋にあった机の引き出しを開け、ゴソゴソと何かを探し始めた。
(まだ、何かあるというの……)
リーゼロッテは、期待と不安が入り混じった不思議な気持ちで、それを見守った。
目的の物を見つけ出して戻ってくると、ルードヴィヒの手には、細長い紡錘形をした木片が握られていた。
(あれは……何?)
「あのう……これから何を?」
「ああ。これで足裏のツボを押すがぁてぇ。ちっとばかし痛ぇども、やり終わったら疲れが取れて気持ちよくなるすけ」
足ツボマッサージの何たるかを知らないリーゼロッテは、素直に返事をしてしまう。
「そう……なのですね……では、お願いします」
そして、ルードヴィヒは、木片の尖ったところで、足裏のツボを押し始めた。
「くうっ……ンゥ……ダメェ……イタッ……ハァ……ハアッ……アッ……ヤメッ……ンゥ……」
初体験の刺激の強さに、リーゼロッテは、声が出るのを抑えられない。
(いやぁぁぁぁっ! 痛い! けれど……気持ちいいかも……)
「大丈夫んがぁて。慣れれば、まちっと気持ちよくなるがぁだすけ」
(もう……どうにでもして!)
「ンゥ……ダメェ……イッ……ハァ……ハアッ……アッ…………ンゥ……アァン……」
それを見ていたシャペロンと護衛騎士の目は点になった。
(若い男性がお嬢様にする行為として、これはアウトなのか、セーフなのか?)
声だけ聞けば、完全なアウトではあるが……。
通常なら、貴族の男性が手ずからこのような奉仕をすることはあり得ない。前例のないことだけに、判断は難しいところだ。
二人は顔を見合わせた。
(ここは、セーフということにしておきましょう)
リーゼロッテの長い半日は、まだ終わらない。
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