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第7話 ダークエルフ

 この世界には、亜人種というものが存在する。


 中でも一目置かれているのがエルフである。

 エルフは妖精の末裔(まつえい)と信じられており、人々からは高貴な存在とされていた。


 妖精の末裔らしく、魔法が得意で、森を住処(すみか)とすることから、弓が得意なものが多い。


 これに対し、闇の属性を持つとされたエルフがダークエルフである。


 ダークエルフは、エルフよりも身体能力が優れているものが多く、魔法や弓に加えて格闘術などにも優れていた。

 故に、傭兵などをやっている者も多かった。


 キリシタ教では、闇属性を禁忌(きんき)としており、ダークエルフは、逆に人々からは(うと)まれる存在だった。

 大都会アウクトブルグの学校へと通うためシオンの町を出立したルードヴィヒ一行は、まずは第一の目的地であるツェルター伯国の首都、テーリヒの町を目指していた。


 本来であれば、普通に街道(かいどう)を進めばよいのだが、そこは修行オタクのルードヴィヒ一のこと……。


「ただ道を進むなんて、つまんねぇ」とのルードヴィヒの一言で、一行は付近の森の中で魔獣を狩りながら進むことになった。


 ハラリエルを除く者たちはもう慣れたもので、魔獣を探索しながら、鬱蒼(うっそう)とした森の中を動物であるかのようにひょいひょいと移動している。


「待ってくださいよぅ。もう疲れましたぁ」


 必死に後を追いかけるハラリエルが()を上げた。既に汗まみれである。


「なんでぇ。まだ1時間も歩いてねえぜ」

 とルードヴィヒはあきれ顔である。


「私、天使(エンジェル)ですから、地上なんか歩いたことないんですぅ」


「すっけんこと言って、体を鍛えねぇといつまでもこんままんがぁぜ」


 厳しいようだが、それを当たり前と思っているルードヴィヒに悪意は微塵(みじん)もない。


「そんなぁ……」と漏らすなり、ハラリエルはへたり込んでしまった。両の目じりが下がり、いかにも(なさ)けない表情をしている。


 これにはルードヴィヒも気の毒になってしまった。


「……しゃあねぇのぅ。そんだば空を飛んでもええども、人に見られるんじゃねぇがぁぜ」


「やったぁ! ありがとうございますぅ」


 ハラリエルは飛び上がって喜んだ。


(なんでぇ。まだそんな元気があるんでねぇか……が、まあええ……)


 そして一行は再び進み始める。

 ハラリエルは、木々の上を飛び、ルードヴィヒたちを見失わないよう必死についていった。


「あ、ルードヴィヒ様。なんだか大きくて強そうなのがいますよぅ」


 ハラリエルは何かを見つけたようだ。


「わかってるてぇ!」


 探知魔法で周囲の様子を把握しているルードヴィヒにとっては、百も承知だった。


(様子がちっといねぇ(おかしい)だのぅ。誰かと戦っとるんか……)


 急いで現場にたどり着くと巨大な生物と誰かが対峙(たいじ)していた。


 巨大生物の方は、全長5メートル、全高2メートルを超える巨体で、分厚い体毛に覆われており、頭部に長さ2メートルの太い角が生えている。サイの一種であるエラスモテリウムだ。


 片や、戦っている人物は黒髪に浅黒い肌をしおり、先の尖った特徴のある耳をしている。


(ほぅ。ダークエルフけぇ……)


 ダークエルフは、弓を武器に戦っているようだが、分厚い体毛に阻まれて、矢がはじかれてしまっている。

 それでも急所である片方の眼球に矢が突き刺さっていた。かなりの腕前のようだ。


「おめぇ。だいじょうぶけぇ?」


 ダークエルフがエラスモテリウムの突進をかわし、距離をとったタイミングで、ルードヴィヒは話しかけた。


「見ての通りだ。援護してもらえると助かる」とダークエルフは自嘲気味(じちょうぎみ)に静かだがよく通る声で言った。


「わかったっちゃ」


 ルードヴィヒは即答すると、背中に十字に背負った愛用の剣を抜き、構える。


 エラスモテリウムの突撃をかわすと、方向転換してもう一度突撃しようと構えた瞬間を狙い、その顔の下に滑り込んだ。

 そして、(あご)の下から剣を突き上げる。


 剣の攻撃は脳まで達していた。


 エラスモテリウムは、悲鳴を上げる(ひま)もなく、硬直すると、次の瞬間、ドサリと倒れた。

 ルードヴィヒは押しつぶされないよう素早く横に転がり出ると、これをかわす。相手は5トンを超えるだろう巨体だ。押しつぶされていたら一巻の終わりであった。


「あいつを瞬殺かよ……」


 ダークエルフはそう(つぶや)くと肩をすくめた。


 ダークエルフは、返り血を水魔法で清めているルードヴィヒに声をかける。


(すご)いな。おまえ」

「いやあ。えっそぇ(すごい)でっこい(大きい)やつでも急所があるすけ」


 何の気負いもなく、平然と自然体で言ってのけるルードヴィヒを見て、ダークエルフは内心(あき)れてしまった。


「俺はライヒアルトだ。おまえは?」

「おらぁルードヴィヒだっちゃ」


「ところで分け前のことなんだが……」

 ライヒアルトは、横目でちらりと倒れているエラスモテリウムに目線を送る。


「ああ。なんか横取りしたみてぇで(わり)ぃのぅ。おらは(つの)さえもらえればええすけ。後はぜんぶくれる」

「横取りなどど……おまえの助けがなければ俺は死んでいたかもしれない。

 だが、話は早い。実は村の食糧が不足ぎみでな。これだけの巨体なら肉を村人全員に配ってもおつりが来る」


 だが、ライヒアルトの顔は()えない。

 それを察してルードヴィヒは声をかける。


なじした(どうした)がぁ?」

「いやぁ。この巨体をどうやって運んだものかと思ってな」


「ええよ。おらが運んでやるすけ」


 ルードヴィヒがそう言うとエラスモテリウムの巨体が突然に消えてなくなった。

 ライヒアルトは驚きで目を見開く。


「おまえ。何をした?」

「ただのストレージの魔法だども……」


「ストレージの魔法って、無詠唱でか?」


「なんか問題あるろか?」

「いや……」


 ストレージの魔法は元素(エレメンツ)魔法からは外れているから高難度の魔法である。ライヒアルトもエルフであるから使えるが、それにしてもこの収容量は規格外だった。


(もういい。こいつのやることにはもう驚くまい……)


 ルードヴィヒの従者たちもさぞ当然のことと涼しい顔をしている。若干一名を除いては……。

 若干一名のハラリエルは、いつの間にか地上に降りて来ていたが、自分のことでもないのに胸を張って自慢そうな顔をしているのだった。

     挿絵(By みてみん)


 そして、ダークエルフの村へと向かう一行だったが、ハラリエルは、ライヒアルトの手前、天使(エンジェル)であることを隠すため空が飛べなくなった。


 しばらくは頑張って歩いていたが、やはり()を上げた。


「まだですかぁ? もう疲れたんですけどぅ」と情けない声を上げている。


「鍛え方がたりねぇんだよ。いい機会だすけ根性出して歩きっしゃい」

「はぁぁ……わかりました。頑張りますけど、もうちょっとだけですよぅ」


「ついてこんかったら、置いてくすけ」

「そ、そんなぁ……」


「ほうしたら、元の(あるじ)んとこへ戻ればええもぅさ」

「それができたら苦労はしませんよぅ。ルードヴィヒ様はあの方の恐ろしさを知らないから……」


 そしてハラリエルをなだめすかしながら歩くことしばし……。


 ライヒアルトが「村までもう少しだ」と言った直後……。


「アォーーーーン」


 動物の鳴き声が森に響わたった。


「こらぁダイアウルフだのぅ」

「ああ」とライヒアルトが緊張の声で簡潔に答える。


 ダイアウルフは頭胴長が2メートルを超える大型の狼である。当然に群れで行動して狩をする。


 さしずめ、ルードヴィヒ一行を発見し、獲物とするかどうか見定めているといったところだろうか?


 そこで豹人族で鼻が()くニグルは、あることに気づいた。


(ぬし)殿。血の臭いがする」


 それを聞いたライヒアルトは、顔色を失い、村へと急いだ。

 そして村へたどり着くと、そこには壮絶な光景が広がっていた……。

お読みいただきありがとうございます。


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[良い点] 設定 [気になる点] 読み物として掘り下げるところと流すところの境界がハッキリしてない [一言] 読み物というより映像化向けの作品。映像化したら真価を発揮して面白さがより伝わる作品。
2024/07/11 19:23 退会済み
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