第67話 リーゼロッテ vs 幼馴染(2)
「本当けぇ? まあ、おらとルーちゃんの仲だすけ、パンツぐれぇ、言えばいつでも見してやるがんに」
「おめぇ、なんちぅことを……」
「何、遠慮してるんでぇ。本当は見てぇくせに」
「そりだすけ、違うてぇ」
「もう……しゃあねぇのぅ。ルーちゃんのドスケベ」
……と言うなり、ユリアは、ルードヴィヒに尻を向けると、かけ声とともに、いきなりスカートの裾を一気にめくりあげる。
「ほれっ!」
それでもやはり、ルードヴィヒは、スカートの中身に注目してしまうが……。
「何っ!」
ルードヴィヒが目にした白いものは、思わず期待してしまった純白のパンティではなく、白い短パン状のものだった。
「はっはっはっ……引っかかったぁ!」
茫然とするルードヴィヒ……
「これは見せパンちぅて、見られても大丈夫んがぁよ。おめぇが見てぇものは、この下でぇ!」
「くうっ……これはいってぇ……」
「この屋敷にぁメイドのパンツを覗こうとする不届き者がおるすけのぅ。ルディが皆に手配してくれたがぁてぇ!」
(くそっ……ルディの奴……)
ルードヴィヒとしては、心当たりがまったくないではなかった。
メイドたちが高所の掃除などをしているときに、さりげない感じで横を通ったことはある。そのときに、思わずスカートの裾に目がいてしまったことも否定できない。
しかし……。
(おらは……おらは……パンチラなんぞ見たことはねぇ!)
と心の中で叫びつつ、ルードヴィヒは、リーゼロッテにエッチな男だと思われたのではないかと懸念していた。
だが、当のリーゼロッテは、さほど気にしていなかった。そこは両者の認識に雲泥の差がある。
(パンチラなど、娼館通いに比べれば、どうということはないわ、それよりも……)
リーゼロッテが静かな声を発した。
「ルード様。その方は、いったいあなたの何ですの?」
その静かさが、却って秘められた怒りを暗示している。
(あっきゃー! こらぁ、まじぃとこを見られてしもうた。おごったぁ!)
「えっ! そらぁ、そのぅ……ユリッペは、おらの部屋を担当するチェンバー・メイドだども……」
「それにしては"ユリッペ"などと、主人とメイドの関係にしては、ずいぶん親し気ではないですか?」
「ユリッペは小せぇ頃からの幼馴染みだすけ、子供んころの呼び方が抜け切れてねぇだけで……」
(えっ! 幼馴染みですって!)
リーゼロッテの心は"幼馴染み"という言葉に敏感に反応した。
なぜなら、最近流行りの恋愛小説で、幼馴染みのメイドの少女と貴族の間の禁断の恋の物語を夢中になって読んだばかりだったからだ。
(のぅ、ルーちゃん。おらぁダニエルに告白されちまったがぁども、どう思う? ルーちゃんは、それでええがぁ?)
身分差を越えて、貴族であるルードヴィヒの心を射抜こうと、告白されたことをネタに、馴れ馴れしく甘えるユリアの姿が頭を掠める。
「"幼馴染み"って……二人は本当は深い仲なのではないですか?」
小説と違って、身分的に結婚は無理にしても、メイドを愛妾や愛人にすることは、リアルの世界でも十分にあり得る。
が、二人の会話にユリアが乱入した。
「深い仲っちぅんは意味がよくわからんども、おらはルーちゃんのことで知らねえこたぁねぇぜ。はっはっはっ……」
(なによ! この女は! 少しばかり古い知り合いだからって、いい気になって……)
リーゼロッテは、答えを求めてルードヴィヒの方に視線を向けた。
「いやぁ……ユリッペとは腐れ縁っちぅやつで……ロッテ様が考えるようなことは何も……」
再びユリアが会話に口を挟む。
「何でぇ。すっけんことけぇ。おらとルーちゃんは、おめぇが思っとるようなこたぁ何もしてねぇよ。おらは、清らかな乙女だすけのぅ」
(なんですって! それじゃあ私がエッチなことばかり考えている淫乱女みたいじゃない!)
それまで感情を表に出さないように我慢していたリーゼロッテだったが、思わずきつい視線をユリアに送ってしまった。
「おお怖ぇ怖ぇ。そんだば、お邪魔虫は退散すっとするかのぅ」
……と言うなり、ユリアは、あっさりと部屋を出ていった。
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