第67話 リーゼロッテ vs 幼馴染(1)
リーゼロッテは、庶民街も庶民向けの料理初めてだったし、男性にお姫様抱っこをされるのも初体験だった。
だが、まだこれからも初体験に次ぐ初体験が連続することを、彼女は知る由もなかった。
リーゼロッテの長い一日、いや半日はまだまだ続く。
ルードヴィヒは、リーゼロッテをお姫様抱っこで抱えたままローゼンクランツ新宅へと到着した。
早足とはいえ、かなりのスピードであったので、リーゼロッテは怖くなって、ルードヴィヒの首に両手で縋りついたままだった。
ルードヴィヒに漸く降ろされて、一息ついたが、恥ずかしさのあまり、心臓の鼓動は高まったままだった。
そこへ、シャペロンと護衛騎士が漸く追いついてきた。二人ともハアハアと息があがっている。
トン トン
ルードヴィヒは扉のドアノッカーを鳴らす。
「は~い」と言って応対に出たのはカミラだった。
カミラはルードヴィヒの顔を見ると意外そうに言った。
「あれっ? 旦那様。どうされたのですか? こんな時間に?」
「いやぁ。悪ぃ悪ぃ。今日は早上がりんがぁを言うの忘れとった」
「もう……こんな時間に帰ってきても何も準備できていませんからね。ところで、そちらのお嬢様は、どなた様ですか?」
「この邸宅を贈呈してもらったロッテ様だすけ」
「ええっ! それはたいへんじゃないですかあ。すぐに執事様を呼んできます」
リーゼロッテは、そのやりとりを呆気にとられて見ていた。
(主人と使用人にしては、なんてくだけた応対なの……)
「……という訳で、てぇしたもてなしはできねぇども、勘弁してくれや」
「それは……構わないのですが……」
程なくして、執事のディータがやってきた。後ろにはルディが完璧な立ち姿で控えている。
「これはこれはお嬢様。お久しぶりでございます」
「ディータも元気そうで、なによりね」
「おかげさまで、若い者たちに囲まれて若返った気分ですよ」
「まあ! それはよかったわね」
「ところで、大変申し訳ないのですが、もてなしの準備ができていないところでして、応接室でしばらくお待ちいただきたく存じますが……」
「突然押し掛けた私も悪いのだけれど……そうだ! 待っている間に、ルード様のお部屋がぜひ見てみたいわ」
「おらっ! おらの部屋けぇ? 見て面白ぇもんなど何もねぇども……」
一方で、ディータは、淡々と「承知いたしました。では、準備が終わりましたら、お声がけいたします」と言うと、屋敷の奥へと下がっていった。
「しゃあねぇのぅ。そんだば、行くけぇ」
ルードヴィヒは再びリーゼロッテをお姫様抱っこしようとしたが、リーゼロッテは後退って遠慮した。
「だ、大丈夫です。少しなら平気ですから」
「それならええが……おらの部屋は、こっちでぇ」
ルードヴィヒは、リーゼロッテの様子を見ながらゆっくりと歩いていく。
部屋へ着くとルードヴィヒは、そのまま黙って扉を開けた。
自分の部屋なので、当然ではあるのだが……
部屋では、ユリアが掃除をしているところだった。
彼女はルードヴィヒに気付かず、高いところを掃除しようと背伸びをした。
その拍子にメイド服のスカートがたくしあがった。
メイド服のスカートは本来は膝丈程度の長さなのだが、たくしあがった結果、ユリアの太ももが少しばかり露になっている。
そこは男の悲しい性で、ルードヴィヒはユリアの太ももに見入ってしまった。
だが、女というものは、男のふしだらな視線を感じる能力があるらしい。ユリアは振り返った。
「何でぇ。ルーちゃんでねえけぇ。帰ったんなら、声ぐれぇかけりゃぁええのに……っつうて、おめぇ、今、おらのパンツ覗こうとしとったがぁろぅ」
ユリアは、少しばかり意地の悪そうな眼差しでルードヴィヒを見ている。
「おらぁ、そんなこたぁしてねえよ」と言うルードヴィヒは、太ももを見てしまった手前、バツが悪かった。
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