第66話 ショッピングデート at 庶民街(2)
おそらくは20ターラーでも利益は出るとルードヴィヒは踏んでいたが、あまり虐めるのも可哀そうだ。
「しゃあねえのぅ。そんだば、30ターラーだ」
……と言いながら、ルードヴィヒは大銅貨を3枚渡した。
「毎度ありぃ!」
店主は、いちおう満足した表情をしている。
リーゼロッテは、この様子をハラハラしながら見守っていた。
「あのう……お値段は50ターラーではなかったのですか?」
「ああ。こういう店は、そもそも値札を付けてねえぇろぅ。奴らは、客の様子を見てぼたったくりにかかってくるすけ、正直に払ったら損するがぁよ」
「なるほど……勉強になります」
「それより、せっかく買ったんだすけ、付けてみるけぇ」
「は、はい。お願いします」
ルードヴィヒはブローチをこっそりと手に握ると、光魔法で魔除けの効果を付与した。もともと五芒星は魔除けの効果を持っているが、せっかくだから、これを強化したのだ。
その際に、神聖な光を発するのだが、手に隠していたから、リーゼロッテにはわからない。
ルードヴィヒがブローチを付けてあげると、リーゼロッテは真っ赤になって照れていた。
「ところで、そのポリッシュというものは何なのですか?」
「ああ。これけぇ。そのペンダントは金色をしてるども、真鍮製だすけ、直ぐに錆びて色がくすんでくるがぁてぇ。そしたら、ポリッシュで磨いてやると色が戻るすけ。ちっどばかし面倒くせぇがのぅ」
「そういことなんですか。じゃあ私、一生懸命磨きますね」
「いやぁ、すっけんこと使用人にやらせればええがんに」
「いえ。これは、私の大切な宝物ですから」
「そうけぇ。そんだば、ええが……」
ちなみに、庶民用にもかかわらず、リーゼロッテはプレゼントされたブローチを学校に付けてくことになる。
クラスメイトたちは、当然にそれは金製だと思い込んでいた。それくらいブローチはいつも輝いていたからだ。
それはリーゼロッテが、ほぼ毎日ペンダントを磨いていた結果だった。リーゼロッテは、ルードヴィヒから初めて貰ったプレゼントに、それだけ強い愛着があり、それを磨くたびにその思いは強くなっていくのだった。
ローゼンクランツ新宅までは、リーゼロッテが思っていたよりも、ずっと距離があった。
歩いていると、リーゼロッテのアキレス腱の付近がズキリと痛んだ。靴擦れを起こしてしまったのだ。
(ああっ! やっちゃった。こんなに歩くとは思わなくてハイヒールを履いてきちゃったからな……せっかく楽しかったのに、これじゃあ気分が台無しだわ)
ルードヴィヒに言い出せず、隠していたのだが、気付かれてしまった。
「ロッテ様。どうしたがぁ? 足なんか引きずって?」
「ヽ(¯∀¯)ノアハハ。実は……ちょっと靴擦れしちゃったみたいで……」
「そらぁ、おごったのぅ。そんだば……」
ルードヴィヒはリーゼロッテをひょいとお姫様抱っこした。
「ヒエッ!」
リーゼロッテは突然のことに驚いたやら恥ずかしいやらで混乱した。
「ル、ル、ルード様。大丈夫です。ちょっと痛いだけで、歩けますから」
「そりだども、痛ぇがぁろぅ。無理するこたぁねぇ」
「し、しかしぃ……」
「おら家まで、まちっとだすけ。我慢してくれや」
それまで空気に徹していたシャペロンと護衛騎士だったが、突然のことで、判断に迷った。
(若い男性がお嬢様にする行為として、これはアウトなのか、セーフなのか?)
だが、その間にもルードヴィヒ早足で歩いていってしまう。
慌ててこれを追いかける二人だった。
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