第66話 ショッピングデート at 庶民街(1)
昼下がりの庶民街は、いつにも増して賑わっていた。
今日は、市が立つ日であった。
固定店舗に加え、数多くの露店が隙間なく並んでいる。
ルードヴィヒと並んで歩いていたリーゼロッテは、躊躇した。
(先ほどは勢いで腕を組んでしまったのだけれど……)
「ロッテ様。人が混んでて、はぐれるといけねぇすけ、おらの手につかまっとけや」
「はいっ」
まるで自分の気持ちを察したかのようにルードヴィヒが言ってくれたので、リーゼロッテは嬉しくなった。再びルードヴィヒの左腕に縋りつく。
「庶民街というのは、とても活気があるのですね」
「ああ。それもあるども、今日は市が立つ日だすけ、特別でぇ」
「なるほど、そういうものなのですね」
((*´ω’*)ポッ これって……どこからどう見ても完全にデートよね……)
……と思いつつ、リーゼロッテは、初めて見る庶民街の様子とその活気を目にして、気分が少し高揚した。見るものすべてが興味深く思えた。
道行く庶民たちは、豪華な衣装を着たいかにも貴族といった上品な風情の美少女と、よく見かける美少年の組み合わせを意外に思い、誰もが好奇の目で見ている。
ルードヴィヒは少々気まずかったが、リーゼロッテは、気にもしていないようだ。
最初は少し恥じらっていたリーゼロッテも、次第に体を密着させてきて、そのうちに頭もルードヴィヒの肩に預けてくる。
(なじょうして女衆っちぅもんは、くっつきたがるんかぃのぅ……)
……と思いながらも、ルードヴィヒも悪い気はしていない。
「まあ! 可愛い!」
リーゼロッテは、アクセサリーを売っている露店の前で足を止めた。
(う~ん。女衆は、こういうがんが好きだぃのぅ……)
リーゼロッテは、目を輝かせて商品に見入っている。
「そこのお兄さん。一つどうだい。ここは男の甲斐性の見せ所だぜ」
ちょっとチンピラっぽい若い店主が煽ってくる。
気がつくと、リーゼロッテが期待に満ちた眼差しを向けている。
(こっけん庶民用のアクセサリーなんか付ける機会もねぇだろうに……が、しゃあねえのう……)
ルードヴィヒは、こんなこともあろうかと、リーゼロッテの視線の先をチェックしていた。
彼女が気に入ったと思われるものを選ぶ。
それは五芒星の形をした金色のブローチだった。
庶民用のものであるので、もちろん金製ではなく、真鍮製のものだ。
「そんだば、これを貰おうかのぅ」
「これは、どうもありがとうございます」
リーゼロッテは素直に感動していた。
「それに……」
「ん?」
リーゼロッテは、不思議に思った。まだ、何かを買ってくれるのだろうか?
「こらぁ真鍮製だろ、これを磨くポリッシュはあるけぇ?」
「もちろんあるよ」
「そんだば、それも貰おうか」
「へい。毎度ありぃ!」
「そんで、いくらでぇ?」
「併せて50ターラー(5千円相当)でどうだい?」
露店というものは、値札が付いていないのが普通だった。
値段は、店主と客との交渉で決まる。
(はあっ! いくらなんでもボリ過ぎでねぇけぇ!)
店主は、リーゼロッテのような身なりの女性の前で、値切るなどケチ臭いことはしないと予想し足元を見たようだ。
(そうはいくけぇ。ロッテ様にとっちゃぁ、これも社会勉強でぇ!)
「そらぁ舐められたもんだのぅ。どう見ても20ターラーがいいとこでねぇけぇ」
「無茶言うなよ。それじゃあ原価にもとどきやしない。なら、40ターラーでどうだい」
「そうけぇ。別にこの店には何も義理はねぇすけ、別ん店で買っても、おらは構わんがぁどものぅ」
「ちっ。わかったよ。じゃあ、30ターラーでどうだ。これ以上はびた一文負けられねえからな」
(まあ、こんくらいで許してやるかのぅ……)
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