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第59話 違約金(2)

「ハハハッ。しゃあねえのぅ……で、いくら必要なんでぇ?」


(はあっ? 本当(まじ)かあ? 真っ直ぐな子だとは思ってはいたけど……本当に甘えちゃっていいのかなあ?)


 すると、カタリーナは突然背中を丸め、指をくるくると回しながら、小さな声で自信なさそうに言った。演技半分、本音(ほんね)半分といったところだ。


「あたしの場合……娼婦として売り飛ばされた借金もあるから……15万ターラーぐらい……かな?…………(。・ω<)ゞてへぺろ♡」


「えーっ! そっけにけぇ! そらぁ、ちっときっついのぅ」


 カタリーナは、それを真に受けたと見える。

 シュンとした表情になってしまった。もはや、どこまでが演技なのか、我ながらわからない。


 ルードヴィヒは、いたずらが過ぎたかと思い、急いで否定する。


「すっけなわけ、ねえろぅ。そん程度、おらにとっちゃぁはした金だすけ、あちこたねぇてぇ」


 すると……カタリーナは、突然ニヤリと笑って言った。商売柄、つい演技が入ってしまった。


「そうだと思った。ルー坊も演技が下手だねえ」


「タリナ(あね)さ。(だま)したなぁぁっ!」

「そういう怒った顔も可愛いねえ……弟君は……」

 と言うなり、カタリーナは、ルードヴィヒの頬にキスをした。


(本当に、バカの付く正直な子だねえ……でも、あたしはどうやってこの恩を返したらいいのやら……)


 ルードヴィヒは、恥ずかしくなり、怒りも急激にしぼんでいく。


(まるで仲のいい本当の姉弟みたい……ちょっと(うらや)ましいな……)


 そう思ったデリアは、つい気が緩んで、ふと考えたことを口にしてしまった。


「ルードヴィヒさん。カタリーナ姐さんを身請けするということは、愛妾(あいしょう)にするんですか? 身分的に結婚は無理でしょうし……」


「「えっ!」」

 二人は、同時に驚いた声を上げた。


(そらぁ……(なん)(かんげ)ぇてねかった……)


 カタリーナの方が先に口を開いた。


「そりゃあ、身請けされた以上、あたしはどんな卑猥(ひわい)なことでも、やれと言われればやるけどさあ……」

「な、何ちぅこと言うんでぇ。おらぁ、すっけんつもりはねぇからのぅ」


(すっけなことしたら、今度こそクーニィに殺されちまう……)


「じゃあ何だって言うのさ?」

「タリナ姐さには、おらの屋敷でメイドとして働いてもらうすけ」


「ルー坊。あんた、まさかあたしは女として賞味期限切れとでも言いたいのかい?」

「すっけんこたぁねぇよ。姐さは、今まさに女の真っ盛りだと思うっちゃ」


(おらんおっ()さには負けるどものぅ……)


「ふ~ん……まあいいさ。あたしだって普通の女なんだ。好き好んで娼婦だの愛妾だのがやりたいわけじゃない。

 でも、ルー坊のことが嫌いなわけじゃないからね。そこんとこ勘違いするなよ」

「そらぁ、わかってるてぇ」


 本当のところ、カタリーナは、途方に暮れた。自分の場合は、借金ではなく、身請金だから返す必要はないが、金額的には、メイドの賃金では、これを全額注ぎ込んだとしても一生かかって払い切れるかどうか……。


(こんな一方的に恩を売られても、ただただ痛み入るばかりだなあ……神様もある意味残酷なことをする……)


 そこで、一段落したとみてデリアが口を開いた。


「あのう……実は……」

「なじょしたがぁ?」


「さっきも言いましたけど、ダリウスは収入が不安定なので、できれば私も働きたいと思っているんです」

「まあ……それもそうだのぅ」


「それで……重ねてのお願いで大変恐縮なのですが、私もメイドとして働かせていただくことはできないでしょうか?」


(タリナ姐さだけっちぅのも不公平だし、しゃあねえのぅ……こかぁクーニィの制裁を甘んじて受けるとすっかのぅ……まあ……Es(エス) kommt(コムトゥ) wie(ヴィー) Es(エス) kommt(コムトゥ)……」(なるようになるさ……)


「ああ。ええよ」


 デリアの顔がパッと明るくなった。

 そしてルードヴィヒの手を熱く握ってくる。


「どうもありがとうございます。助かります」


 こうして、デリアとカタリーナの二人は、ルードヴィヒの屋敷でメイドとして働くこととなった。

お読みいただきありがとうございます。


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