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第58話 銀髪フェチ(1)

 ダリウスは大きな悩みを抱えていた。


 デリアを見つけ出し、彼女の気持ちも確認できた。そこまではよかった。

 にもかかわらず、とある事情から、彼女は黒猫亭を(いま)だに退職できないでいた。


 懸命に知恵を(しぼ)ってはみたものの、この問題を解決する目途(めど)がたたず、ダリウスは忸怩(じくじ)たる思いだった。


 これはこれで放置できない大問題だったが、ダリウスはもう一つ問題を抱えていた。


 ジェシカ・フォン・ヒーマン女男爵が、足繫(あししげ)くというほどの頻度(ひんど)ではないものの、依然としてダリウスのもとへ訪ねてきているのだ。


 彼女の最初の訪問から、もはや3年近くが過ぎようとしている。

(彼女の気が済むまで)と(たか)(くく)っていたダリウスも、まさかここまで続くとは想定外だった。


 ダリウスにしてみれば、気のある素振りなど少しも見せたつもりはないし、事実、二人の関係は何の進展もなく、ジェシカが一方的に淡い気持ちを寄せているだけだ。


 そういう意味では、デリアにこの事実を知られたとしても、胸を張っていれば良さそうなものだが、そこをダリウスは割り切ることができないでいた。

 デリアとの関係に、ほんの少しであっても影を落とす可能性のある事実は、何としても回避したい。それは、二人の関係がまだ盤石(ばんじゃく)ではないという自信のなさの(あらわ)れでもあった。


 だからといって、ここに来て、態度を豹変(ひょうへん)させて、ジェシカを邪険(じゃけん)に扱うのも気が重かった。彼女は3年経った今でも変わらず無垢(むく)な少女だったからだ。

 古来、とかく女というものは群れたがる。これは女という弱い存在が持っている本能のようなものなのか……。


 Sクラスの女子は、大きくルードヴィヒ支持派とミヒャエル支持派に二分されていた。

 だが、これは、例えばルードヴィヒ支持派についていうと、誰もが皆ルードヴィヒに熱烈な感情を持っているという訳ではなく、群れる要因の一つに過ぎなかった。


 ルードヴィヒ支持派のリーダーはコンスタンツェなのだが、これは彼女が望んだというよりは、彼女が大公女という最高位の身分であるから自然と(まつ)り上げられた感じである。

 そして、ルードヴィヒ支持派にはリーゼロッテも入っていったりする。


 中には、熱狂的にルードヴィヒを支持する女子とは距離を置き、悠然(ゆうぜん)としている者もいた。

 例えば、ジェシカ・フォン・ヒーマン女男爵がその良い例であった。


 ミヒャエルは、先日の一件があって以来、ルードヴィヒを憎からず思う感覚を自覚し始めていた。


 そして、悠然としているジェシカの姿を見て、覚束(おぼつか)ない感覚を覚えたミヒャエルは、自慢のgrey(グレイ) matter(マター)(灰色の脳細胞)を必死に働かせる……。


(あれは演技だ。ああいう無垢で清純ぶっている奴ほど、実はルードヴィヒに対して腹に一物を抱えているに違いない……)


 ミヒャエルは、探りを入れてみることにする。


「やあ。ヒーマン嬢。君は大公女様の派閥に入っているようだけれど、具体的にルードヴィヒのどこがいいと思っているんだい?」


 ミヒャエルから思ってもみなかった質問をされ、一瞬意外な顔をしたジェシカだったが、何の迷いもなく答えた。


「だって……あの銀髪が素敵じゃないですかあ」


(ええっ? 落ちは、そこかよ!)


 ミヒャエルは、(なか)ば冗談で皮肉ってみる。


「そうか。君って銀髪フェチだったんだね」


 意外なことに、彼女はポッと(ほほ)を染めた。


「えっと……そうですね。私って銀髪フェチのような気がします」


(はあっ? 素直に受け入れるとは……どういうことだ?)


 そのとき、駐屯地を訪ねてきたジェシカの姿がミヒャエルの脳裏を(かす)めた。


(そういえば……駐屯地で何回か奴の姿を見かけたことがあるな……違和感が半端なかったが……あれは確かダリウスを訪ねて来たんだったか……)


「はあっ? ダリウスっ!」


 二人とも銀髪であることが偶然の一致ではないと気付いてしまったミヒャエルは、思わず声をあげた。


「いやーん。言わないでください……」


 ジェシカは、頬を赤く染め、恥じ入っている。

 これは……ジェシカの本命はダリウスということで間違いないだろう。


 ミヒャエルとしては、ジェシカがライバルではないことが判明して喜ぶところではあるが……。


 ルードヴィヒとダリウスの2人とも知己であるミヒャエルは、先日、ダリウスが10年来の想い人との再会を果たした話を耳にしていた。

 すなわち、ジェシカの失恋は確定ということになるが……。


(ダメだ。俺からは、とても言えねえ……)

お読みいただきありがとうございます。


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