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第57話 邂逅(3)

 かなり時間が経ってからデリアを追いかけ始めたダリウスは、当然にデリアを見失っていた。

 仕方がなく、山勘で方々を探しまくったが、当然に見つからない。


 当のデリアは、店からそう遠くない裏路地で、ひとりむせび泣いていた。


 ローレンツとルーカスは、二人の問題だと割り切って、ローレンツはカタリーナを連れて、ルーカスも気に入った女の娘を連れて2階へと上がっていた。


 だが、ルードヴィヒはデリアのことが気になってしょうがない。

 その様子を見て、ルードヴィヒに付いてくれている女の娘も心配してくれている。


 こうなったらヤケ酒だと思って、続けざまにエールの大ジョッキを3杯ほど空けたが、まったく酔いが回ってくる感覚がない。


(……ったく……どこまでも世話やかせやがって……)


 ルードヴィヒは、探知魔法を発動した。


 デリアは、店からそう遠くない裏路地にいるようだが、ダリウスはまったく明後日(あさって)の方向でせわしなく動き回っている。


(ほんに(なん)してるがぁだ! ダリ(あん)さは……)


 ルードヴィヒは、立ち上がると言った。


「おら、ちっと店ん外で酔いを()ましてくるすけ」

「えっ。でも……」


あちこたねぇ(だいじょうぶ)てぇ。すぐに戻るすけ」

「はあ……」


 ルードヴィヒは、すぐさまダリウスのもとに駆け付けた。


「ダリ兄さ。(なん)してるがぁだ!」

「……面目ない。デリアの居場所にさっぱり見当がつかなくて……」


「こっちだてぇ。こっち……」


 ルードヴィヒは、ダリウスの手を強引に引っ張り、走り出した。


「おまえ。デリアの居場所がわかるのか?」

「ここんだけの話。おらぁ探知魔法が使えるがぁてぇ」


 ダリウスは納得し、ルードヴィヒに導かれて、デリアのもとへ一目散(いちもくさん)に向かう。


 そして……。


「ヒック、ヒック……」


 とある裏路地の奥の暗がりの中で、デリアは、むせび泣いていた。


 ダリウスは、そっと近づき、声をかけた。


「デリア。何で逃げたりしたんだ?」


 デリアはハッとしてダリウスに気づくと、後退(あとずさ)っていく。

 だが、一番奥の壁に行き当たり、それ以上進めなくなると覚悟を決めたようだ。


「だって……私は娼婦で……ダリウスを裏切ったようで……もう合わせる顔がなくて……」


 デリアは考え得る言い訳を並べ立てていく……。


 ダリウスは、我慢がならなくなり、デリアに駆け寄ると彼女を激しく抱きしめた。

 デリアは一瞬驚いたが、その激しさはダリウスの愛情の表現なのだと実感した。そして、躊躇(とまど)いながらもダリウスを抱き返す。


 二人はしばらくの間、お互いの体温を確かめ合った。

 (まぎ)れもなく、現実の想い人がここにいる……。


 一息ついて、ダリウスは言った。


「おまえがこれまでどんな人生を送ってきたとしても、デリアはデリアだ。俺の唯一無二の存在であることは永遠に変わらない」


(だめだ、こらぁ。これ以上は見ていられねぇ……)


 そこまで見届けたルードヴィヒは、その場を去り、黒猫亭に戻った。


     挿絵(By みてみん)


 黒猫亭では、ルードヴィヒに付いてくれていた女の娘が待っていてくれた。


「もう……遅かったですねえ」


 女の娘はふくれっ面をしているが、それが可愛いかった。これも演技が入っているのだろうか……。


(わり)ぃかったのぅ。ところで、おめえ、名前(なめえ)は何だっけ?」

「えーっ! ひどーい。覚えてもらえていないんですかあ。私の名前は、"クラウディア"です。もう忘れないでくださいね」

「おぅ。もうわかったっちゃ」


「そんだば、クラウディア。2階にいかねぇか?」


 それを聞いたクラウディアの顔は、ほんのりと赤く染まった。

 これが演技なら達人級だ。


「もちろん構いませんよう……仕事ですから……」


 そう恥ずかし気に言うと、クラウディアはルードヴィヒの左手に(すがり)りつき、頭を肩に預けて密着してくる。

 そのまま静かに、二人は二階へと消えていった。


     ◆


 クラウディアにサービスしてもらって、ルードヴィヒは一息入れることができた。

 まだ、ショックが抜け切れていないが、だいぶ落ち着いた感じだ。


 だが、なかなか平静ではいられず、クラウディアの扱いが少々乱暴になってしまったと、ルードヴィヒは反省した。


(わり)ぃかったのぅ」

「ん? 何がですか?」


 その反応を見て、ルードヴィヒは少し安心した。

 どうやらクラウディアの心を傷つけたりはしていないようだ。


(まあ……これも演技かもしれねぇがのぅ……)


 ルードヴィヒは、ぼんやりとではあるが、クラウディアがデリアの替わりになるのではないかと考えた。


(んにゃ! 誰かが誰かの身代わりなんて、そっけ失礼な話はねぇろぅ!)


 そして、先ほどのダリウスの言葉を反芻(はんすう)しつつ、考えた。


(クラウディアはクラウディアだ。他の誰でもねぇ……)


 すると、クラウディアが申し訳なさそうに話してきた。

 心なしか、頬が赤らんでいる。


「あのう……今日はラストまで延長してもらえませんか? 今日はもう他のお客さんの相手をする気分じゃなくて……我がまま言ってごめんなさい」

「ああ。ええよ。構わねぇすけ」


「ありがとうございます」

 そう言いながら、クラウディアはルードヴィヒに抱きついてきた。そのまま追加サービスに突入する


 実は、クラウディアはクラウディアで、ルードヴィヒに想いを寄せていた。頬を赤らめていたのは、演技ではなかったのだ。


(娼婦の恋ほど不毛なものはないというのに……)


 彼女は理解していたが、自分の心には(あらが)えていなかったのであった。

お読みいただきありがとうございます。


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