第5話 旅立ち(2)
15歳となったルードヴィヒは、この上ない美貌の持ち主へと成長していた。
母譲りの透き通るような肌に美しく輝く銀髪。空色の瞳。そして少女のように可憐な美貌の彼は、その中性的な魅力と相まって、この年頃でしか出せない特有の妖艶な色気を醸し出している。
その姿は同じ年頃の頃の母マリア・クリスティーナの姿を彷彿とさせたが、かといって彼女と瓜二つというほどでもない。
ルードヴィヒは、ハラリエルのことを女男(男女?)と言えるような筋合いではなかったのである。
その一方で、本人にはその自覚が全くないのだった。
軍人というものは、ことあれば女気のない状況で長期間拘束される宿命を持った職業である。自然、彼らの中には男色趣味に走るものも相当数いた。
キリシタ教は男色行為を禁止していたが、これを撲滅できるほどには人々の間には浸透していなかった。
修行のためシオンの町に集まった武人たちの中には、そういった趣味を持つ者もおり、彼らから度々向けられるいやらしい視線を、意味がわからぬまでも不気味に思うルードヴィヒなのであった。
一方、ハラリエルの方は相変わらず性別がはっきりしていなかった。
服装は、従者らしく、普通の庶民が着るようなチュニックを身に付けている。
そして、いよいよ公都アウクトブルグへと旅立つ日がやってきた。
お供をするのは、豹人族のニグル、女騎士のクーニグンデ、女治癒士のルークス、そしてハラルこと天使のハラリエルである。
豹人族のニグルは、黒豹の頭と尾を持つ、2メートル近い身長の大男で、一切の無駄のない肉付きをしている。
帝国でローゼンクランツ双剣流剣術と双璧をなすリリエンタール1刀流剣術の使い手であるが、格闘術も大得意である。浅黒い肌をしており、眼光は鋭い。
女騎士のクーニグンデは身長170センチメートルの半ばほどであり、女性としては体格が大きい。
黒髪・黒目で浅黒い肌をしており、切れ長の目が特徴のクールな印象のする美人である。サラサラの長い黒髪を後ろで結んでいる。
女性にもかかわらず、凄まじい膂力の持ち主で、大剣を軽々と振り回す。
女である彼女が巨大な大剣を背負った姿は嫌でも人目を惹いた。
ルークスは身長160センチメートル半ばと少し小柄で、ハラリエルと同じくらいである。
透き通った白い肌にサラサラの長く伸ばした白髪は絹のように美しく、瞳の色はルビーのように赤い。可憐で儚げな顔つきをした美人であるが、どこかおっとりした印象があり、クーニグンデの鋭く尖った雰囲気と対照的である。
光系の治癒魔法を得意とする高位の魔導士であるが、顔に似合わず、格闘術も得意としている。
そしてハラリエルであるが、ゆるふわにカールした淡い金髪に青い瞳をし、天使であるから美人顔である。
スレンダーな体格で胸の膨らみもないように見えるので、男にも思えるが、微乳女子という線も捨てがたい。
そしてルードヴィヒ一行の出発のときが来た。
シオンの町の門前で別れを告げる。
「じゃあ。爺さ、婆さ。行ってくるぜ」
「くれぐれも思い上がったまねをすんでねぇぞ」
「わかってるてぇ! 爺さも歳なんだすけ、あんま気もむと難儀く(具合が悪く)なるがぁぜ」
「ガキんくせに、小癪な……」
グンターは苦笑いをした。
チュニック:膝の下まであるゆるやかなワンピース。腰の辺りでベルトをしめる。ヨーロッパ中世の庶民は、男女ともにチュニックが普段着だった。
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