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キルムーブ

 完全な鉄火場と化した団地内は、ある一人の参戦によって勢いが引きつつあった。

 ソイツがいつ侵入したのかはわからない。少なくても28番より後から来たはずのソイツは、完全に頭のネジが外れているような奴だった。


「はははははっ! どうしたオラァ!」


『Bタイプサブマシンガン』のけたたましい銃声に負けない、挑発的な叫びが聞こえる。またしても流れる死亡履歴キルログに、心底28番は震えあがった。


1が22をキル


 これで何度目だ? 1番の連勝が止まらない。漁夫の連鎖に飛び込むような奴は、少なからず好戦的な輩だ。が、コイツは明らかに度を越していた。積極的に銃声の場所に殴り込み、被弾や脱落を恐れずにガンガン殴り込んで来る。銃声に吸い寄せられた血の気の多い奴らは、漁夫の利を狙ったはずだが――


1が19をキル

1が47をキル


 それでも次々と参加者たちは、1番に返り討ちにされてしまう。途中まで派手なドンパチに参加していた28番も、この異常な化け物に気おされて……今は静かに『Bタイプショットガン』を握って震えていた。水平二連ショットガンと呼ばれるその銃は、たった二連射しかできない極端な特性の銃だ。

この銃は再装填リロードも遅いが、近距離で打ち込めば一撃必殺もあり得る超威力だ。つまり――間合いに入れば一瞬で相手を倒せるが、二発で決めなければこちらがやられる。恐らく今回のゲームで、最もハイリスク・ハイリターンな銃器だろう。

『角待ちショットガン』の構えの28番だが、有利な位置とは思えない、青ざめた顔をしていた。


「やべぇ、やべぇよ1番の野郎! この場面でキルムーブするか普通!?」


 それはバトルロワイヤル・ゲームに対し、理解のある参加者全員の思いだろう。1番の戦闘狂っぷりは『ただ最後に立つ一人になれば良い』バトルロワイヤルのルールで考えれば、明らかにやりすぎだ。何人敵を撃破しようが、自分が倒されたら無意味なのである。不合理に見える1番を解釈するには『バトルロワイヤル系のビデオゲーム』の文化を語らねばなるまい。


『バトルロワイヤル系のビデオゲーム』は、敗北しても大きなペナルティはないのだ。ゲーム内で死亡したところで、別の新しい舞台で勝負するだけ。基本的に繰り返し遊ぶものである。それで飽きない理由は、少なからずランダム要素があるからだ。

ランダムなアイテム配置と、偶然対戦するランダムな敵、ランダムな『制限エリア』縮小……ルールが同じで、同じ地形で何度遊んでも『全く同じ展開のゲームはない』ところが面白い。


 しかし何度も遊びゲームに慣れてくると、プレイヤーは遊び方に拘り始める。より多く敵を倒して勝利したり、より相手にダメージを与えて勝利しようとする。ゲーム運営側も優れた成績に対して『実績』や『バッチ』『勲章』を用意している事も多い。キラキラの勲章を手に入れるため、マンネリ化を防ぐための目標や指標として、自分には実力があるのだと顕示するため……そこそこ遊んだバトロワゲープレイヤーは、リスク承知で攻撃的な立ち回りをする事もある。1番の積極的な振る舞いは、そうした実績狙いの立ち回りだ。そんなことにメリットがあるとすれば……


「MVP賞狙いか……? い、いやそれにしたって……」


 神様曰く『取れ高を作った奴も救済してやる』と宣言しているが……狙って挑んで、途中で脱落しては意味がない。これが通常のゲームなら分かるが、超豪華景品チートてんせいを取りこぼすリスクを負うなど……控えめに言って狂気の沙汰だ。

 理解不能な殺戮者に、28番は震えあがる。すぐそばでなる銃声が、また一人参加者を刈り取っていた。


***


 1番は歓喜していた。このゲームに参加すると決まった、その瞬間から。

 確かに彼は異世界転生を希望していた。どうにかして勝ち組になりたいと願った事も嘘ではない。だがその方法を聞いた時、1番の心は……既に神への感謝で満たされていた。

 彼は……バトルロワイヤル・ゲームの中毒者だ。元々銃撃戦系のゲーム、FPSやTPSを遊びつくしていた1番は、当然その派生形であるバトルロワイヤル系にも手を出した。すぐに夢中になり、後発で出てくる様々なルール、有名無名の作品を問わず遊びつくし、沢山の敵と戦い、倒したり倒されたりしてきた。


 そのゲームが……極めてリアリティのある感触で遊ばせてくれるのだ。よくできたVRゲームに近いが、神様パワーのお陰で五感にもひしひしと来る。鼓膜に直接響く銃声、銃器の反動と被弾の痛み、硝煙と返り血の匂い……不快にならない程度に補正されているが、それでも液晶越しに見ていた世界を、直接感じることができる。


 もうそれだけで感無量だった。他には何もいらなかった。

 異世界転生の権利を要らない……とは言わないが、遊びつくしていた1番はよく知っていた。この手のゲームは、少なからず運要素を含んでいる事に。

 例えば、武器を引き当てる運。

 例えば、良い『制限エリア』が来る運。

 例えば、都合よく敵を先に発見出来る運。

 例えば、自分の使いたい道具を、補充できるかどうかの運。


 バトロワゲーは『経験を積むほど勝ちやすく』なれるが。

 どれだけ遊びつくそうが、決して『常勝』はあり得ない。

 ならば……超豪華景品チートてんせいに釣られるのではなく、たった一度のゲームを全力で楽しみたい。相手との銃撃戦を楽しみ、クソッタレな『制限エリア』にケツを追われる事を楽しみ、そしてブチ殺した敵から戦利品を奪う事を楽しもう。たとえ敗北したとしても、決して悔いることが無いように。


「どうした! お前らの敵はここにいるぞ!!」


 それは……最後の一人なれば何でもよいゲームに現れた、敗北を恐れないの狂戦士の咆哮。優勝を求めるはずの転生希望者にとっては、当然の心理が通じない理外の怪物。銃声を鳴らせば寄ってくる獰猛な捕食者プレデターだ。

 けれど誰かが倒さねば、最終的に1番が勝ってしまう。無数の参加者を撃滅した怪物を、退治せんと挑むのは――

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