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鉄火場の反対側

「こ、怖っ!? どーなってるの……?」


 67番の女性は、無数に流れる40番台~20番台のキルログに絶句していた。

 既に『制限エリア』内部に入った彼女は、その中心部にある倉庫群の中にいた。いくつもある倉庫の中から、最も『制限エリア』の中心に近い位置に陣取る。銃弾一発も射撃しない67番は、戦々恐々としながらも彼女なりの戦略を取っている。

 倉庫の隅、小さな部屋の一室に……持ちきれないほどのアイテムが散らばっている。これは67番が、周辺の倉庫からかき集めたものだ。


「ここは大丈夫……よね」


 びくびくと怯えながらも、彼女は手持ちの弾薬や回復薬をその場に落とす。そして静かに周辺を見渡しながら、別の倉庫に足を踏み入れた。

 そして片っ端から物資を拾い集めて、武器や弾薬を回収すると……大量に集めた道具を倉庫の一室にため込む。その量は五人でも持ちきれない物資量となっていた。


「ふふ……うっとりしちゃう」


 自分の行動の成果が、はっきりと物として表れている。せっせと周辺から物資をかき集める様子は、さながら巣穴に食べ物を運ぶ小動物のようだ。備蓄した様々なアイテムがあれば、しばらく安心して籠城できるだろう。眺めて満足した67番は、次の事を考え始めた。


「さーて、何使おうっかな~?」


すべての武器を舐め回すように眺める67番。色々と手に取って確かめて、彼女は二つの装備を手に取った。

『Aタイプスナイパーライフル』と『Aタイプサブマシンガン』を67番はチョイス。セミオート式で、Bと比べて連射の効くスナイパーライフルと……反動が小さく、ギリギリ中距離まで狙えなくもないサブマシンガンの組み合わせだ。持ち歩く弾薬もAの弾薬のみで良い。やや弾薬の消費が早いかもしれないが、弾ならいくらでもある。自分の装備を整えたところで、まだまだ流れる死亡履歴キルログに顔をしかめた。


「まーた40番台がドンパチやってる……」


 ゲーム開始直後は、90番から80番台のキルログが流れていたが……今はその付近が熱いようだ。けれど67番は不安が募る。

 今回のゲーム、後半に降りたプレイヤーが多い。確認する限りだが、70から50のログは流れていない。そろそろ戦闘が始まってもおかしくないのでは? 不安に駆られた67番は、ライフルのスコープを使って、自分が歩いてきた方向を見ると……いた。

大型の車が『制限エリア』へ走ってきている。こちらに来る様子はないが……67番は迷った。


「血の気の多いの、呼びそうなのよね……」


 下手に銃声を鳴らせば、それが乱戦の合図になりかねない。無数に流れるログを見て日寄ってしまう。物資は潤沢だが……どうやら67番は、争いを好まない気質を持つようだ。銃口は向けているけれど、引き金を引くそぶりはない。じっとスコープ越しの車を監視し続けるが……やがて散る火花を見て、彼女は小さく息をのんだ。


***


 放送塔の一角で、長い髪をなびかせる59番の『Aタイプスナイパーライフル』が火を噴いた。車両にはじける火花と、慌ててハンドルを切る敵の姿をはっきりと見る。Bタイプと異なり、Aタイプはある程度連射が効く。その分弾切れは早いが……59番は対策を考えていた。

 プレイヤーは二つまで銃を保持できる。59番は弾切れになった一丁めを収納すると、全く同じ武器を取り出した。

 単純だが良い狙いだ。『同種の武器を二つ保持して、弾切れになった後入れ替えて連射する』事で、遠距離から倍の弾幕を叩き込んだのだ。

 二挺目が弾切れを起こしたのと、スポーツカータイプの車両が爆発したのは同時だった。しかし死亡履歴キルログが流れない。爆発寸前で脱出した人影を見た59番は、舌打ちと共に再装填リロードを挟む。そのまま発砲するかと思いきや、彼女はもう一つのスナイパーライフルの弾を込めた。


「さすがに、自動で装填はしてくれないのね」


 武器はあくまで入れ替えただけ。使った弾丸は消費したままだ。もう一度撃ち始めるにはリロードしなければならない。二挺目にも弾薬を補充した59番は、車周辺に銃口を向けた。

 ――開けた場所で銃撃を始めた甲斐もあり、敵は必死に走って逃げている。さらに一度、長々と再装填の時間を取ったのも幸いしたのか、完全に相手はこちらの位置が分かっていない。車に守られていた上に、走行音で銃声が聞こえなかったのだろう。

 狙い放題な敵にぴったりと照準を合わせたまま……だが59番は発砲しない。引き金に指をかけているが、ゆっくりと呼吸を繰り返し息を整えている。


「そうよ、そのまま進みなさい……ちょうど良い木があるでしょ?」


 必死に逃げ惑う相手に囁く女。まるで死神に魅入られたかのように、逃げ惑うそのプレイヤーは木の陰で治療を始めてしまう。59番の目線からは、丸見えとも知らずに。

 きょろきょろと首を動かしてこそいるが、はるか遠方から狙う59番を発見できない。ペロリと舌なめずりを終えたのと、複数の発砲音が響いたのは同時だった。


1が13をキル

59が58をキル


「あら、私の前の人だったの? 御免あそばせ……って」


 敵を撃破した履歴が流れ、安心したのも束の間……その次に流れた無数のキルログを目にして59番は完全に言葉を失う。

 その異常な履歴は……しばらく止まることなく流れ続けた。


1が16をキル

1が32をキル

1が29をキル

1が6をキル

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