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漁夫の利

 スナイパーライフルの反撃を受けた41番は『Aタイプショットガン』を装備し、慎重に距離を詰めていた。

 既にダメージは完全に回復している。あの後何度か顔を出し、相手の様子を伺ったが反応がない。潜伏と判断した41番は、相手がいるであろう建物に接近した。

 ポンプ式散弾銃の『Aタイプショットガン』の装填数は六。一発撃つ毎に排莢ポンプアクションが必要で、リロードも一発ずつ弾を込めねばならない。少なからず使いにくい銃だが、近距離での火力はすさまじい。ゼロ距離で全段命中させれば、一撃で倒す事も出来るそうだが、狙う機会はないだろう。近距離で二発叩き込めば、それで十分相手を倒せる武器だった。


 が、41番はその武器だけで攻めるつもりはなかった。懐からサブの装備……『閃光手榴弾スタングレネード』を取り出す。ピンを引き抜き、雑に投げた物質が、壁を反射し部屋の中に吸い込まれていく。しばらくして強力な閃光と破裂音が響くと同時に、41番はショットガンを構えて突入した。

 が、しかし――


「いない……?」


 またしても空き室だった。拍子抜けと言わんばかりに武器を下ろす。念入りなクリアリングを繰り返しているが、敵の気配が全くしない。敵の武器の一つはスナイパーライフルだから、接近してしまえば十分勝ち目があると踏んだのだが……

 足音一つ聞こえないことを考えると、もう移動したのだろうか? ゲーム開始から四分が経過し、12名ほどが脱落している。『制限エリア』を目指すにもまだ早い気がするが……有利な地形を先んじて確保したのかもしれない。それもまた戦略として、何らおかしくない選択肢ではあった。


 41番は迷う。移動する事は決定事項だが、このまま真っ直ぐ侵入すれば、待ち伏せされる可能性が高い。相手は『スナイパーライフル』を装備しているのだ。先に安全圏で待機し、後から『制限エリア』へ入ってくるプレイヤーを、一方的に狙い撃ちにする戦法が考えられる。『Aタイプアサルトライフル』なら反撃できるが、見えているリスクに飛び込むこともあるまい。


「……回り道するか」


 相手はこちらからの牽制を受けていた。視線を切って移動したなら、真っ直ぐ『制限エリア』内に入るか、逆に遠ざかるかしかない。順当に考えれば前者だろう。

 敵がアイテムを漁った後だからか、残された物資量はしょっぱいが……使った手榴弾の代わりに弾薬を詰め込み、41番は移動を試みた、まさにその時。

 無数の銃声が聞こえた。最初は一種類だったが、反撃の射撃音が加わる。咄嗟に部屋の隅に身を隠し、耳で状況を探った。

 どういうことだ? まだ対面にいた敵が近場にいて、別の参加者とバッティングしたのか? しばらくじっとしていた41番は、新たに頭に流れた死亡履歴キルログを見る。


36が39をキル


 ――41番より五つ前に降りた参加者と、二つ前に降りた参加者が戦った? 今の戦闘はそういう事になる。様子を見るか迷う41番は、さらなる銃声にぎょっとした。

 連続する射撃音だけじゃない。連射感覚の長い独特の発砲音も交じっている。しばらくキルログが流れなかったが、さらに恐ろしい展開は続いた。さらに銃声の種類が追加されたのだ。

 ――バトルロワイヤル系のゲームを知る41番は、とんでもない鉄火場に身を置いてしまったと恐怖した。


(最悪だ……漁夫の連鎖の中心に……!)


 自分以外全員が敵のバトロワでの戦闘において……容易に勝ちを拾う方法は『正面からの一対一』ではない。不意打ちや奇襲での先制攻撃も有効だが、敵同士の戦闘に途中から参戦し『漁夫の利を狙う』事が常套手段だ。なぜなら戦闘中にしろ、戦闘終了直後にしろ相手は疲弊している。傷ついた体を回復させるアイテムの使用中は、ほとんど移動ができず他の動作も出来ない。早い話が、無防備な時間ができるのだ。ここを狙うのが効率が良い。


 しかし――そうして『漁夫の利』を狙い銃声を鳴らせば、他の参加者たちに位置が割れてしまう。戦闘の気配を聞きつけた敵は、さらなる『漁夫の利』を狙って攻勢に出る。しかしその銃声がまた別の敵を呼び――といった原理で、永遠と戦闘が終わらない地獄が生まれてしまう。

 最近では某映画の影響もあって『無限戦闘編』などと呼ぶ人間もいるぐらいだ。次から次へ銃弾と手榴弾、そしてキルログが流れる愉快な鉄火場だ。


 最も……超豪華景品チートてんせいがかかった場面では笑えない。通常戦闘にリスクが無いとは言わないが、この『漁夫の利無間地獄』は危険度が桁違いに高いのだ。勝ち残った時のメリットもあるが、こんな序盤で脱落したくない41番は、しかしもう落ち着くまで逃げられないと悟った。

 さらに30番台のプレイヤーのキルログが流れ、なのに今も銃声が止まらない。建物から出ようものなら、他のプレイヤーたちに見つかってしまう。まだ時間に余裕もあると、部屋の一室の隅で、41番はじっと身を潜めた。


 地図や装備、今後の予定を考える中で、さらにキルログが流れ続ける。いつの間にか番号は、20番台や40番台のプレイヤーの物が入り始めた。どうやら長引いた戦闘が、やや離れた位置にいた敵を招き始めたようだ。

 終わらない戦闘と銃声の音に、緊張した吐息を吐く41番。

 ガチャリとすぐ近くで開いた扉の音に、ショットガンを握る手が震えた。

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