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少なめのアイテム

 手にした物資の数に不満を覚えた『37番』は、近場の団地に足を運んでいた。

 バトルロワイヤル・ゲームにおいて、開けた土地にそのままアイテムは置かれていない。室内や小屋、大きな建物やシンボルのような構造物……そういった『目立つ場所』に武器やアイテムは主に配置されている。

 そして目立つシンボルなほど、広ければ広いほど物資の量と質は上昇する。最初は森の一軒家に降りた37番は『Bタイプハンドガン』と、心もとない回復アイテムで団地に足を踏み入れた。これからの戦いに備えて。


団地に入った直後、対面の五階建てから37番は射撃された。被弾時に痛みを感じたが、不思議なことに何発食らっても、体が千切れたり動かなくなることはない。ただ、自分の体力値が削られる感触は愉快なはずもなく、まともに反撃も出来ないまま室内に立てこもった。


「いてて……」


 団地なだけあって、ほぼ同じ構造物に入りこめた37番は、少ない回復アイテムを使っていく。大きく回復する治療アイテムほど、長い時間その場で止まらねばならない。さらに入手できる数も少ないと来ている。しばらく迷った後、37番は最も効果量の低い回復アイテムを、時間をかけて使うことにした。一番価値が低いおかげで、割とそこらに転がっている。


「あんの野郎……ここに降りてやがったのか?」


 こうして治療の最中に、相手に接近されれば無防備だが……敵は五階から弾丸を降らせてきた。距離を詰めるには少し遠い。他の敵の気配もないし、時間的余裕があるならこのやり方が効率的だ。

 それに、接近戦になれば多少はマシだ。『Bタイプハンドガン』は、単発火力の高いリボルバー式拳銃。室内なら取り回しが良いし、射程距離の不利もなくなる。最も、相手が二つ目の武器に、ショットガンやサブマシンガンを装備していた場合、話は別になるが。


「何か……何か落ちてないか……」


 プレイヤーが同時に持てる武器は二つ。しかし37番は、ハンドガン一丁しか武器を発見できていない。アイテム運を補うため出向いた先で、さらに接敵するとは運勢最悪だ。

 なんでもいいから、もう一つ武器を用意しなければならない。いくつかの部屋を回ると『Bタイプスナイパーライフル』を37番は見つける。とりあえず確保したが、37番の顔は優れなかった。


「ボルスナかよ……」


 ボルトアクション式スナイパーライフル。これを略して『ボルスナ』と呼ばれることがある。一発一発を手動で排莢する仕組みの銃器だ。

 様々な銃撃戦をモチーフにしたゲームの場合『連射速度が最低の代わりに、弾丸一発のダメージが極めて大きい』という性能に落ち着く。作品にもよるが、敵の急所に当てれば一撃必殺もあり得る銃器だ。


 スナイパーライフルらしい性質なのだが、この武器は非常に使い手を選ぶ。上手いプレイヤーが扱うと恐ろしいが、苦手な人種はとことん当てられない。どうやら37番は後者に属する人間のようだ。


「ないよりマシか」


 早速手に持った37番は、銃器を構えて対面の団地をのぞき込む。もう移動しているかもしれないが、逆にこちらが顔を出すのを待っているかもしれない。

 ――今回のゲームの特徴として『武器のアタッチメントが存在しない』点も挙げられる。

 拾った武器を強化するアイテムも、バトルロワイヤル・ゲームは自前で集めなければならないが……この神様は気が短いのだろうか? そうした強化要素はない。拾った武器はその瞬間から、決められた範囲の性能を発揮してくれる。


 構えた瞬間、長距離狙撃用のスコープが現れ、37番が望むがままの倍率で拡大される。軽めの倍率で全体を見つめ、ちらりと三階で動いた陰に照準を合わせて拡大した。

 いた。連射の効くアサルトライフルを構え、同じようにこちらを探す敵の姿がある。すぐに37番は狙いを定め、彼の『Bタイプスナイパーライフル』が火を噴いた。


 乾いた大きな破裂音。スコープが反動で揺れ、下側に見える敵の頭部に弾丸が突き刺さるのを見た。これが実戦なら即死だが、ゲームによっては仕様が異なる。このゲームにおいても、ヘットショット一発で相手を倒す事は出来ないらしい。

 が、かなりのダメージが入るらしく。相手プレイヤーは顔を出さなくなった。恐らく先ほどの37番のように、回復アイテムを使って治療しているのだろう。まだ本格的に戦える物資量ではない37番は、窓際に立たないよう注意しつつ団地を回った。


 あくまで37番が求めるのはアイテムだ。使える武器なり、弾薬なり、回復アイテムなどを取りに来ただけである。今の一撃で、ビビってくれればそれでいい。探しているうちに37番は、今更ながらこのルールの特性に気が付いた。


「バックや防具もないのか……」


 バトルロワイヤル・ゲームにおいて、すべてのアイテムは現地調達。偏りも生まれる分、少なからず運要素が強い部分がある。強力な銃器が落ちているか、それに対応する追加パーツが拾えるか、弾薬、回復アイテム、手榴弾、そして何より……『優れた防具と、バックパックが拾えるか』も、非常に大きい要素だ。

 例えば同じ銃器同士で撃ち合ったとしても、防具に差があれば勝敗を分ける。一方的に撃たれたとしても、良い防具があれば生き残れる可能性が上がる。最後の一人になるまで戦うバトロワゲーにおいて、防具は非常に重要なアイテムだ。


 バックパックは『持久力を上げるアイテム』と置き換えることができるだろう。持ち運べるアイテム量を増やすバックパックは、補給が出来なくても戦える時間を延ばせる。これはこれで重要な要素なのだが、今回のゲームはそれが削除されていた。

 その意図はわからないが、ないなら無いでシンプルでよい。まだ争う気のない37番は今の装備のまま、裏口から静かに『制限エリア』内部へ足を運んだ。

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