癖の強い銃器
次の『制限エリア』に入ったのは『小さな丘』と二つの民家、そして『倉庫群』の端っこだ。有利と踏んで『倉庫群』に飛び込んだプレイヤーは、自らの運のなさを呪い始める。危険に飛び込み、集めた資源コストを支払ったのに、失うばかりでリスクも残る。けれど最後の一人になるには、それでも戦うしかない。今は下火でも『制限エリア』縮小が迫れば、またしても激しく戦火が燃え上がるだろう。
「う、うわぁ……突っ込まなくてよかった……」
41番は心の底から安堵する。人の集中を察した彼は、ぽつぽつと立つ民家の一つに入っていた。静かに隠れたまま過ごし、無数に流れる爆音を聞き続けていた。
そして非常に運が良い事に……41番のいる家は、次の『制限エリア』に入っていた。端の方ではあるが、室内に居座れる幸運に感謝している。
バトルロワイヤル・ゲームにおいて……『家』『室内』はとても有利なポジションだ。
外を見れる窓、がっつりと敵の視線と射線を防げる壁、二階建てや三階建てになれば、高所から敵を打ち下ろす事も出来る。運よく他のプレイヤーに漁られていなければ、少しアイテムを補充する事も出来るだろう。時と場合によっては……『家を確保していなかったせいで詰んでしまった』事も少なくない、それほど『室内』は強い立ち位置なのだ。
「これなら、次の縮小まで様子見でいいな……」
次の『制限エリア』は分からないが、わざわざ有利位置を取れているのに、手放す事もあるまい。もし丘側に歩くプレイヤーがいるなら、背中から撃ってやればいいのだ。
殺伐としたバトルロワイヤルの最中だが、常に気を張り続けるのは疲れる。そこそこ安全な場所で、41番は腰を下ろして心を休めた。
『Aアサルトライフル』を握り、少し振り向いた時だった。廊下にいたからか、狭い通路に銃が引っかかってしまう。その時胸に、ひやりとした感覚を覚え……慌てて41番は武器を探した。
「こんな欠点があったなんて……」
試しに『Aショットガン』も構える。『Aアサルト』と比べると問題は少ないが、それでも気になる点だ。記憶の中からアイテムの配置を思い出し、『Aアサルト』を一番奥の隅の部屋へ置いておく。代わりにリビングに置かれていた『Aハンドガン』を手に取って構えた。
「意外と射程もありそうだし……この家にいる間は『Aハンドガン』を使おう」
他の銃と比べても遥かに小型の武器、拳銃を構えて呟く。装填数は13発、一見頼りない武器だが、やはりゲーム補正のお陰で火力は出る。しかしこの銃を使うプレイヤーは少ない。原因は貧弱そうな見た目もあるが、一つ分かりやすい難点がある点だ。
「セミオートでしか撃てないのか……」
連射力こそある『Aハンドガン』は、しかし厄介な弱点がある。大半の連射力のある武器は『引き金を引いたままなら、自動で連射してくれる』機能がある。これをフルオート射撃と言うのだが、なんと『Aハンドガン』はこの機能がないのだ。
つまり……この銃器は一回引き金を引くたびに、一発しか弾丸が発射されない。一弾倉は13発だから、『敵を狙いながら』『銃器の反動を抑えて』『さらに最速で13回引き金を引き続ける』ことで、初めて最大の性能を発揮できるのだ。
「これだけなのに、なんか妙に使いづらい……」
言葉にすればたったこれだけ、他人がやっているのも見る分には強い。しかし自分で使ってみると、恐ろしく感性に合わない……それが『セミオート武器』の性質だ。こればかりは経験した者にしか、分からない事だろう。
試し撃ちもかねて、窓の外にいる参加者を狙う。遮蔽物のない丘を『制限エリア』の優位を目指して進んでいく。その背中に、容赦なく発砲を始めたのだが……41番は顔を顰めた。
「ぜ、全然ズームされない……」
ハンドガンは、長距離射撃用の銃器ではない。
故に『倍率の高いスコープ』は装備出来ない。精々二倍程度のズーム倍率しかできないようだ。性能としては遠距離も狙えるが、狙うには自前の索敵力と観察眼、そして精確な照準力が必須……
これはバトルロワイヤル・ゲームに限らず、多くのゲーム作品で稀によくある事柄。
『使いこなせば極めて強力な武器』だが、『非常に癖が強く、誰でも使える訳ではない』武装……万人に受け入れられぬ癖と引き換えに、オーバースペックを発揮するタイプの武器。それが『ハンドガン』タイプの武器に与えられた立ち位置だった。
「難しいけど……弾持ちは良いか」
一発の火力も悪くない。手動連射の影響か、無駄玉も抑えることができる。今後も持ち運ぶかを考える41番は、階下で動く何かの気配にぎょっとした。
足音が聞こえた気がする。草が擦れる音か? 風で靡いた……という事はあり得ない。銃撃戦ゲームにおいて、音もまた重要な要素だからだ。
銃声はもちろんの事、近くに手榴弾が転がって来た時、そして……接近してくる誰かの足音などなど、決して聴覚も疎かにできない。
一時発砲をやめた41番は、身動き一つせず耳を澄ませる。
――控えめな扉の開閉音が、やはり足元で聞こえた気がした。




