手榴弾の意味
潤沢な資源を元に、67番は怪物に挑む。まだまだたっぷり残った『Aタイプ弾薬』を元手に、『Aアサルトライフル』が鋭く弾幕を張った。
赤い血のエフェクトが弾け、命中した手ごたえがある。しかし奴は――1番ははっきりとこちらの姿を見て笑って見せた。
「頭おかしいんじゃないの!?」
超豪華景品より、今回のゲームを楽しむかのような……いや、事実楽しんでいるのだろう。でなければ、ゴリゴリに敵を引き殺して回る必要もないし、対決を望むような煽り文句を、周囲に喚き散らすわけがない。
「戦闘狂め……! ここで堕ちなさい!!」
立地も物資量も、圧倒的にこちらが有利のはずだ。吠えて叫んでいても、絶対に消耗しているはず。現にここ最近は、手榴弾の爆発音がしなくなっていた。恐らく残量が少ないか、完全に切らしたかのどちらかだろう。
――バトロワゲーに置いて手榴弾は、極めて難しい立ち位置にある。
基本、銃器による攻撃は『直線』だ。自分と敵の間に障害物があると、攻撃は成立しない。そこで役に立つのが『手榴弾系』の武器である。
一度の攻撃で一個を使う、攻撃効率の悪そうなソレ。しかし銃器に出来ない、極めて重要な役割がある。
それは――『遮蔽物越しに攻撃できる』『隠れた相手に攻撃できる』点。
相手を無理やり移動させたり、こちらが物陰に隠れたまま、山なりに爆弾を投げて攻撃できる。これは決して銃では代用できない。
しかし……故に持ち運びの効率がすこぶる悪かったりする。バトルロワイヤル・ゲームの作品にもよるが……弾薬60発と手榴弾1個が、同じ容量を喰う作品さえあるほどだ。逆に言えばそれだけの価値が、手榴弾には存在する。
「出し惜しみ無しよ……! たっぷり味わいなさい!!」
もちろん67番は備蓄しているが、今まで手榴弾はほとんど用いていなかった。弾薬と比べて貴重品な事を、集めている最中に感じたらしい。重要な場面が来るまで、備えて蓄えていた通常の手榴弾と、閃光手榴弾もガンガン投げていく。
まだ手榴弾の種類はもう二つある、そのうちの一つを手に取り、67番は1番の奥側を狙って転がした。
『焼夷手榴弾』と書かれたそれは、通常の手榴弾が『緑色のパイナップル』っぽいのに対し、形はそのまま赤くカラーリングしたような形状をしている。実際にこんな武器があるのかは知らないが、ゲームのルールとして用意されているなら、存分に使わせてもらおう。
「火だるまには……ならないわよね、1番だもの」
しばらくして起爆した手榴弾が、周辺に炎を広げ燃焼を始めた。この手榴弾はどうやら……『爆発後、しばらく周辺を円状に燃やす』効果を持つ。瞬間的にダメージは与えられないが、長く燃える炎は『しばらくその場所に立ち入る事を許さない』……!
67番は敵が隠れそうな場所へ、次から次へと投げ入れていく。実際の人間の場合、狙った通りに物を投げれるかは、多少練習が必要だが……素晴らしきかなゲーム補正。握って構えた時点で、何もない空間にガイドラインが見える。どう手榴弾が飛んでいくかが、投げる側に分かるようになっていた。
「隠れる場所なんて無いわよ……!」
的確に投げられた『焼夷手榴弾』が、67から見た物陰裏を焼き尽くす。遮蔽物を潰して、有利な位置から射撃を企てたが……奴もさすがと言うべきだろう。反撃の手榴弾を、67番の居座る小部屋へ、正確に投げ入れてきた。
「!?」
だが、それは攻撃系の手榴弾ではなかった。転がったそれは濛々と、真っ白い濃い煙を吐き始める。刺激物は含まれていないが、軽く67番はせき込んだ。
「『煙幕手榴弾』!? 脳みそ筋肉のアンタがなんで……!?」
名前の通り白煙を広げる煙幕手榴弾は、攻撃性能を一切持たない。ひたすら敵を喰い殺してきた1番が、なんでこんな消極的な道具を? 想像は出来ないが、しかしこれは困った事になった。
一つの窓を潰されたので、顔を出すなら別の位置からやるしかない。けれど角度が変わってしまうと、銃で攻撃できる範囲や、敵から狙われる位置も変わってしまう。残りの窓から顔を出すのは、少々ためらわれた。1番なら、他の窓から顔を出した瞬間に、反撃してきそうな気がする。
けれど、手をこまねいていては奴は距離を詰めてくる。同じ武器を用意して、正面から撃ち合う事も出来るが――
「無理無理……絶対に気持ちで負ける」
これはゲームではあるが、転生を賭けた真剣勝負でもある。
故に誰もが気負いがあり『敗北したくない』と、どこかで重圧が胸の中にある。それを跳ねのける事は簡単な事じゃない。本気の勝負だからこそ気負いが生じ、けれどそれは時に動きを鈍らせる。
奴は……そうした圧さえ楽しみ、ねじ伏せてきた。真剣勝負だからこその重圧を、1番はまるで意に介さない。故に強者として、無数の敵を屍へ変えてきたのだ。
たとえ同じ武器で撃ち合ったとしても、奴は恐怖が麻痺している。逆にこちらはどこかで、転生への執着が胸にある……同じように戦うことは、67番には絶対に出来ない。
数値に見えないこの差は、その実致命的なまでに大きい。ならば――
「こざかしく、やるしかないわよね……」
手に持った『Aアサルトライフル』を捨て、『Aサブマシンガン』に持ち替える。
無数の物資を蓄えた彼女だからこその罠、果たして1番に通用するのか……




