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悪女を断罪した王太子が聖女を最愛とするまで  作者: 空原海
第三章 カタブツ王太子は愛妻家
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第三話 妻との逢瀬




「おや。わらわが愛しの旦那様。ようやくの訪れじゃ」


 蒼の離宮は長い廊下の片側をどこまでも続くかのように、大きな窓が延々と続く。その窓ガラスは薄い蒼の色ガラスを嵌め込んでいて、天井から床まで届く。

 一面の窓ガラスから月光が差し込み、バチルダの白い頬を蒼く照らした。



「……会いたかった。バチルダ」



 リヒャードの熱に浮かされたような切羽詰ったような声色に、バチルダはクスクスと笑う。



「わらわはてっきり、腹が膨らみ抱けぬ妻など用はないと、おぬしに見捨てられたかと嘆いておったというのに」



 バチルダの腹はまだ薄い。

 懐妊が知れたばかりで、体調も気分も安定しない。既に第一子の出産を経験しているバチルダだが、経産婦だからと悪阻が軽くなるわけでもない。

 リヒャードはゆっくりと歩を進め、小さく華奢なバチルダの正面に立つ。



「……そのようなことが冗談でもあると思うか?」



 リヒャードがバチルダの頬を撫ぜると、バチルダはリヒャードの手の上から自身の細い指でそっと包み込む。



「おぬしに冗談は言えぬな」



 バチルダの蒼い目が月光を弾いてリヒャードを射抜く。

 リヒャードはバチルダの腹に衝撃を与えぬよう気遣いながらも、情欲に(まみ)れ、僅かに()いた手つきでバチルダの腰を引き寄せた。

 ゆっくりとリヒャードに倒れ込むバチルダの顎を掴み、リヒャードは深く口づける。よろめくバチルダの腰をしっかりと支え、バチルダの口腔内を味わい尽くす。

 バチルダが空気を求めてリヒャードの胸元を叩くと、リヒャードはようやくバチルダの唇を(むさぼ)るのをやめた。

 二人の間を繋ぐ銀糸が、月光によって(なま)めかしく光った。



「……はっ……」



 バチルダの呼吸が整うのをリヒャードは待つ。大きく上下する胸を宥めるように、リヒャードはバチルダの背を(さす)る。

 バチルダの呼吸が次第にゆっくりと間をとり、整っていく。リヒャードは愛しい妻を抱く手に力を込める。



「容赦がないな、おぬしは……」



 恨めしげなバチルダの眼差しに、リヒャードは眉尻を下げる。



「すまぬ。君を前にすると、どうにも余裕が持てぬのだ」



 連れ添って六年。

 既に子を設け、新婚というわけでもない。だがリヒャードは未だにバチルダに焦がれ、リヒャードの内に住む愚かな獣がバチルダを求めて(かつ)えている。



「……苦しかったか?」



 気遣わしげにリヒャードがバチルダの白い頬をカサついた指先を滑らせ、幾度も往復する。

 バチルダはほんのりと頬を染めながら、婉然とした微笑を口元に讃える。



「ふふ。おぬしに求められることに歓びを覚えるわらわとて、愚かな女に過ぎぬな」



 リヒャードはバチルダの挑発的な言葉と艶姿(つやすがた)に欲望がもたげるのを感じた。



「……あまり私を煽るでない。抱けぬ苦しみから酷くしてしまいそうだ」


「ふっ……はは! 抱けぬのに酷くするとは、これいかに!」



 高らかに笑うバチルダをじっと見つめたあと、リヒャードの琥珀色の瞳に獣性が宿る。



「……こうするのだ」



 性急な手つきでバチルダを掻き抱くと、リヒャードは細い(くび)にかかった亜麻色の髪を払う。そして露わになった艶めかしいうなじへと勢いのまま噛み付いた。




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