4.SDX発進!
旅立ちです。
「まぁこんなもんだろ」
スバルは額の汗を拭う、前の目にある機体は、見違えるほに綺麗になった。
「お、終わったぁー」
休憩もしないまま、ただひたすらに作業をし続けていたカーチェスはその場に倒れこむ、時刻は朝の六時になろうとしていた。外はもう明るい。
「すっかり全盛期の姿に元通りじゃなぁ」
そういって豊吉がガレージに入ってきた。
「いや、じっちゃん、全盛期より遥かによくなったよ、カーチェスがいいパーツを集めてくれたからな」
カーチェスは顔だけ上げ得意気な表情をする。
「あとは武器じゃな、よい機体にはよい武器がつくものだ」
「ああ、とりあえず月川さんを当たってみよと思ってる」
スバルがそういうとカーチェスが飛び起きる。
「月川さんって言うとあの月川信夫大先生ですか?」
カーチェスが少々興奮気味にいう、彼がそうなるのも無理はない、BAライダーにはあまり知られていないが、メカニック界においては、彼は超がつくほどの有名人だ、ほぼ100%彼の名を知っているだろう、武器開発において彼の右にでるものはいないとまで言われている、カーチェスがそうなるのも無理はなかった。
「ああ、そうだ」
「月川さんとお知り合いなんですか?」
カーチェスは目をキラキラさせながらスバルに歩み寄る。
「ああ、軍にいた頃にちょっとな」
「すごいです、すごいです」
カーチェスはより一層、目を輝かせる、あたかもオモチャ買ってもらった子供のように。
「さて、悪いが俺はもう行くぜ、もたもたしてる時間はないんでな」
「もう、行っちゃうんですか」
カーチェスはしょんぼりとする、目の輝きはどこへやら。
「悪いなカーチェス、じゃ〜じっちゃ…」
「スバルよ!カーチェスを連れて行ってやってくれんか?」
豊吉は急に話を切り出す。
「えっカーチェスをか?…別に構わないが」
あまりに急だったのでスバルは驚きを隠せない。
「師匠いいんですか?」
いいんですかと尋ねる、カーチェスの目は、それこそ、そこに太陽があるのではないかと思わすほどに輝いていた、すでに行く気満々のようだった。
「カーチェスはまだ若い腕も確かじゃ、しかし、こんなとこに居っては、のびるものものびん、それに良いメカニックは一度外の世界を見ておく義務がある、外の世界を見て、BAの使われかたを見て、そして自分の作るべきものをしっかり見極めてもらいたいのじゃ。」
「師匠…」
カーチェスの目は涙が混じっているようで、それが目の輝きと合わさり、まるで宝石のようにみえる。
「いいんだな、じっちゃん」
「ああ」
「カーチェス!」
スバルは怒鳴るような声でその名を呼ぶ、カーチェスは一瞬、ビクッとなった、がそれに答えるように返事をする。
「はい!」
話し始めるスバル、彼の目は真剣だ、カーチェスからぶれることがない。
「俺は安全な道を通って行くわけじゃない、お前の様子を見て、お前に合わせて行くつもりもない、この平和な街にいるから分からないかもしれないが、外はお前が思っている以上に危険が多い、下手すりゃここに生きて帰ってこれないかもしれねぇ…それでも行くか?」
「行きます、僕が知らないことが多いなら僕はそれを見てみたい」
カーチェスの目に力がこもる、スバルはじっとそれを見て黙る、しばらくして微笑んだ。
「わかった、1時間後にここを出る、準備をしてこい」
「はい!」
カーチェスはガレージから飛び出す。
「じっちゃん本当にいいんだな?」
「二度もきくなて」
2人はスバルのBA、〈SDX〉に乗り込む。
「じゃあ、じっちゃん行くな」
「師匠どうかお体にきをつけて、それではいってきます」
カーチェスはコックピットから体をのりだす。
「おう、頑張れよぅ〜」
「よし、行くぞ、SDX発進!!」
ブースターが火を吹き風を巻き起こす、勢いよくガレージからでた機体は一気に空高く舞い上がり街が徐々に離れていく。
「わぁ〜〜」
空の上から景色にカーチェスは目を奪われる。
「初めてだろ自分のメンテした機体に乗るのは」
「はい、というかBAに乗ること事態が初めてなんです」
「ははは、そりゃいい、じゃあ、ちょっと勉強しとこうか、BAの飛行可能制限高度は何キロか知ってるか?」
カーチェスは少し黙りこみそして答える
「えっ…えーと、20キロとかですか?」
「残念、どこまで飛ぶつもりだよ、正解は2〜5キロ程度だ、ちなみに一般旅客機は高度10キロ程度だ」
「でも、もっと飛んでる印象がありますよ」
「それは戦争のときだな、戦闘危険区域宣言が発せられれば何キロでも飛べるようになる、さらに周辺20キロに渡って一般市民に退避命令がでる、そして戦闘機、物資搬入機以外の飛行機は飛行禁止になる」
「あー、なるほどよく知ってますね」
「軍に入るにはそういう知識が必要になる、BAを操縦できたるだけじゃダメだってことだな」
「スバルさんはやっぱりすごいです。尊敬しなおしました」
「そうだろう、そうだろう」
話もそこそこにBAは加速していく街はもう見えない。
ミーソタネ地方の町ピックバーン、スバルとカーチェスは数時間の移動の末この町に到着していた。人口約一万人のこの町は海に面していて貿易の町として多くのBAや船が立ち寄る。
「ここに月川先生がいらっしゃるのですか?」
どうやら、カーチェスは少しでも早く月川に会いたいようだ。
「いや、ここには燃料補給と物質調達、それと海を渡るために来たんだ」
「BAで海を渡るんですか?」
「それもできなくはないんだが、BAで海を渡るとなるとしんどいからな船で行くつもりだ」
「スバルさん、スバルさん、僕、船も初めてです!」
清々しい笑顔とキラキラの目のタブルコンボがスバルに向けて飛んでくる。
「それはよかった、じゃーこれ」
というとスバルはカーチェスに紙と金を渡す、両手のひらに置かれたそれをみ彼は首を傾げる。
「そこに書いてあるものを買ってきてくれ、後ほしい物があるなら買ってこい、俺はBAに燃料をいれてくるから」
「了解」
「2時間後にここに集合な」
「はい」
「じゃあ解散」
そういうとカーチェスはBAのパーツを買いに行った時のようにすっ飛んでいく。
「よし、行くか」
スバルはBAに乗り込み飛び立つ。
BAショップに降りたスバルは店内に入る、少しぼろぼろの店内にはジャズ系音楽が流れている、横を向くと窓を拭いている店員と目があった。
「燃料満タン頼むよ」
そういうと店員は威勢のいい声と共に店をで、燃料の残量を確認しにいく。
「満タンは百万セル(お金)だな」
「…ちょっ、高すぎねーか」
「て言われてもねぇー、最近はどこに行ってもこの位はするよ、むしろこの辺は安い方だよ」
スバルが収容されていた一年の間に原油価格は高騰しているようだった。
「そうなのか…しゃーないか、じゃあ〜それで頼むよ」
軍の時に貯めていた金はあるが、すぐになくなると気づいたスバルであったが、結局はどうにかなるだろうと言う考えにいたった。
「BAはまた後で取りにくるよ」
「あいよ〜」
スバルはそういい残すと、次に船の手配にいく。
一方、カーチェスは
「え〜と、食べ物は買ったし潤滑油もオッケイ、後は測量計付きの小型望遠鏡か…どこに売ってるんだろう」
小型望遠鏡がなかなか見つからずウロウロしていた。
話はスバルに戻る。 スバルは船のチケット売り場にきていた。
チケット売り場には広範囲レーダー、護衛用BA搭載、あなたに快適な海の旅をお届けします、などと書かれた看板がある。
「貨客船サトマットのグロズニー行き、夜12時発のチケット二枚とBA一機の収納庫を頼む」
「ご利用ありがとうございます。チケット代2万セルと収納庫代13万セルで合計、15万セルになります」スバルはお金を渡す。
「お部屋は26号室、収納庫は二番になります。BAの積み込みは出港の1時間前までにお願いします」
手続きを済ませ、売り場を出るスバルの耳に船員であろう人の話し声が聞こえた。
「次の便の護衛用BAがないみたいだぜ」
「なんでだ?」
「なんか手違いで違う便に乗ってったみたいだぜ」
「まじかよ、まっいいじゃねーか、どうせ襲ってくる奴らなんていないだろ」
「だよな、でもいちよう船長にいっとくか」
「そうだな」
周りにはスバルの他に客は1人しかいなかったが、そういうこと、人に聞こえるような声で話てていいのか、と思いながらスバルはカーチェスとの待ち合わせ場所へと歩き出す。
待ち合わせ場所に着くとカーチェスが五分、時間に遅れてやってくる。
「すっすいません、小型望遠鏡が、なかなか見つからなくて」
とカーチェスは息をきらせながら言う
「気にするな、俺も今来たとこだ」
そういうスバルも実際に十秒ほど前についたところだった。
「それより、別に無理して探すこともなかったんだぞ、小型望遠鏡」
「いえ、僕は少しでもスバルさんの役にたちたいですから」
「そうか、まっもしかしたら意外と早く使うことになるかもしれないぞ」
「何に使うんですか?」
「いろいろだ、それより船の時間までBAの中で寝とくぞ」
「船の中で寝ればいいじゃないですか」
「カーチェス、船の中は楽しむところだ」
「?」
SDXについて 名前はスバルデラックスの略。スバルが軍に入る前から乗っているBAで、他の人が乗るとまず事故をするような特殊な装備がいくつもついています。もとは量産型だった機体に幾度も改造を繰り返しできた機体です。 読んでいただきありがとうございます。次話もよろしくお願いします。