36.ロウソクの灯り
また遅れてしまって申し訳ないです。
今回はリーマンの話をメインで進めていきます。
「厳重ですね」
カーチェスは横を歩く怪しい男に話しかける。
「俺としたことが、迂闊だった」
横を歩くのはマスクに帽子、そしてサングラスをかけているスバルだった。
「どこにguardianの人がいるか分かりませんからね、でも逆に怪しいような…」 カーチェスは語尾を小さくしていく。
「なにかいったか」
「いえ、なにも」
「とりあえず、注意しなければ」
スバルは辺りをキョロキョロ見ました。
「青い空、白い雲、そして光輝くBAの光沢、さぁお前らー、トーナメント2日目だぜー! 実況解説アーンドばか騒ぎ隊、隊長は昨日に引続きこの俺がお送りするぜ、こんちくしょー!」 昨日と同じく場内はカマーと観客の声援で揺れていた。
「今日もテンション高いですねあの人」
ゲート内にまで響くその声を聞いてカーチェスは言う。
「もう15年あの仕事をしてるらしいぞ」
とセサミ、どこで調べてきたのだろうかと思うカーチェスだったが、結局はどうでもよくなった。
「よ〜し、カーチェス、セサミー、今日は3試合目だ、そして対戦相手は………たぶん雑魚だ」
そこにスバル、手には対戦表を持っている。
「てっテキトーですね」
「対戦を見る限りでは、昨日戦った奴よりは弱い、お前らなら問題ないよ」
スバルはそう言って微笑むだけだった。
「ふぁ〜ぁ」
大きなあくびに伸びをしながら研究室からリーマンがでてきた。
「お疲れさま」
「アマルシェ〜」
そういいながら、リーマンはアマルシェに抱きつこうとするが、それを突き放す。
「ちょっと、やめなさいバカ…
もう〜、なにか成果はあったの?」
呆れ気味にアマルシェは言う。
「ありまくりだ、早くスバルにも教えてやりたいぜ」 訊かれたリーマンの表情は一変、さっきまでの眠そうな顔はどこへやら。
「フフッ、楽しそうね」
そんなリーマンをみてアマルシェの顔もほころぶ。
「楽しいよ、今まで解らなかったことがこんなに簡単に解るんだ、こんな楽しいことは他にない」
「そう、でも最近閉じこもり過ぎよ、今日は1日外で散歩でもしてきなさい」 リーマンの鼻をツンッとつつきながらアマルシェは笑う。
「アマルシェ、今はそんなことしてる暇は」…
窓へ目を向けると眩しい程の太陽の光が射し込んできていた。
「ダメよ! 体に悪いわ、今日は外にいってきなさい、じゃないと追い出すわよ」
「わかった、わかったよ、今日は休みにする」
「よろしい、じゃ行ってらっしゃい」
そういいながらアマルシェはリーマンに上着と財布を渡すと背中を押して玄関の方へと向かう。
「まった、まった、まだ昼食をとってない」
「外で食べればいいわ」
「ん…そうか、なら…行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
「そういえば、久しぶりに帰ってきたのに全然街を見てなかったんだよな」
玄関をでたリーマンは街を見渡す、とそこに1人の男が話しかけてくる、そこにいたのは見覚えのある中年男性だったがリーマンは名前を思い出せない。
「おや、リーマンじゃないか、帰ってきてたのかい、牢屋にぶち込まれたってきいて心配してたんだぜ、出てたんだな」
と男、大口で笑う姿がやけに特徴的だ。
「はっ、ははは、そ、そうなんだ、でで、出てたんだよぉ〜みんなが知らない間に、あはは…」
苦笑いをする、自分が指名手配中ということをリーマンはすっかり忘れていた。
「いつまでいるんだ?」
「あんまり長くはいないと思います」
「そうだ、これからマドラントまで行くんだが一緒にどうだい?」
「きゅっ急すぎ!」
「ハッハッハッ、冗談だ、じゃもうすぐ列車が来るから、またな」
「あっああ」
駅の方へ行く男から目を街へ向ける、一難去って、一呼吸置いてから、もう一度しっかり見た、しばらく来ないうちに街の風景はがらりと変わっていて見慣れない建物も多くなっていた。
「帰って来るのは、1年ぶりぐらいだよな…1年でここまで変わるか普通…」
また歩きだすリーマン、その目に映るのは確かに見慣れない建物だが懐かしさを感じることもできた。
「そういえば、今日は4月5日…すっかり忘れてた、アマルシェになんか買って帰ってやるか」
「強い! 強いぞスーパースバル爆撃団、昨日同様、圧勝だぁー」
闘技場ではカーチェスたちが圧倒的強さで勝負を決していた。
「昨日の方が強かったですね」
「確かに、今日のは破壊力があっただけだからな、攻撃は単調だったし、隙も多かった」
カーチェスとセサミは言葉を交わす。
「それもあるけど1日目よりも操作がうまくなってるよ、お前ら」
2人の会話を聞いてスバルも話しに入ってくる。
「ほんとですか!?」
とカーチェス、そこには朝と変わらず、怪しい変装をしたスバルがいて思わず吹き出しそうになる、いつの間にか、新しいパーツ、髭が付け加えられていた。
「ああ、本当だ
実際に動かしてなにか掴んだか?」
「掴んだの…かもしれないです」
少し考えてから言葉を口にするカーチェス。
「かもってなんだ、かもって、セサミは?」
「掴んだかもしれない」
セサミもカーチェスと似たような喋り方だ。
「お前も、かもか」
「正直そうこたえるしかない、不思議な感覚だ」
困った顔のセサミ、それを見てスバルはにっこりと笑う。
「かも…か、なんかお前らはまだまだ強くなるかもしれないな」
「ほんとですか!」
カーチェスの目はキラキラ、セサミの顔は当たり前だと言いたげな表情だ。
「あくまで、かも、だ」
「かもか?」
「かもだ」
「よし、明日も勝つぞカーチェス」
セサミは気分を良くしながら、自機の整備に向かう。
「はい、セサミさん!」
「ホントに強くなりそうだよ、お前らは…」
スバルは1人ポツリと呟いた。
「すっかり暗くなっちまったなぁ」
急ぎ足で歩くリーマン、その目にうつる我が家は電気が消えていて暗い。
あれ? 不思議に思いながらリーマンはドアノブに手をかけゆっくりと開く、鍵はかかっていない。
「ただいまぁ〜、アマルシェ、いないのか」
言葉は返ってこない、だがすぐ前の廊下を進んだ突き当たりのドア、薄暗い中に僅かに灯りが揺れているのが見える。
「アマルシェ」
廊下を通り、ドア勢いよくあける。
「おかえり」
そこには、イスに座り、机に肘をつき、顔をその手で支えながらにっこり微笑みかけるアマルシェがいた、彼女の前にはケーキがありロウソクが数本立っている、それが部屋を僅かに照らす灯りだった。
「アマルシェ」
もう一度、彼女の名を呼び、その向かいのイスに座る。
「ねぇ〜、今日が何の日かわかる?」
唐突にゆっくり、そして優しい声で目の前に座る彼に問う。
「ああ、私達の結婚記念日だ」
彼は迷うことなく、そう答える。
「覚えてたんだ」
「忘れるわけないだろ…、と、いいたいけど本当は今日の昼に思い出した」
正直に答える彼を見て彼女は静かに笑う。
「ふふ、そうだと思った、あなた研究になると他のこと頭から消えちゃうもの」
「それを思い出させるために今日は散歩に?」
「そうじゃないわ、準備がしたかっただけ…だって去年はできなかったもの」
彼女のいう去年、リーマンは牢の中にいた。
「すまないと思ってる」
彼が少し俯き気味でいうので、彼女は少し慌てていう。
「いっいいのよ…だって今あなたは、わたしの前にいてくれる」
「ああ」
お互いに見つめあった目を離さない。
「考えてみると、結婚してから、あなたといた時間より、あなたといない時間の方が長かったわね…」
「そうだな…」
「ねぇ知ってた? こう見えてもわたし、あなたのこと、あなたが思ってる以上に好きなのよ」
彼女の声は優しく温かくリーマンを包む。
「私だってそうさ」
「ウソ…、あなたは研究が1番でしょ」
「信用ないな」
リーマンは渋っ面でアマルシェ。
「ふふッ」
「君が研究を止めろというなら、すぐにでも」
「いいの、ありがとう、でもあなたから研究をとってしまえば何も残らないわ」 彼女は彼の言葉を遮る。
「ひどいな〜」
「ふふふ…」
と彼女はまた笑う。
「そうだ、アマルシェこれ」
リーマンはポケットから小さな袋を取り出す。
「これって」
「ほんとはもっと、いいものを用意したかったんだが」
袋を開けると中からは、きれいな、銀のネックレスが出てきた。
「あなたにしては、いいセンスね、ありがとう」
それをみたアマルシェはにやけそうになる顔を隠すように言った、暗くてよく見えないが目が潤んでいるようにも思えた。
「つけてあげるよ」
リーマンはアマルシェの後ろに回る。
「ええ、お願い」
アマルシェに手渡されネックレスを優しくかける。
「…アマルシェ似合ってるよ」
「リーマン…ありがとう」
そのまま2人はみつめあう、そしてゆっくりと顔を近づけていく、部屋は小さな光に包まれていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次話もよろしくお願いします。