32.大会2日前、白の動き
今回はちょっと短め。
「どうもカーチェスです、なんやかんやで大会二日前になりました、スバルさんに教えてもらったのはバランスの取り方と重心のかける方向だけです…
ホントにこんな訓練だけで大丈夫なんでしょうか
それで今は…おっと」
「カーチェス!
何ブツブツ言ってるんだ集中しろ」
セサミが声を張り上げる。「すいません」
機体はケンケンをしながら森の中をぐるぐる回っていた。
「気持ち悪い…」
振動緩和材と衝撃吸収装置がついていてもケンケンなんてすれば機体の揺れは激しい、カーチェスにとっては苦痛であった。
「頑張れカーチェス」
セサミにとっても苦痛であるのには変わらなかった、というのも2時間ぐるぐる回っているだけだったのだから。
「よし、止まっていいぞ」 どことなく気合いがこもっているスバルの声が響く機体はゆっくりと速度を落としその動きをとめる、しばらくしてコックピットが開きセサミとカーチェスがでてくる、2人が大丈夫そうなのをみてスバルは再びスピーカーを口にあてる。
「休憩!」
店内に人の姿は少なく、空席が目立つなか、チームrisingメンバー達は日当たりの良い窓際の席に座っていた。
「あぁー!」
何かを思い出した彼は立ち上がる。その衝撃で机が揺れ机の上のコーヒーも揺れる。
「うるさいぞビル」
「うるさいわよビル」
雷瞬はコーヒーを飲みながら、オルガノは雑誌を読みながら平然な顔をしてビルに対して注意をする。
彼らはスバル探索の活動範囲を拡げてノーサイドウィッジ国の西に位置するバルンバのカフェにきていた。
「あっした〜じゃね〜かぁYO〜」
立ち上がったままビルは変なリズムに乗りながらそんなことを言った。
「なにがだ」
「なにがよ」
特に気にもならなかったので雷瞬とオルガノはかなり適当に返事を返す。
「これを見ろ」
ビルは手に持った電子新聞の右下を指差す。
「なになに…BAファイトトーナメントの開催と出場者募集のお知らせ」
オルガノは新聞の文字を読み上げ、今まさにコーヒーを口に運ぼうとする雷瞬の方を見る。
「ビル…悪いがそんな時間はない」
カタンとカップを受け皿に置いた雷瞬は冷たくそう言うと再びコーヒーを口に運ぶ。
「それに募集締め切りが今日の5時までだわ、間に合わないわよ」
追い討ちにオルガノが言うと、ビルは腰をおろし心配無用といった顔をする。
「観戦するだけだから」
懇願の眼差しで雷瞬を見つめるビルは徐々に顔を近づけていく。
「あんなレベルの低い戦いを見ても何にもならんだろ」
顔をそらす雷瞬はとにかく、行きたくないようだった。
「違う、弟がでるんだ」
雷瞬の前に回り込み再び懇願の眼差しを向ける。
「弟いたんだ」
ボソッという、オルガノは雑誌を閉じる。
「しかし、今は月咲の捜索が最優先事項だ」
「…ならちょうどいいじゃないか、首都はまだ調べてない」
「ビル…少しは考えろ、犯罪者がそんな人の多いところにいるわけないだろ」
「わからないだろ、木を隠すなら森の中、人を隠すならなんとやらだ」
「訳がわからん、とにかくそんな時間はぁ…」
「いいんじゃないの雷瞬」 しばらく2人のやり取りを見ていたオルガノが雷瞬の声にかぶせるように口を開く、と同時にビルの顔がパッとはなやぐ。
「オルガノまでビルの味方を?」
ビルと違い雷瞬は不満そうな顔をする。
「時には息抜きも必要だわ」
「さすがオル!」
「それに…BAファイトと言えば男のロマンじゃない」 実はオルガノもBAファイトのファンであった。
「男…」
「雷瞬頼むよ〜」
「は〜、仕方ない」
「おお、さすがリーダー」
「だが少しだけだぞ」
「スバル様」
その声で振り向くスバル、そこには手提げ袋を持った作業着姿の小春がいた。
「よお、小春」
「順調ですか?」
スバルの所へ歩いて行く小春は途中石につまづき転けそうになるがなんとか耐える。
「正直、予想以上だ」
「期待大ですね
あっこれお昼に食べてくださいね」
小春は手に持っていた袋を渡す。
「悪いな」
中には三段階重ねの大きな弁当箱が入っている。
「そういえば、大会の受付は済んだんですか?」
「まだだ」
「それならば、私が変わりに!」
小春の顔はパァッと笑顔になる。
「じゃあ、頼む」
「えっと、それで何て登録しましょう?」
「機体名は〈チャトラン〉でいいとして、チーム名は…任せる」
「わかりました、では私はこれで…」
「もう行くのか?」
「はっはい仕事がありますので」
そう言うと小春はこちらに向かってくるカーチェスから逃げるようにその場を後にする。
「あれ、今の小春さんですよね、来てたんなら言ってくださいよ」
小春が歩いていった方を見ながらカーチェスがスバルに話し掛ける。
「なんか、カーチェスと会うのが恥ずかしいみたいだぞ」
「ええッ!!」
カーチェスはバッとスバルの方を見る
「嘘だ、よし訓練再開」
「…はい」
この日、カーチェスはスバルに不満オーラを飛ばし続けた。
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