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29.首都マドラント(3)

リーマンとアマルシェ、カーチェスと小春の話

「ぐへ〜」

 地下の研究室から疲れはてた顔のリーマンがのそのそでてきた。

「あら、ひどい顔よ」

 洗濯かごをもった、アマルシェがリーマンの顔を覗きこむ。

「腹が減っては戦はできね〜だ」

「ふふっ何それ?」

 アマルシェは笑う。

「腹が減った」

「何か作るわ」

「頼んだ」

「頼まれた」




「まったく、研究に没頭するのもいいけど、せっかく帰ってきたんだから…」

 机を挟んで向かいに座るアマルシェはテーブルにならんだ料理を頬張るリーマンに言う。

「君も知ってるだろ、私は調べられることは、すぐに調べないと気がすまないんだ」


「知ってるけど、限度があるわ」

「だが大事な研究なんだ」

「私より研究の方が大事なのね」

「なんだ、急に…それより、君の作る料理はホントにおいしいな〜、プロの面目も丸潰れだ〜ぁはっはー」

 嫌な予感のしたリーマンは話題を変える、だがアマルシェは不満そうにしている。

「すぐ話をそらす」

「そういえば、スバルン達はどこいったんだ?」

 リーマンはうまく話題を変更できたと安心する。

「どっちが大事か答えてくれたら教えてあげる」

 だが彼女もそう簡単に話題を変えられたくないようだ、しゃべり方はいつも通りだがリーマンには彼女の目がかなり怒っているように見える。

「それは…」

 リーマン落ち着け!と自分に言い聞かせる、間違った答えは厳禁だと脳からは指令が下っている。


「答えて!」

 アマルシェの声はかなり力がこもっている。

「もちろんけんき…」

 研究と言おうとしたが、け、と言った瞬間にアマルシェの目に殺意が窺えたので

「君だ!」と言い換える。

「よかった、研究なんて言ったら殴り飛ばしてたわ」 アマルシェかなり妖艶な笑顔で笑いかける。

「はははぁ〜当たり前じゃないか

…で、スバルン達はどこに?」

 心の中では研究と言わなくてよかった、と思いながら平静な表情を装おう。

「知らない」

「なっ騙したのか!」

「どこに行ったかは知らないけど、用事があるってすぐにでていったわ、2週間ぐらいしたら戻るって」

「そうか」

「あと、頼りにしてるって言ってたわ」

「うむ、頼られたからには頑張らないとな」


「ねぇ」

「ん?」

「私はわからないの」

「なにがだ?」

「あなたがやろうとしてることは、そんなに大切なことなの?」

 アマルシェの顔から笑顔が消える、今度は真剣な表情だ。

「さあな、わからん」

「わからないって、じゃあ何で研究するのよ」

「それは、登山家に何故山に登るのかを聞いてるようなもんだぜ」

「真面目に答えて!」

 冗談半分のリーマンに対してアマルシェは強く机を叩きながら、怒鳴り声をあげる。

「なっ何怒ってるんだよ、落ちつこうアマルシェ」

 リーマンはアマルシェをなだめようとする、がアマルシェの耳にはどうやら届いていないようだった。

「あと1年よ、1年待てば出所できたのに、そんな分からないことで、あなたは全部無駄にしたの?」

「アマルシェ…」

「1人で待つのがどれだけ辛いことかわかる?」

 そんな強い口調とは裏腹にアマルシェの目からは涙が溢れていた。

「ごめん…

でも私にしかできないことだ」

 そのあと、しばらく沈黙が続いた。




 しばらくして時計のチクタクという音だけが、響く部屋で、アマルシェは口を開く。

「……ごめんなさい、あなたを困らせるようなことは言いたくなかったんだけど」

「いいよ、謝るのは私のほうだ…すまなかったなアマルシェ」

「いいの…」

「アマルシェ…食べていいか?」

「なッなッなッなに言ってるの急に!」

 アマルシェは顔を赤くする、どうやらリーマンの言葉の意味を、君を食べていいか、ととってしまったようだ。

「いや、ご飯を」

「…バカ

はぁ〜、もうちょっと場の空気を読んで発言して」

 まるで自分にいっているかのようにバカと呟くアマルシェ。

「これも私の性格だ」

「知ってる」

 いつのまにかアマルシェの顔にはまた笑顔が戻っていた。

「アマルシェ」

「なに?」

「君と結婚してよかったよ」

「私もよ」

「アマルシェ…おかわり」

「だから、もう少しでいいから場の空気を読んで発言して!」







「はい、あと10秒」

 ラウドスピーカーからスバルのラウドとはよべないダルそうな声が響く。そんなスバルが声を向ける先にはカーチェスとセサミの乗るBAが片足を上げ上半身を前に傾けた状態で止まっている。

「はい、終わり

休憩していいぞ」



「あの、スバルさん」

 休憩にはいったカーチェスが眠そうにあくびをするスバルに話しかける。

「4日目になるのに、こんなバランスをとる訓練だけでいいんですか」

 カーチェスが心配そうにして言うのでスバルは少し考える。

「そうだな、そろそろ別の訓練もするか」

 スバルのその言葉にカーチェスの顔が笑顔になる。

「ほんとですか!」

「ああ、だがその前にそろそろ〈チャトラン〉ができてる頃だろうし、取りに行こう」






「これが〈チャトラン〉?」自機の変わりようにセサミはおどろく。

〈チャトラン〉は分厚い装甲を外したのでかなりスマートになっていた。

「ごめんなさい、もう少しで終わるから」

〈チャトラン〉に潤滑油をさしながら小春はこちらの様子をうかがう。




「はい、終わり」

 額の汗を拭ったあと、ゆっくりと機体から降りる。

「できはどうだ?」

「我ながら完璧です」


「よしカーチェス、調整頼むぜ」

「あっはい!」

 小春はじーっとカーチェス睨み付ける、カーチェスそれを横目に機体を登る。


「小春はカーチェスが嫌いか?」

 そんな小春を見てスバルは言う。

「小春は互いのことをよく知らずに相手のことを判断するのは嫌いです…」

「いい心掛けだ」

「ただ、あの機体を調整できないのが嫌です」

「あれは俺の機体じゃないぞ」

「スバル様の機体とかは関係ないです、そりゃ〜やるからにはスバル様の機体がいいですけど…任された以上、誰の機体であれ最後まで全力を尽くすのが技師の仕事なんです」

「たしかに、それは悪いことした、こめんな小春」

「別にスバル様が謝ることじゃないですよ」

「ありがとう小春」

「いえ…」

「あと、これだけは言っておく…カーチェスはすごいぞ」

「すごい?」

「あいつは11のときには1人で一機つくりあげた」

「11で!」

「ああ」

「すごい」

「とくに調整の腕は、俺が知るなかでは最高だ、誤差がほぼ0だ」

「0…」



「おっスバルきてたのか」 そこにいたのはカテナだった。

「ああ」

「そうだ、今日家に来ないか?晩御飯ぐらいなら食わせてやるぞ、小春もそれがいいよな」

「スバル様が嫌でなければ…」

「別に断る理由もないし、行かせてもらうよ」

「よし、決まりだ

俺の家は知ってるか」

「あのでかい豪邸だろ」

「知ってるみたいだな、好きな時間に来てくれ、といっても常識の範囲内だが」

「誰も真夜中に行かないっての」

「むふん、じゃあ家内に電話してくる」




「あの私カーチェス…さんの作業を見せてもらってきます」

「ああ…」



「…っと俺は〜セサミ!」

「ん!」

「カーチェスの調整が終わるまで街でも観て回ろうぜ」

「それはいい」



 小春はまたカーチェスのことをじーっと見ていた、だがこんどは、睨み付けるようにではなく、カーチェスの動きを事細かく分析するかのようにだ。

「…あの〜」

 カーチェスはじーっと見ている小春に気づいて振りかえる。

「なに?」

「あんまり、見つめられるとやりずらいなぁ〜って」 カーチェスは内心穏やかではなかった。狭い機内だ振りかえると、案外近くに小春顔があったので、1人心臓の鼓動を速くさせていた。

「あっごめんなさい、邪魔だったわね」

「いや、邪魔だなんて」

「じゃあ、見ててもいい?」

「えっ!…うん」


「ねぇ」

「はい!」

 急な小春の呼び掛けにカーチェスは声を裏返しながら返事をする。

「なんて声だしてるのよ」

「あの、なにか?」

「チューナーは?」

「使わないです」

「えっほんとに!」

「はい、チューナーだと微妙にズレがでるんです、だから自分の耳と感覚、あとは勘です」

「なんか、カッコいい」

「えっ、今なんて」

「ん、私なんか言った?」

「あれ、ぼっ僕の聞き間違えかな、ははは…」


 またカーチェスは作業を再開する、小春はただそれをじっとみていた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。次話もよろしくお願いします。

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