28.首都マドラント(2)
カーチェスの恋?の話しと訓練。
「スッバルさまッー!」
絶叫にも近い大声でスバルの名を呼びながら、彼女はスバルに飛び付くが、スバルはヒラリとそれをかわし笑顔で言う。
「よう、小春
久しぶりだなー」
「なっなんで、避けるんですか〜」
顔面から地面に突っ込んだ小春は辺りを見回し、顔を赤くする。先程の大声で工場にいた人間のほとんどが小春のことを見ていたからである。
「あっそれより、お久しぶりです、軍に追われていると聞いて小春は心配してたんですよ」
小春はハッと思い出したように立ち上がり、スバルの前までよる。
「そうか、それは悪かったな」
どことなく、カーチェスに似てると思えてくる。
「いえ、無事でなによりです、それに…また会えて嬉しいで」
小春はまた顔を赤くし、両手を頬にあて、体をくねらせる。
「鼻擦りむいてるぞ」
スバルはそんな小春を見て鼻を擦りむいていることに気付き、鼻先に触れる。
「へっ平気です!」
小春はさらに顔を赤くする、鼻の痛みなど気にならなかった。
「それはよかった、それより小春が機体を見てくれるんだって」
「はい私が見ます」
「よろしく頼むよ」
「任せてください、小春は本気をだしちゃいます」
小春はやる気満々のようだ。
「あっでも調整はこっちで勝手にやるから小春はしなくていいぞ」
少し間を開けてスバルが言うとすぐに小春はスバルの腕をつかみ言った。
「そっそんな、小春の腕が信じられないと…」
「そうじゃないよ、カーチェス…あいつに調整はまかせるから」
カーチェスの方を見るスバル。
「スバル様の乗る機体、私なら100%力を出せる調整ができます」
小春はカーチェスを睨み付けるようにして見ながらスバルをつかまえて離さない。
「乗るのは俺じゃないよ、小春にはまた次の機会に頼むから」
「はい…わかりました」
案外、あっさり諦めた小春はもう一度カーチェスを睨んだあとスバルから手を離す、小春にとってはスバルに迷惑をかけるほうが嫌なようだ。
「じゃあ、早速作業に取りかかろうか」
とここでカテナ。
「はい、パパ」
「仕事中にパパはやめろ」
「はい…」
小春は作業に取りかかる、小さいが身軽なのですぐに機体の頭部まで簡単に登っていってしまった。
「カテナ、二人操縦の機体を貸してくれ」
「ああ、テッド!TP−12型ライズを出してやってくれ」
と小春にまけない大声で作業員に言う。
「社長ー!ライズは
ダブコンっすよ、いいんすか?」
「ああ、それでいい!
とりあえず外にださせるから待っててくれ」
「わかった!
よし、カーチェス、セサミ、訓練だぞ」
「はい!」
カーチェスは良い返事をする。
「訓練?」
セサミは事態がまだ読み込めていないようだ。
街から離れた森の中に、スバル達は降りる、木々の中には、隠すように〈SDX〉がおいてある。
「それで何をすれば?」
まず話を持ち出したのはセサミだった。
「よし、じゃあ、とりあえずダブコン機体のメリットとデメリットを教えておく」
「その前にだぶこんの意味が分からん」
機体の基本も解らないセサミにとってその言葉は未知の領域だ。
「セサミさんはまず機体の勉強からするべきでは…」
「そんな時間はないよ
セサミ、ダブコンってのは2人で操縦する機体のことだ」
「ああ、ダブルコントロールってこだな」
と自信満々に言うがそこのところはスバルもよく知らなかった。
「えースバル先生のダブコン講座、始まり始まり〜
ダブコンのメリットは2人で操作することによって1人が握る操縦幹の数が減るってことだな、デメリットは2人の息が合わないと素人が操縦するより役にたたん機体になるってことだ、以上」
「はや!」
思わずカーチェスはツッコミを入れる。
「んっ…じゃあ質問は?」
「ない」っとセサミは即答する。
「はい!」
だがカーチェスは手を上げて返事する。
「カーチェス君」
「スバルさんって小春さんと、どういう関係なんですか?スバル様って言われてましたけど」
「なんだカーチェス、小春に気があるのか?」
スバルはニヤニヤしながらカーチェスを見つめる。
「えっいや!た、ただ気になっただけで、気があるとか、別に…」
カーチェスの動揺は誰が見てもわかるほどだ。
「カーチェスは分かりやすいなぁ」
とセサミは笑う。
「セサミさんまで!」
「心配するなカーチェス、俺と小春はなんにもない、むこうはどう思ってるか知らんが…
様をつけるのはおそらく尊敬の表れだ」
「いや、だから僕はただ2人が仲良さそうだったから聞いただけで、心配なんて…」
「そうか、そうか、わかったよ、大丈夫俺は応援するぞカーチェス
じゃあ、早速乗り込みな、トーナメントまでにお前らを最強にしてやる」
力強く言うスバルだが、まだ顔はニヤケている。
「わかってないですよ」
「ほら、早く乗り込め」
なんだこのあしらわれ方はと思いながらカーチェスは機体の方へ向かう。
「カーチェス…ガンバ」
セサミはカーチェスの肩に手をのせ、逆の手でグッドのサイン。
「セサミさん!」
機体に乗り込んだ2人にスバルの声が聞こえてくる、手にはラウドスピーカー。
「あ〜テス、テス
いいか、お前らー、ダブコン機は2人の息が合わなければクソだ、クズだ、ゴミ以下だ」
「スバルさん、どうしたんだろ」
「気合い入ってんじゃないのか」
「特に後部座席に座るカーチェスは攻撃以外の行動の大部分を担うことになるから、しっかりやるように
では第一訓練、片足立ち」 基本的にダブコンの操作は1人が下半身とブースター、もう1人が上半身を操作することになる、そうなれば必然的に下半身は移動、上半身は攻撃を担当することになる。
「片足立ちって…」
「片足で立つだけだ早くやれ!」
「スバルは俺らがほぼ初心者だからって、なめてるのか」
「とりあえず、やりましょうセサミさん」
「やろうにも、俺はすることがない」
「はははっそうですね」
カーチェスはゆっくりとレバーを引く。機体はそれに合わせてゆっくりと片足を上げていく…がっ少し上がったところで機体はゆらゆらとバランス感覚をなくす。
「あれ、えっ!」
「カーチェス、揺れすぎ、傾いてるぞ」
「いや、それが…あっ!」
ゆらゆら揺れていた機体は傾いたかと思えば、すぐに大きな音とともに倒れ、砂ぼこりを巻き上げる。
「ゴホッゴホッ
なに、やってんだお前ら片足で立つだけだぞ」
倒れた衝撃で頭がくらくらしている2人にスバルのそんな声が聞こえる。
「平気ですか?」
「なんとか、それよりしっかりやれよ」
「いや、それが意外と難しいんです」
「難しい?…とりあえず立とうか」
機体は難なく立ち上がることができた、装甲には目では見辛いほどの傷がついた。
「よし、じゃあ〜もう1回だ」
スバルの声でカーチェスはまた同じようにレバーを引く。機体はゆっくりと片足を上げていく、だがまた少し上がったところで機体はガタカダと揺れだす。
「カーチェス、落ち着け」
「はい!」
カーチェスは慎重にレバー引いていく、だがやはりダメで、さっきと同じところまで足を上げた機体は、傾き倒れた。
その後、何度もチャレンジするがいっこうにうまくいかなかった。
「とりあえず休憩」
不機嫌そうなスバルのその言葉で2人は休憩にはいる。
「何がいけないんだろう」 カーチェスは木の下に座りそんな言葉をもらす。
「そのうち、できるようになるよカーチェス」とセサミはカーチェスの横に座る。
「でも…できそうな感覚がまったくないです」
「ん〜」
そんな2人のそばにスバルがやってくる。
「お前らいつまで同じことやってんだ、あと1週間ちょっとで最強にならなきゃいけないんだぞ」
「そんなこといっても、カーチェスは初心者だろ?
仕方ないだろう」
「カーチェス1人の責任じゃない、ダブコンは2人が協力して初めて動く機体なんだ、だから1人のミスは2人のミスだ」
「1人のミスは2人のミスか…あっカーチェス」
「なんですか」
「機体に乗り込め」
「え?」
「いいから」
「はっはい!」
「何かに気づいたみたいだな…」
「どうしたんですか?」
「いいから、カーチェスはさっきと同じようにやってくれ」
「わかりました」
セサミに言われる通りにまたレバーを引くカーチェス、機体は揺れだす、だが今度は違った、さっきまでとは明らかに揺れが小さい、カーチェスが前にいるセサミを見るとセサミも操縦幹を握っていた。
「全然ゆれてないです」
「2人が協力して初めて動くってのはこういうことだろ」
「腕を使ってバランスをとれば良かったそれだけだったんですね」
「そういうこと」
機体は見事にバランス保ったまま片足を上げていた、その両腕は真っ直ぐ横に伸びていた。
「やっと第一歩…か」
スバルの顔からは笑みがこぼれる。
「スバルさんできました」
スピーカーからはカーチェスの嬉しいそうな声が響く。
「そんなもんは出来て当たり前だ、次の訓練にいくぞ!」
「了解!」
カーチェスとセサミ、2人は同時に返事をする。
それは、長年コンビをくんでるようなぴったりと合った返事だった。
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