26.アマルシェ・ホールソン
遅くなってすみません。 今回はアマルシェ登場。
「スバルさん、あれですか?」
コックピットで操縦幹を握るカーチェスは、箱を見ながらニヤニヤするリーマンの横で、地図を見るスバルに話しかける。
海を渡り、国境を越えたここまで、スバルに代わりカーチェスが操縦してきていた。〈SDX〉の後ろにはセサミの操縦する〈チャトラン〉が重そうな装甲板をつけ、飛んでいる。
「ああ、あれがマヤサッサだ」
機体が飛行する先、平野のど真ん中に町が見える。あまり大きな町ではないものの線路が通っており、住むには困らない場所のように思える。
そんな町に〈SDX〉は徐々に近づいていく。
「もうすぐだぜ、リーマン」
「うん、そうだな〜」
リーマンの顔はニヤニヤを通り越して、少しとろけているのではないかと思えるほど緩んでいる、というのも機体に乗り込む前からこの調子で、まる二日こんな顔だ。それだけリーマンにとってカンデロートを研究するということは重要なことであり、1つの夢が叶うということだった。
コックピットを開けると、外から暑い空気が流れ込んでくる。
「おっ着いたのか!
着いたのか!?」
リーマンのテンションはどうやら、かなり高い。
「ああ、着いた
セサミはここに残っててくれないか?」
「了解」
機体から降りたスバルとリーマンはそのまま真っ直ぐ歩きだす、カーチェスはその後について歩く。
他の建物とは一風変わった造りの家、それがリーマンの家である。ブ〜〜ッとリーマンが押したインターホンの音が響く、それを横で聴いていたスバルはインターホンは気持ちよくピンポーンっとなってほしいものだ!などとどうでもいいことを考えながら返事を待つ。待ちきれないリーマンは何度もインターホンを連続で押していた。
すると建物のなかから、慌てた声が聞こえてきた。
「はっ、はーい!今でます!」
そのすぐあとに、扉は開いた、中から出てきた人を見てカーチェスは思わず、その言葉を口にする。
「綺麗な人です…」
肩ほどまで伸びた黒髪、色白で、吸い込まれそうな大きな瞳が特徴的、体型は線が細く、ラインがくっきりしている。そんな彼女は次の瞬間驚きの表情を浮かべる。
「リ、リーマン!」
それもそのはず、脱獄犯として指名手配中の旦那がそこにいるのだから。
「やあ、アマルシェ…久しぶりだね」
「どこに、行ってたのよ、月咲さんまで…」
「どうも」
「とりあえず、中に入って、リーマン!話しはちゃんと聞かせていただきますからね」
「おっおうよ、まかせろい」
リビングに案内された、スバルとカーチェスはソファーに腰かける、
「紅茶いれますね」そういって、アマルシェはキッチンに向かう、そのあとにリーマンも続く
「私も手伝うよ」と。
部屋はしっかり整理整頓されていたが、リーマンの趣味であろうか、変わった置物がたくさんあった。
カーチェスはそれを見て回りチクタクと時を刻む、変な形の時計の前で止まって言う。
「なんだか、リマホルさんには、もったいないくらい綺麗な人ですね…アマルシェさんって」
「まったくだ…リーマンと結婚するとき、軍の男どもがすごかったよ、あいつだけはやめとけぇーって」
「はははっ!
アマルシェさんも軍の人だったんですか?」
「ああ、BAの整備士だよ、リーマンと結婚してすぐ辞めたけど」
「へぇ〜」
「てか、それより期待はずれの展開だな」
「期待はずれ?」
「俺はもっとアマルシェが怒鳴り散らしてくれると予想してたのに」
「ははっ、それはそれで大変そうですよ、面白そうですけど」
「楽しそうに、何の話ですか?」
カーチェスの笑い声を聞いてアマルシェはリビングに入ってきた、手にはトレーにのせた紅茶を持っている。
「大したことじゃないよ、それより、リーマンは?」
「あの人ったら、紅茶をいれたらすぐに研究室に入っていったわ、事情は全部月咲さんに聞いてくれ!って」
「そうきやがったか、
まぁとりあえず…紅茶をいただく」
「ええ、どうぞ」
角砂糖を2つ入れ、紅茶を少し口に含む、そのあとスバルはカーチェスの紹介をしてから、ことの説明を始める。
スバルの横に座り少し冷めた紅茶をカーチェスは砂糖を入れず飲む。
話し終えたスバルも少し冷めた紅茶を飲む、話している間に砂糖を2つ追加していたのでかなり甘くなっていた。
「まぁ、だいたいの成り行きはこんなところだよ」
「それだけのために?」
とアマルシェ。
「俺にとっては大事なことなんだ」
「そう…でも、罪を犯すのはよくないことよ」
「それはわかってる、だがどうしてもやらなければならないんだ」
「罪を重ねるより重要なこと?少なくとも彼には関係ないことだと思う…私は彼にはしっかり罪を償ってほしかった」
「それは、悪いと思ってるよ、だがリーマンしか頼れるやつがいなかった」
「でも…」
そう言ったあと、少し考えてからアマルシェはまた口を開く。
「…こんなこと言っても意味ないわね、やってしまったことは仕方がないわ」
「すまない、リーマンや君を巻き込んでしまって」
スバルは頭を下げる。
「私はいいのよ、それに彼も研究ができるんだから気にしてないと思う」
「ありがとう、アマルシェ」
「ええ、それより!やるからにはしっかりね」
「ああ…さて、俺はちょっと他に用事があるから少しの間ここを離れる、だからリーマンのことを頼むよ」
「頼まれなくても、勝手に面倒見るわ、ほんとのことを言うと、彼の顔が見れて嬉しいの…」
「そう」
スバルは紅茶を飲みほし、立ち上がった。
玄関の扉を開いたスバルは振り返って尋ねる。
「前から聞きたかったんだが…リーマンのどこが良くて結婚したんだ?」
「わからない」
「わからない?」
「ただ…」
「ただ?」
「彼といると居心地がいいの」
「…よくわからん」
「あなたはシーナと一緒にいるとき居心地良くなかった?」
「いや…なんか、それどころじゃなかった気がする」
「ふふ、でも悪くはなかったでしょ」
「まあ、たしかに」
「そう言うことよ」
「結局……よくわからん」
「もっと長く一緒にいれば分かるわ」
「それが愛か?」
その言葉にアマルシェはただ微笑むだけだった。
「よし、じゃカーチェスいくぞ」
「はい」
「リーマンには2週間ほどしたら戻るって言っておいてくれないか」
「ええ」
「あと、頼りにしてるって」
「伝えておくわ」
「でわ」
「気をつけて」
「ありがとう」
そう言うとスバルは踵を返し歩き始める。
「お邪魔しまた、アマルシェさん」
「カーチェス君も気をつけてね」
「はい!さよなら」
お辞儀をしてからカーチェスはスバルを追う。
先に歩いていたスバルに追い付きカーチェスは言う。
「そういえば、用事ってなんです?」
「お前とセサミを鍛える」
「鍛える?」
「マドラントにいくぞ」
「鍛えるって?」
「セサミー!」
「なんだい?」
セサミがコックピットから顔をだす、と同時にスバルは機体に乗り込む。
「マドラントにいくぞ!」
「了解」
セサミはそう返事をしてコックピットを閉じる。
「だから、鍛えるってなんですか?」
「発進!」
2つの機体はいっきに飛び上がる。
「鍛えるってなんなんですかー!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。次話もよろしくお願いします。