22.猫とセサミとクリスマスタウン
今回より投稿を週一回にする予定です。毎週金曜日にupするつもりです。 今回はスバルが怒ったりするはなし…。
「何でこんなところに?」 とカーチェスは先に機体から降りたスバルに続く。見回すとそこには木、草、石ころぐらいしかない。木が日の光を遮っているせいで真っ昼間だと言うのに辺りは薄暗い。
「歩くぞ」
スバルはそう言うが、道と呼べる道はなく、遠くを見ようにも木がそれを邪魔した。
「スバルンだるい」
カーチェスに手伝ってもらいながら機体から降りるリーマンは言う。
「お前が研究機材がいるっていうから降りたんだろ」
「頭は大丈夫か? こんな森に研究機材はない!」
リーマンの言いようにムカッとくるスバルだったがそこは抑える。
「お前ら分かってないようだから言っておくが俺らは犯罪者だ、リーマンは脱獄犯、俺とカーチェスはそれを助けた、〈SDX〉を使ってな、この意味が理解できないようなら散れ!」
「ちっ散れって!」
カーチェスは一歩後退りをする。
「バラバラになれってことか?」
スバルはとんちんかんなことを言うリーマンを無視して森を北へ進んで行く。
クリスマスタウン、今の季節とは不釣り合いなこの名前はBA大戦の始まりとなったロジリックの争乱で潰れたこの街を復興した、クリスマスという人物からきている…現在のこの街はレンガ造りの建物が多く、人口もそれなりだ。
「ついたぞー」
クリスマスタウンの入り口でリーマンは両手を上げ大きな声で言う、通行人達はみなリーマンを怪しそうに見ていた。
「なんだ、見せもんじゃないぞ」
と通行人達を指差すリーマン、次の瞬間ドスッという鈍い音とともに後頭部に強烈な痛みが走る。
ドテッ
地面に倒れたリーマンが振り返ると、そこには握りこぶしを作り、鬼のような形相でリーマンを睨み付けるスバルがいた。
「なっ何をするんだ、スバルン」
リーマンは頭を擦りながらスバルを変な目で見つめる、それに対しスバルは以前、鬼の形相を崩さずに言葉を吐き捨てる。
「お前…そうとう散らされたいようだな」
その顔は今までにないほど、凶悪なものだった。
「すっスバルン…冗談じゃないか、ハハハッ」
慌ててリーマンは作り笑いをするがスバルには無意味のようだった。
「へぇー、その冗談は、あまり笑えないな」
「不動明王が見える…
じゃなくて
スバルさん、とりあえず落ち着きましょう、こんな街の入り口で喧嘩してると余計に目立ちますよ」
「たく、本当に信じられん気がどうかしてるとしか思えないな」
まだ怒りが治まらないスバルは言う。街の中心部に行くほど人は多くなり、肩が触れ合うこともしばしばだ。
「悪かったと、言っているではないか」
リーマンは殴られた頭の腫れを確認するように触っていた。
「あれはリマホルさんが悪いですよ…僕だって捕まりたくないですし」
「はぁ〜とりあえず、リーマンは必要なもん買ってこい、カーチェスも、ついていけ」
スバルは話を変え、ポケットから財布を取り出しそれをカーチェスに渡す。
「スバルさんは?」
「そこらをブラブラしてくる、あとカーチェス!」
「はい?」
「ゴムボートと、それにあうスクリューを買っといてくれ」
「川でも走るつもりですか?」
「そんなところだ」
「よし、行こうカー君!」 リーマンは慌てるように行こうとする…がそれをスバルの声が止める。
「あと!」
「別に要らないものを買おうなんて思ってないぞ」 リーマンはスバルが言う前に言う、反射的に。
「くれぐれも、目立つようなことはするな」
それだけ言うとスバルは歩いていく。
「結局のところ、僕らのことを心配してくれてるんですね…スバルさんは」
「心配ならついてくればいいのだ、素直じゃないな」
「素直じゃないところがスバルさん、らしいじゃないですか、それに人の多いところは苦手なんですよ」
「…そだな」
「おっ猫!」
センター街を抜けると人の数は極端に減った。スバルの足下を通りすぎる、黒猫を横目に、行くあても無いまま、うろうろしていた。
そんなスバルの目を猫の次に惹き付けたのは、歩く人ばかりの道の端に座っている、分厚い眼鏡をかけた男だった、眼鏡を外せば、まさにザ・サラリーマンと言うようなスーツ姿の少し痩せた男。
「何してんだ」
スバルは声をかけていた自分でも不思議なくらい自然に。
「なんだい、君は?
…僕のことは、ほぉっておいてくれないか」
イラッとくるような喋り方だったがなぜかスバルは気にかけなかった、さっきリーマンに怒りすぎたからだろうか…。
「つっても、俺は昼間っからこんなところに座ってるおっさんが何者なのか気になって仕方がない」
「おっさんはやめてくれ、僕はこれでも29だ」
「そうか、じゃあ、何て呼べばいい?」
「セサミ、それが僕の名前だよ」
「セサミか、俺はスバル、よろしくな」
スバルは手を差し出す。
「君は変わってるね」
案外すんなり男も手を差し出す。
「そうかい?俺にはあんたの方がよっぽど変わってるように見えるけどな」
「ハハハ、たしかにそうだね」
男は笑って見せるも、力のこもってない笑い方だった。
「良かったら話しを聞くよ」
スバルは男の横に座る。スバルに横に座られた男は当然、驚く。
「…!」
「この世界には吐き出した方がいいこともある」
「僕の話しを聞いてくれるのかい」
「そう、言ってるだろ」
スバルがそう言うと、男は少し黙ったあと喋り始めた。
「…
僕はさ、こう見えても世界でも有名な超一流企業の社員なんだ、いや…だった、が正しいかな」
「だった?」
「たった1つの失敗さ…たった1つの失敗で会社は簡単に僕の首をきりやがった」
「お気の毒に、とでも言っておこうか」
「努力してきたんだ、遊ぶまを惜しんで勉強して、有名大学に入り、入社してからは上司の機嫌を伺い、いろんな人にペコペコ頭を下げて、そうやってここまでやって来たのに、たった一度の失敗で…
リストラされたあとはいろんな会社に声をかけたが断られ、あげく昔からうちにあったBAを使って運送業を始めたが、うまくいくはずもない…」
「大変だな」
「こんなのひどすぎると思わないか!」
男の声には話すごとに熱がこもっていった。
「たしかに、ひどい
まっだが、命があるだけでもいいじゃないか」
「…?」
男は何を言ってるんだと言いたげな顔をする。
「今の俺の仕事は、1つの失敗が死に繋がる、自分だけじゃなく仲間もだ、別に金がもらえる訳じゃないのにだ」
「なっ何の仕事をしてるんだい君は?」
「レジスタンスさ」
「ハハッ、君そりゃ仕事とは言わないよ」
「そうか?だが別に他は何もしてないんだ、だから仕事だよ、特別な仕事」
「君が、そう思うのなら、それでいいけどね」
「君じゃなくて、スバルでいいよ、それよりセサミはBA持ってるんだよな見せてくれないか」
「ああ、構わないけど」
めんどくさいと普段のセサミなら間違いなく断っていただろう、だがなぜかスバルに対してはその感情は浮かんでこなかった。
「あっ猫…
ノラだってかわいい
おいでノラ…あっ」
一度こちらに近づこうとした猫はカーチェスから近づこうとするとすぐに逃げてしまった。
「カー君は猫好きか?」
リーマンはしっぽをピンッと立て悠々と歩いて行く猫を目で追う。
「動物好きです」
「そうか、それより買うもん早く買ってスバルのところに行こう」
「あんたこんな機体で運送業してんのか、しかもスーツで」
スバルは機体に手を触れながら言う、触れた機体はガチガチに装甲を固めた、暗い紫色の、戦闘機体だった。
「こんな機体とは失礼な、それにスーツは…これを着ないと落ち着かないんだ」
「言い方が悪かった、この機体は運送業には向かないよ」
「そうなのか?」
「この機体は戦闘用だ、運送には向かない、無駄に燃料と電力を食うからな、普通の運送用BAには装甲を最小限軽くして、移動と衝撃対策にだけ特化したものを使うんだ、それだけで維持費は倍近く変わる」
「どうやら、僕の考えが浅はかだったようだ」
「そう気を落とすな、装甲を軽くするぐらいなら初心者でもできる」
「ほんとに?」
「あの分厚いのを剥がせば燃費が相当変わる」
とスバルは機体、胸部の装甲版を指差す。
「あれをかい?どうやって」
「それを考えるのは、あんたの仕事」
「親切なのか不親切なのかわからないな、ハハハッ」
とセサミは笑った、たしかに力のこもった声で。 それを聞いたスバルは少し安心した気になった。
「じゃ後は頑張れ、俺は行くから」
「ああ、ありがとう」
スバルが行ってしばらくしたときだ、風で飛んできた一枚の紙がセサミの顔に張り付く。
「指名手配、月咲昴、ハハッ仕事はレジスタンスか…命がけだな」
そう言ってセサミは機体の脚部をポンッと叩いた。
「よう、買い物はすんだのか」
特に待ち合わせもしていないのにうまく会えたものだと思いながらスバルは2人に近づく。
「ああ、だいたいの物は買えた」
と両手に持った大量の機材をスバルにみせる。その半分をスバルは受けとる。
「なら、行こうか、エンドリーコウドへ」
「うむ」
「はい!…あっ猫」
カーチェスの前を一匹の猫が通り過ぎた。
「これを持って、あそこまで歩くのかぁ〜だるい」
「ぐだぐだ言うな、カーチェス早くこい」
「あっ待ってくださいよ〜」
前回の続き セルシオ国→ 世界最大の軍事国、数万のBA、数千の軍が存在する、guardianに選ばれる人間も多い(ゼロ、ビル、ハザック)など、一方でリジウスと呼ばれる危険組織が問題視されている。 こここまで読んでいただきありがとうございます。次話もよろしくお願いします。