表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

プロローグ

「こんな窮屈な所、早く出たい。そう思わない?」

 病室の窓際に置かれたミニチュアの地球儀を片手でくるくる回しながら、ひとりの女の子が少し大袈裟なトーンで呟く。少しぶかぶかな患者衣を羽織った、わたしと同じ七歳の女の子だ。やや短めな後ろ髪の毛先が、西日に晒されて茶色く色づく。

「出て、どこに行きたいの?おうち?」

 ボソボソと篭った声でそう訊ねたのはわたしだ。もう慣れてしまったベッドに猫背で腰掛け、長い前髪を触りがら暇を潰す、つまらない女の子である。

「うーん、いや、もっと遠い所が好いかなぁ。」

 遠い所。それは小学生になったばかりの、それも定期的に入院するほど体の弱いわたしたちにとっては、蓋で閉じられたみたいに想像してもしきれないものだった。

「札幌とか?それとも、えーっと、旭川?」

「近いよ、近い近い。もっと、もーっと遠く。」

 彼女は両手を一生懸命伸ばし、大きく振り、勢い余って躓きそうになるのを、咄嗟にわたしが支えた。

「とーきょう?あと…おおさか、きょーととか。」

「うーん…。いや、もっと遠くの…何もかも見たことがないモノだらけの、そんな場所に行きたい!」

「それ、どこ…?」

 どう答えれば良いのかわからない、わたしの野暮な問いに。

「わかんないや。」

 彼女は不敵な笑顔で答える。太陽さえも励ますほどの、不思議な魅力を持った笑顔だ。

「ふふ、変なの。でも、楽しそう。」

「じゃあさじゃあさ、いつかあたしたちで一緒に飛び出そうよ!どこでもいいから、海も越えて、空も渡って!」

「わたしも…?」

「だって、ひとりは寂しいから。」

「君も寂しいって思うこと、あるんだね。ちょっと…意外かも。」

「えーなにそれー、ばかにしてるのー?」

「そ、そんなことはないよ!…でも、うん。わたしも行きたいな。」

 狭苦しい白塗りの天井と壁が、青く、明るく、そして広く見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ