言葉には出来ない
言葉には出来ない
我々は星の海の中の小さな命を探して旅を続けている。
その星は反射光からなんらか生命体が予想されていたが、知的生命体が発見された時には宇宙船が湧きたったものだ。
惑星の外からの観測でも判る村落らしきもの。村落を結ぶ道路の網。
早速、迷彩ドローンを飛ばしてファーストコンタクトへの情報を探る。
ほんのちょっとした翻訳の誤りでも交渉のヒビになる恐れがあるからだ。
しかし、ドローンの映像では住民の間での闘争が絶えないようだ。
我々に緊張が走るが、ドローンからの音まで分析すると彼らは音声を持たないために直接接触による行為を言語としているようだ。その格闘にしか見えない言語はまさに肉体言語だ。
彼らは却ってこの様な生活のせいか戦争などと言う野蛮な行為の無い平和的な種族のようだ。
そこである程度その言語を習熟させた隊員随一の格闘要員を現地に降ろすことになった。
俺はまず軽いジャブのワンツーで挨拶をする。そこからはパンチ、蹴り、投げとイナシ。
あらゆるテクニックを使いながら住民の話-格闘を聞く。しかし彼らは格闘に馴れているのだ。たちまち俺はズタボロになりながらやっとの思いで話し合いを終え、仲間の基に戻るが限界が近い。しかしこれだけは伝えなくては。
「か、身体に聞いてくれ」
そのまま倒れた彼を治療しながら怪我の方向、深さを分析する。カメラだけでは解らないその言葉は我々への歓迎が滔々と連ねられている。
そして最後に、「地球人、声小さい。もっと大きな声で」、と。
彼らはかなり打たれ強い種族へと進化しているのだった。