シンがいなくなってのその後
現在、王城は騒がしい。理由は、シンがいなくなったからだ。
私、アルバント・ガーベラズ・アルリロードは、第一王子である。私は、いや私達は、シンを愛していると、大声で言えるほど愛している。
なので、いなくなったと聞けば、私も柄にもなく慌てたほどだ。しかし、報告を聞くと怒りを越えて、呆れてしまった。
バルトロの馬鹿がやらかしたのだ。あの、威張り散らしているだけの能無しが、だ。権力を振るって、ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーわめいているだけの成人が、だ。
この国では、十五から大人扱いされるのだが、あいつは十八なのに、王族としての責務を果たさない奴なのだ。だからこそ、この王城では厄介者なのだが、奴はそれを気にも留めず、権力ばかり振るっている。
だが、奴も王族。むやみに捕まえる事が出来ず、父上も常日頃お困りでいらっしゃた。
しかし、今回の一件で、捕まえることが出来よう。第五王子であり十王の一人と確定しているシンを追い出したとなれば、もはや、捕まえるどころか、王族であれど追放さえも検討するほどのことなのだ。まあ、奴は学業ですら、疎かにしていたのだから、それも知らんだろうがな。
さて、裁決の時間だ。
◇
「私は、平民の血が流れている愚者を追放してやったのですよ」
そう言って、至極当然かのようにいう豪華な服を着たデブ男、バルトロはシンを追放した理由を大声でいっていた。
その説明に、下級貴族は驚いていたが、上級貴族は黙って聞いていた。伯爵家以上の者には、シンが父上と侍女の子であると、説明している。
私は、その説明に目を閉じ黙って聞いていた。恐らく、母上達と姉妹達は憤怒の表情であろう。父上と弟達は、静かな怒りを宿した目で、睨んでいることだろう。
「アルバント兄上もそう思っていらっしゃいますよね」
おや、旗色が悪くなったと思い、目を閉じている私に言葉を投げかけてきましたか。私は、ゆっくりと目を開き、こう言い放った。
「いいや、私はシンを大切にしている。バルトロの望んだ言葉が私から出ることは、一切有り得ないのだ」
「し、しかし兄上は、あいつを邪険にしていたではないですか!」
ほう、そうきますか。私はシンを邪険に扱っているつもりはないというのに、他人にはそう見えてしまうのですね。
「それは、お前の勝手な嘘、偽りなのだよ。勝手な幻想を私に押し付けないでほしいね」
「そ、そんな」
バルトロはそう嘆いた。すると、突然何かに気づいたように、顔を上げ、
「そ、そうだ。私は第三王子。王位継承権第三位を持っている。私を追放するわけには、いけないのではないか。そうだ、それを忘れていた。私は無罪だ。はーっはっはっはー。私は無罪なのだー。フハハハハハハハハ」
そして、笑い始めたのだ。その様子に、第二王子である、ラインハルト・ガーベラズ・アルリロードが、残酷な現実を突きつけた。
「何を言っている。王族であり、十王の一人と確定していたシンだぞ。しかも、あれ程の才能にとてつもない努力家、恐らく、家族の贔屓目を抜きにしても、最強になると予想されていたのだぞ。ほぼ確定で追放処分だ。何をしても、これが変わることは、一切有り得ない」
普段は、温厚なラインハルトでも、さすがに怒っているな。
「正直、こちらとしてはそれ以上にしたい。だが、王族であることがそれができない。こちらの慈悲に涙することだな」
第四王子、エイジエル・ガーベラズ・アルリロードが、きつくいったのだった。そして、最後に私が、
「では父上、裁決を」
父上はゆっくりと頷き、
「裁決を下す。バルトロ・ガーベラズ・アルリロードは、王位継承権剝奪及び追放処分を下し、これにて審議は、終了とする」
◇
バルトロは、王城から追い出された時、
「くそッ、これも全部、シンという愚民のせいだ。くそッ、くそッ」
完全な逆恨みをしていた。
世界観紹介
十王とは
十の神話級の武器に認められた十人の強者。魔神剣のように、一度も誰かを主と認めた事は無い武器は、魔神剣を除き、あと二つ。