捨てられた王子
新作スタートです!!
「ごほっごほっ、ここはいったい?」
僕は目が覚めると、真っ暗な空間に縄で縛られていた。幸い、「夜目・Ⅾ」のスキルがあったので、どういう場所なのかは、見ることが出来た。
全体が木造で、ドアが一つ倒れている場所から、離れた位置にあった。そして、床が小刻みに揺れているので、馬車に乗っていることが分かった。
そして、不意に止まり、
「起きていたのか。まあいいか」
一人の男が現れた。
その男、ギバール公爵は僕を縛っている縄を掴み、外へ出た。
「ここは?」
「終わりの森。殿下、いいや貴様も知っているだろう」
ギバール公爵は途中で言い直しそう言った。
そのことに、内心苦々しく思いながら、無表情で問いただした。
「なぜここに?
そして、なぜギバール公爵がそのことを?」
その問いに、ギバール公爵は僕を縛っている縄を掴みながら答えた。
「全部に答えよう。
まずは、貴様が国王陛下と侍女の息子と言う事は、第三王子が教えてくれた」
この事については、大体予想がついていた。
第三王子で腹違いの兄である、バルトロ・ガーベラス・アルリロードであることは。
バルトロ兄上は、典型的な王族であった。傲慢で自己中心的な性格である為、父上である国王陛下と平民である侍女から生まれた僕のことを、目の敵にしていた。
「そして、ここへ連れて来たのも殿下の指示である」
そう言って、無表情のまま、憐れみを少量含んだ瞳で見てきた。
恐らく、本人としてもやる気ではなかったのだろう。何せ、ギバール公爵は、平民であれ有能であれば、敬うし、スカウトすると有名だからだ。
「このことについて、他は?」
ギバール公爵は目を閉じて、ゆっくりと首を横に振った。
僕は一つ嘆息し、
「この後、どうしろと言われている?」
「ここに、放り投げろと。しかし、するつもりは無い」
そして僕をゆっくりと立たせ、縄を解きいて、袋と漆黒の剣を渡してきた。
「特別な袋だ。中に、一週間分の二人分の食料と金貨30枚、そして魔道具が数種類ある。悟られず準備するのは、これが限界だった」
申し訳ないように、彼は言った。
僕は驚いて固まったしまった。それを見て彼は薄く笑い、
「お気を付けて、殿下」
その言葉に、僕は必死に返事を返した。
「達者でね、ギバール公爵」
そう言って、僕はその場を離れた。
◇
シン・ガーベラズ・アルリロード。それが僕の名前だ。
僕が生まれた時には、母親は亡くなっていた。
そう話していたメイドの言葉を偶然聞いてしまったのだ。
三歳の頃だった。
三歳の僕には酷な事だったんだろう。すぐにその場を離れ、自室に籠った。
その後、父上である国王陛下と第一、第二王妃にバルトロ兄上を除いた兄上、姉上達の愛情により、僕は引き籠りから元通りにになった。
そこからだった、家族である皆からの愛情表現に際限がなくなったのは。
父上や兄上達は暇があれば構ってくるし、義母である王妃二人や姉上達は僕を毎日連れまわすのだ。それを見ていたバルトロ兄上は、僕を忌々しいとばかり、言っていた。
僕も大きく背が伸びて、城にいる者たちの手伝いをしていた。そして、毎日構ってくれる家族もいて、日々を送っていたのだが、八歳になったら、
◇
「これだよ。本当にイライラする」
僕は、『終わりの森』にある河原の近くの岩に座りながら、考え込んでいた。
バルトロ兄上も最近は大人しいと思ったら、こんな事考えていたなんて、本当にどうすればいいのかなぁ。
とは言っても、このまま帰ろうにも何処を通ればいいのやら。まあ、
「このまま帰るつもりなんて、欠片もないけどね」
実戦訓練なんて、二回か三回ぐらいしかやったことないしさ、ただ実戦が『終わりの森』なのはきついが、
「ノアがいるし、大丈夫かな」
『んー?どうかしたか?』
僕は、「何でもない」と答え瞳を閉じた。
魔神剣・ノア。
僕が五歳の時に契約した十の神話級の武器の一つだ。
実は、僕がノアの始めての契約者だ。その事も他の事も追々考えるとして、今は、
「スキルの確認をしていこっかなぁ~」
スキルとは。
それは、才能の具現化や神々の加護と様々な呼び方がある。生まれつきあるものもあれば、努力して獲得するものなど、獲得の仕方は多々あり、大きく分けるとランク保有スキルと、ランク無しスキルがある。ランク保有スキルは、ランクで効果が分かれている。基準は、
G…初心者
F、E…半人前
Ⅾ、C…一人前
B、A…達人級
S…超人級
EX…神人級
となっている。ランク無しスキルは、A~EXぐらいで、使い手により変わる。ほとんどの人は、G~Cぐらいで、それ以上は一部の者のみ持っている。
そして、僕のスキルは、
「両手剣術・C」「夜目・Ⅾ」「千里眼・C」「身体強化・B」「五感強化・C」「空間魔法・C」
「魔力操作・B」「魔力増量・B」「思考加速・C」「直感・Ⅾ」「高速行動・C」「生命の加護」
「創造の加護」
だ。
「こうして見ると、やばいよな~。僕」
未知の加護系スキルが一つあるだけでもやばいのに、Bランクが三つあるのだ。この歳だと強い部類に入る事は、ほぼ確定だろう。
これプラス、ノアだ。やはり事実として、強いのだろうな。
「さて、行くとするか」
岩から降りて、探索しようとしていると、
『グオオオオオォォォォォォ!!!』
大きな雄叫びが響き、僕は無言で左手を剣形態のノアに携え、身を低くして地を蹴った。
たどり着いた先には、熊のような魔物と白いローブを身につけた、エルフがいた。
スキル解説
「両手剣術」
「剣術」スキルの派生版。「剣術」よりも、両手剣の技術が高い。代わりに、他の剣を扱う時に、二段階ランクが下がる。