コント『勇者と魔王』
勇者:ツッコミ
魔王:ボケ
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勇者「ようやく魔王城にまでたどり着いた。ここで魔王を倒せば、全てが終わるんだ!」
バサバサバサッ(鳥の飛ぶ音)
勇者「流石は魔王城。不気味な雰囲気がぷんぷんするぜ。この大きな扉もずいぶんと禍々しい…(一歩踏み出す)」
ウィーン(扉の開く音)
勇者「え、自動ドア?」
魔王「いっらしゃいませー」
エプロン姿の店員風の魔王が登場
勇者「は?」
魔王「今日はどういった御用ですか?」
勇者「な、さっそく出てきやがったな魔王! 今日こそお前を倒してやる! 覚悟しやがれ!」
魔王「まあまあ、落ち着いてお客さま」
勇者「誰がお客さまだ! 俺は勇者だ!」
魔王「ふふ、勇者って自分で言っちゃうの、ちょっとダサくないですかー?」
勇者「う、うるさい! ダサいかダサくないかで別に勇者やってないんだ俺は!」
魔王「お、カッコいい。流石は勇者(笑)」
勇者「ば、馬鹿にするなよ!」
魔王「馬鹿になんてしてませんよ」
勇者「…本当か?」
魔王「コケにしてるだけで」
勇者「より酷くなってるじゃないか!」
魔王「まあとにかく、あなたは私と戦いたい、そういうことですか?」
勇者「そうだ!」
魔王「では難易度はどうしますか?」
勇者「な、難易度だと! ふざけるなよ! 真面目に会話できないのか!」
魔王「まあまあ様式美的なことですから。これが終わったらちゃんと戦ってあげます」
勇者「ほ、本当か?」
魔王「知らないんですか? 魔王は嘘つかないんですよ。いや、正確には人間から受けた呪いのせいで嘘がつけない。そもそも私は人間に作られた存在ですからね」
勇者「な、……ど、どういうことだ?」
魔王「魔王は人間に作られた仮想の巨悪。私は人類が団結するために作られた、ただのスケープゴートにすぎないということですよ。しかしながら、こうして人類は何百年もの間、平和を保ってきた」
勇者「なん…だと…。そんな話…、信じられるものか…、そんなこと俺ははじめて聞いたぞ…」
魔王「まあこれ、今私が適当に作った嘘ですから」
勇者「ッ! てめえ!」
魔王「今ちょっと信じかけたんじゃないですかー? 本当の正義とは何か、自分に問いかけ出してたんじゃないですかー?」
勇者「くそ! もう絶対に許さねえからな! もう騙されねえぞ!」
魔王「顔めちゃくちゃ赤くなっちゃって可愛いー」
勇者「ああああ! もうぜってえぶっとばす!」
魔王「それで難易度はどうします?」
勇者「そんなのもうどうでもいいだろ!」
魔王「一応、かんたん、ふつう、むずかしい、それと鬼というのがありますが」
勇者「太鼓の達人じゃねえか!」
魔王「太鼓の達人ですよ」
勇者「え、太鼓の達人なの!?」
魔王「そうですよ。え、なんですか? 戦うってそういうこと? 暴力はダメですよ。今の時代、コンプライアンスがうるさいんですから」
勇者「魔王がそんなこと気にするな!」
魔王「今どき暴力とか、バチがあたりますよ。太鼓の達人だけにね」
勇者「やかましい! 今のはマジでやかましい!」
魔王「ふふふ」
勇者「な、なにがおかしい?」
落ち着いた雰囲気のBGMが流れ出す
魔王「別に私が何を言っても問答無用で戦えばいいのに。いちいち私のくだらないジョークに付き合ってくれるんですね」
勇者「くだらないという自覚はあったのか」
魔王「はい。でも、そういうノリにとりあえず付き合ってくれる勇者、私は好きですよ」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「くそ。今日は帰る(振り返って歩き出す)」
魔王「おや、太鼓はやらないんですか?」
勇者「(立ち止まる)……い、1回だけな!(戻ってくる)」
魔王「負けませんよー」
勇者「それはこっちのセリフだ!」
BGMが大きくなりつつ、暗転して終わり