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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シュレディンガーの男

作者: 五日 永遠


電車に飛び込み自殺か!?

2020年7月12日未明、産業駅にて人身事故が発生したもよう。詳細については警察が調べている最中であるが、恐らく飛び込み自殺だと思われている。

帰宅時間に男性がホームから電車に飛び込んでるところを、複数の人が目撃しており、警察は自殺他殺事故の可能性含めて捜査しているとのこと。



朝一に読んだニュースは、男の気分を凹ませるには十分だった。

ただでさえ出勤が憂鬱だと言うのに、よりにもよって自分が毎日利用してる駅でのニュースだ。



産業駅は一見すると廃駅に見える。

むしろ線路自体が知らない人が見たら廃線だと思うだろう。

雑草がいたるところに生えてるし、ホームにいたってはただの高台にしか見えない。

屋根が無いから、雨の日には傘をさしてる人がホームで横一列に並んでるのは、なかなか面白い光景だろう。


この駅があるのが工業団地内で、周囲に大きな工場が沢山ある為、駅の利用者はそれなりにいる。

もっとも出勤時間と帰宅時間以外は、利用客が居らず電車も滅多に走らないので無人駅にしか見えないのだが。



男はその駅を仕事の為に毎日利用していた。


「……はぁ。なんだか仕事行きたくないなー」


ため息混じりにこぼした言葉は、男の本心だ。

とは言え数日に一度は同じ事を言ってるところから、日常の一部なのかもしれない。


仕事内容はともかく、工場だから休憩もちゃんとあるし、会社の方針で残業だって無い。

年間休日も130日を超えている。

それでも毎日不平不満をこぼしたい気分になり、何か理由を探しては休みたがっていた。


「でもまあ……自殺する気にはならないよなー」


ニュースの男性が何故自殺したのかは知らないし、男にとっては関係ない話だった。

どれだけ不平不満を言ったところで、自殺するほどのことではなかった。




その日の仕事をいつも通り終え、帰宅の為にホームに並ぶ。

色々な工場に勤めている人が、この時間帯は集中する為にホームの長さ一杯に人が並んでいた。


待っていると何時ものようにアナウンスが流れる。


「間も無くホームに電車が参ります。白線の外側にてお待ち下さい」


このアナウンスを聞いて、男は「白線の外側じゃなく内側だろうに」と呟く。

だが、この間違いすら自分だけではなく駅員さんも疲れているんだと思うと、男は駅員さんに共感していた。



そこに電車が来た……



男の目には電車が脱線してるように見える。

だが周囲の反応は何もなかった。

男は見間違いかもしれないと思うが、それでも電車から目が離せない。



電車は文字通りにホームを目指して走っていた。



それなのに横一列に並んでいる他の客は誰一人として騒いでいない。


「おぃ……嘘だろ?」


男は小さな声で呟く。

その声に反応した数人が男を白い目で見たが、また無関心になる。


産業駅のホーム両端は階段になっていた。

電車はその階段を上ってホームに上がると、次々と人を轢き殺していく。


「……!?」


その光景に男は声を出す事すら出来ない。


電車は男に向かって来ている。


このままだと死ぬ?




嫌だ!

まだ死にたくない!



男の中には生に対する執着心があった。もう目と鼻の先まで電車が来ている!




男は間一髪で電車を躱して、白線の外側に飛び込んだ……








モニターに映し出されたこの文章を読みながら、ある男は思った。


これはホラーなのかと。


この男には何度読み返しても、これっぽっちも恐怖を感じない。ただの文章だ。

ならばこれは何かと問われても、当てはめるべきジャンルが男には分からない。



男は決めた。

もし投稿してもこの作品を誰一人見なかったら、それこそ真のホラーだと。







ここを見ているならば、これはホラーでは無いと言うことだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ホラーでは無い! 面白かったです
2020/07/14 20:19 退会済み
管理
[一言]  間咲正樹さんと同じところから来ました。  なんとも面白かったです!私は「ホラーの作中作が長い純文学」だと思いました!  読まれる前の作品は、きっと誤字脱字の全パターンが重なった、作者に…
[一言] 黒猫虎さんのレビューと割烹からお邪魔しました! とても好みの作風です! シュレディンガーの猫は私も大好きな題材なので、それを小説に応用するとは目から鱗です!
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