風呂上がり
一方崇はタオルにくるまっていぶかしそうに里香と頼子を観察していた。
頼子はパタパタと赤ん坊を抱えて戻ってくる。
里香は手早く赤ん坊に保湿クリームを塗ると、聞いた。
「崇、オムツは?」
「へ?」
「へ?じゃないでしょう!もー!
とりあえず希和ちゃんの借りるよ!」
希和のオムツはぶかぶかで、里香はやっとこ寝転がった赤ん坊にオムツを履かせた。
赤ん坊は身をよじってふえふえ泣いている。
テレビは朝の情報番組をやっているが、平凡な話題ばかりで、さっき宮崎の海岸に現れた変な怪物の話はやっていなかった。
崇だって、何度も言おうとしていた。
その子、うちの子じゃないぞ。
さっき化け物を倒したモアイ像だぞ。
母さんもねぇちゃんもどうしちまったんだ。頭おかしくなったのか。
「みわちゃーん、ほらだっこっこだよー♪」
今言ったら、頭おかしい扱いされそうなのは崇の方だった。
今度は風呂からタオルを頭に被っただけの希和が飛び出して、デッデッデと走ってくる。
「パッパー!パッパー!」
テンションマックスである。やれやれ。
「きわちゃん!オムツ履きなさい」
「や!じぶんでしゅるー!」
続いてTシャツ姿の十和子が出てきて、頼子達にお礼を良い、里香の腕の中を見てから、おずおずと目線を崇に寄越した。
崇は黙って首を振った。
希和のきていたベビー服はもう一着しか残っていなかった。
赤ん坊はいよいよ大声でグズりだした。
里香が聞く。「お腹すいてるんじゃない?お母さんミルク用意してなかったの?」
「おかしいわねぇ…ここに置いといたと思ったんだけど…」
頼子が居間の片隅を探るが、ミルク缶も哺乳瓶もみつからなかった。
「困ったわねぇ。とわちゃーん、まだ美和ちゃん離乳食始めてなかったのよね?」
「え!あ、はい…」
分かる筈がない。今朝出会ったばかりの赤子なのだ。だいたい何で頼子達は当たり前にうちの子としてこの子を受け入れているのか。何で赤子が突然現れたのか。これは、これはどういうこと!?
崇が言った。「母さん、車貸してよ。西松屋行ってくる。」