子供の感触
「とわちゃーん!たかしー!」
里香が傘をさして歩いてきた。裏手の海岸から細道を5分歩けば崇の実家の裏庭に出る。
さっきまでの騒ぎなど何も知らない里香は、サンダルにハーフパンツと軽装だ。
怪我をした希和を見て里香が血相を変えた。
「きわちゃんどうしたの!?階段から落ちた!?」
そして、十和子を見て言った。
「あれ、みわちゃんの服どうしたの?」
「…え?」
「真っ裸じゃない!いくら夏でも風邪引くよ!」
「えっと…この子は…」
十和子も崇も、何から話せば良いか分からなかった。
「とにかく家に帰るよ!」
それから3時間後、市内の西松屋に向かってデミオを走らせる夫婦の姿があった。
希和と赤ん坊はのことはひとまずおばあちゃん達にお願いしてきた。
ミルクも、オムツも、赤ん坊のが必要だった。
そしてなにより、二人で落ち着いて話す時間が必要だった。
「あの、さ」「あの、ね」
「いや、先に話して…」「え、そっちこそ…」
「「あの子、誰!?」」
話は少しばかり遡る。
崇の実家についた頃、雨はスコールのように強くなっていた。びしょびしょの十和子達に、義母の頼子は暖かいシャワーを勧めて、こう言った。
「とにかく希和ちゃんと美和ちゃん暖めなさい」
そう。昨日まで確かに頼子の孫は希和しかいなかったのに。
突然現れた赤子を頼子は当たり前のように脱衣場に抱っこで連れてきた。
「は、はい…」
十和子は戸惑いながら赤子を受けとる。
暖かい湯をかけるとぼんやりと十和子を見つめ、ほぅとため息をついた。
さっき、確かにモアイ像が変身した筈よね…
十和子は全身くまなく確認するが、どこからどうみても普通の女の赤ちゃんだった。
蒙古斑もある…人間、よね…
「マンマ?」
希和の声に我に返り、風呂の呼び出しボタンを押し、頼子に来てもらう。
今は希和を洗って、もう一度子供の感触を確かめたかった。