花と貝殻
十和子達を乗せたグリーンのデミオは、海浜公園の駐車場に止まった。
普段海のない街で暮らす希和に、海を見せてやろうと里香が提案してくれたのだ。
真夏を過ぎて9月に入ったとはいえ、南国の日はようやく傾いてきたばかりでまだまだ眩しい。
昨年の帰省時はまだ一歳で、終始ぽかんとしていた希和だったが、「海だよ!」と耳打ちすれば「うみー!?」とはしゃぐ。用意のいい里香がピンクのサンダルを履かせようとすると、希和のイヤイヤが突然始まった。
「あっちっちだからはいて!」「イヤー!」
出たよ魔の2歳児。崇は笑うが、十和子だってこういう時は焦る。「ほらお花さんついてるサンダルだよ!かわいいよ!」「ええー?」「きわちゃん今日の靴下もお花さんだね。あ、そしたら靴下はいてこっちのくっく履こうか!」「うん!」
こういう時の里香の機転の良さは、十和子は素直に尊敬していた。
ハート柄Tシャツにひまわり柄のズボン、ブルーの花柄靴下にピンクのお花つきサンダル。大人の麦わら帽子まで被って新手のファッションリーダーが車からようやく降りてきたと思うと、里香に手を引かれ砂浜をよちよちと歩いていく。
この海浜公園に来るのは2回目だけど、陸側に生い茂る椰子の林の中に、石像があるのに十和子は初めて気がついた。
それは、あのイースター島にあるのにそっくりなモアイ像が、たった1体だけ、海の方を向いて立っているのだった。
「何でこんなところにモアイ…?」
「それな。昔から何であるのか分からないんだ。」
「海浜公園なのに?県とかの管理じゃないの?」
「どっかの観光業者が立てたんじゃない?」
崇はあまり関心がなさそうに呟くと、貝殻探しを始めた里香と希和の方に歩き出した。
日が傾く頃、貝殻は小さなバケツから溢れるほどになっていた。こういう自然のお土産は砂や塩がついていて、都会育ちの十和子はあまり得意ではなかった。咲いていた昼顔と一緒にモアイにあげようと里香が提案してくれ、希和が頷いてくれたおかげで、大人達はひと安心して車に乗ることができた。
「モアイさんきわちゃんの拾ってくれたキラキラでイッパイだね!ありがとうって言ってるよ~!」
「ほらバイバイしようね、おばあちゃん待ってるよ!」
「バイバイ!」
花と虹色の貝殻で飾られたモアイ像は苔蒸していて、昨日今日置かれたもので無いことは明らかだった。