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沙羅双樹  作者: 九JACK
16/41

梅衣とお出かけ

ちょっと矛盾点があるかもしれないですが、頭を整理したら書き直すので、ひとまず。(咲希と梅衣の年齢差)

「ただいまー」

「おかえりなさい」

 仕事から帰ると百合音が迎えてくれた。だが、その表情がすぐに曇る。

「どうした? 百合音」

「ええと……」

「なんじゃ! 煙臭いのう」

 百合音が何かを言う前に、梅衣が咲希に突進してくる。文句を言いながら。煙臭いと言った割にはすり寄ってくるので、梅衣はよくわからない。

「兄者はとうとう未成年飛行をしたのじゃな」

「してないしてない」

「びゅーん、と飛んだのじゃ!」

「飛んでない飛んでない」

「じゃあツボを突いたのじゃ!」

「その秘孔!?」

「世は世紀末!」

「ちょっと、誰か梅衣に変なアニメ見せた?」

 ちなみに今は世紀末どころか新しい世紀が始まったくらいである。

 百合音が苦笑する。

「竹仁がお友達から借りてきたのを見ていたからかしら。昔流行っていたらしいの」

「へえ。竹仁に友達ができていて嬉しいなあ」

 竹仁は何も感情を持たないが、コミュニケーション能力が高い。クラスにも親しむ者が多いようで、兄としても鼻が高いし、安心する。

「ところで兄者は何故煙いのじゃ?」

「ああ、ちょっと煙草吸ってる人と話したからかな? 梅衣は鼻がいいね」

「えっへん!」

 梅衣の人格は今日は安定しているようである。まあ、昼間の様子はわからないのだが。

 梅衣は家の中で過ごしていた。保育園に預けるには人に害を成すタイプの人格があるからだ。口汚い者もいれば、人に怪我をさせて愉悦を覚えたり、人の血を見て興奮したり……いつどんな人格が出てきてしまうかわからないため、外に出せなかった。そんな梅衣もあと三年もすれば小学校入学である。小中学校は義務教育だ。義務教育を受けさせないのは一種の虐待である、というのもあり、梅衣は学校に行かせるつもりである。色々大変だろうが、咲希が本格的に白雀で働き始めれば、それもいくらか和らぐだろう。

 お金に余裕ができると、心にも余裕ができるはずだ。咲希も早苗も優しすぎるほどに優しいが、咲希の優しさの異常性のために、百合音と竹仁がぶつかることがある。今後、水樹も誰かと反りが合わなくなることもあるかもしれない。家庭内の不和を咲希は少しでもなくしたかった。

 玄関から上がり、部屋で着替える。ふう、と息を吐いた。学校は制服だから仕方ないが、やはり和服は落ち着く。

「咲希、おかえりなさい」

「あ、母さん。ただいま」

 襖の向こうから母の声がしたため、咲希は振り向く。どうぞ入って、というと、早苗が襖を開けて入ってきた。

「水樹は?」

「梅衣がお姉ちゃんになったからか、張り切ってお世話をしてくれるの。案外と手際がいいのよ。おしめも替えられるし」

「それはすごいな」

 人格がころころ替わる梅衣が安定しているのも、水樹という弟ができたからかもしれない。早苗によると、水樹の中に棲む「鬼」のことはまだよくわからないが、咲希の手に噛みついたあの日以来、凶暴なことはしていない。

 水樹も梅衣に懐いているようで、和やかな時間が流れているという。

「それでね、咲希。今日は手鞠さんからお手紙が届いたの」

「ソカナさんから?」

「おそらく。日曜日に、梅衣と遊びに来てほしいって」

 ソカナは梅衣と仲が良い。ただ会いたいというのもあるだろうが、わざわざ手紙を寄越すとは、何かあるかもしれない。

 ソカナの能力は絶対予知。梅衣について、何かわかったのだろうか。

「わかりました。旦那さんに話して、日曜はお休みをもらいます。梅衣には伝えてありますか?」

「いいえ、まだ。あ、そういえば、梅衣の中にはもう字が読める人もいるのだったかしら」

 梅衣はソカナから、たくさんの魂を一つの体に乗せて生まれる、と言われた。断定はできないが、先天性の多重人格というやつである。人格ごとにできることは異なるのが特徴だ。まだまともに言葉も話せない人格もいれば、大人と遜色ないくらいに読み書きができる人格もいる。

「じゃあ、梅衣に話しに行きます。きっと喜ぶ」

「ふふ」

 早速咲希は梅衣のところに向かった。梅衣は水樹に絵本を読んでいた。

「そこでクジラが大きく口を開けて……がぶっ」

 梅衣の抑揚のつけ方が面白いのか、水樹はきゃっきゃと笑っている。咲希はそこに声をかけた。

「今日は何を読んでいるんだ?」

「兄者、今日は竜になるクジラの話じゃ。クジラは世界一大きいのじゃ」

 確かに、クジラは世界一大きな哺乳類と聞いたことがある。特に何かを学ばせているわけでもないのに、梅衣は時々咲希より物を知っていることがある。

 それは才能と称えられていいはずだ、と咲希は思っていた。

「今度の日曜日、ソカナさんの家に遊びに行くぞ」

「手鞠の家じゃー! 買うてもらった手鞠を持っていくのじゃ!」

 予想に違わず、梅衣のテンションは上がった。

「水樹も連れてって良いか?」

「うーん、水樹はその日、他のみんなに見てもらおう」

「たけじに意地悪されないか心配じゃ」

「たけじ? 竹仁のこと? 竹仁は意地悪じゃないと思うけど」

「たけじはねねに意地悪じゃ」

 あー、と咲希も納得する。

 何も思っていない割に口の回る竹仁は百合音に意地悪なことを言うことが多い。竹仁は何の気なしに言っていることが、周りを傷つけると、百合音が悲しむのだ。

「竹仁のはわざとじゃないから」

「兄者は甘いのう。たけじはねねが傷つくのを見越して話しておるんじゃ。意地が悪くなくて何なのじゃ」

「え」

「たけじは頭が良いのじゃ。感じることをしないから、その分頭を回して、こうしたら誰がどう思うか、自分でとーけーをしておる。たけじは故に、自分のことより他人のことに詳しい」

 随分と難しいことを言う。

 梅衣が竹仁のことを何故「たけじ」と呼ぶのかはさておき、竹仁のことをそう称する梅衣は梅衣で他人のことをよく見ている。

 竹仁に悪意はないのだろう。悪意がないからこそ、百合音は苦しむ。それを織り込み済みで竹仁が一言一句を選んでいるのだとしたら……

 色々考えたいことはあったが、やることは山のようにある。

 中学生の咲希は、まず学校の宿題だ。高校に行かない分、勉学は今のうちに励まねば。


 そうして、日曜日を迎え、咲希と梅衣はるんるんで手鞠家に向かった。

「おにいおにい! ソカナはもなかが好きで、アカネはごまあんが好き! ごまあんもなかにする!」

「梅衣はよく覚えてるなあ」

 せっかくなので、白雀で手土産を買って、手鞠家に向かった。今日の梅衣は年相応に幼い人格のようだ。

 人格が替わると記憶がなくなるようだが、手鞠を持っていく記憶は共有されていたようで、梅衣は大切に手鞠を抱えていた。

「ソカナに手鞠歌教えてもらう!」

「そうなのか。梅衣はきっと歌も上手だ」

「おにいは褒め上手なのら!」

 そんな和やかな会話をするうちに、手鞠家に着いた。

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