初めての夜
「ふぅ、さっぱりした」
「湯加減はどうでしたかな?」
「はい、おかげさまで綺麗に洗い流せました」
「そうですか、ところでそこの小さい子はどちら様で?」
「私か?私はかみ…むぐぅ」
「かみは乾かさないとねお風呂からあがったらさぁ!」
「むぐぐぅ」
「……」
「あ、あははこの子は私の知り合いの子どもでして一緒に旅をしているんです」
「そうでしたか、見た感じ丁度うちの孫と同い年くらいですな、どうぞ部屋も用意しております今日はゆっくりしていって下さい」
「そうさせていただきます」
ふと、柱の影に隠れていた町長の娘が自称神様のところに駆け寄ると袖を引っ張る。
「ねぇねぇ、あなたいくつ?」
「む、私に言っているのか?人間の子供がきやすく話しかけるでない」
ギロ
「ひっ、歳、年齢は七万…」
神様がそう言いかけて、被せるように叫ぶ。
「七歳です!」
「あ、私と一緒だ!ねぇねぇあっちで一緒に遊ぼ」
「わ、ちょっと待つのだ、なぜ私がええい何とかするのだ」
「それはいい、少し遊んでもらいなさいくれぐれも行儀よくするようにね」
「おのれ、裏切ったな!」
抵抗むなしく神様はそのまま隣の部屋へと連れていかれた。
「ほっほっほっ、仲良くなれそうですな」
「ええ、全くです」
「シガミ様はハンターのかたですかな?この辺りではあまり見かけたことがありませんが」
「いえ、色々な所を旅していまして偶然立ち寄ったのです。あれ、私名前言いましたっけ?」
「あれほど強いハンターは見たことがないと話していたら、孫があなた様と先程会ったと聞いたもので、てっきりハンターの方かと思っておりましたがそうですか」
「これからどこかへ行く予定はあるのですか?」
「いえ特には」
「それでしたら、もう一つ私のお願いを聞いていただけませんか?」
「お願いですか、内容次第では請け負いましょう」
「ある荷物をここから北西にいった所にあるセスタ村に届けてほしいのです」
「そのくらいでしたら構いませんよ」
「おお、ありがとうございます、最近はあまり魔物は出なくなりましたが、道中は危険でおまけにあの魔物が住み初めてからは冒険者たちも恐れ森に入るのを嫌がってなかなか荷物を届けに行けなかったのです。もちろん報酬も前払いでお支払いします」
となり町まで荷物を届ければいいんだな、よく考えたらこの世界のお金持ってないし小塚い稼ぎになるだろう、僕は町長から前金を受けとると今日一日泊めてもらう部屋へと案内してもらった。
部屋にはベッドが一つだけ置かれてある。まぁ当然か僕は途中まで一人で、ついさっき突然現れた子供の数までは用意してないよな。
「ともあれ最初は散々だったけど、なんとかなりそうだな」
「なんとかなりそうだな、ではないわ!なぜ私を見捨てたのだ!」
「別に見捨てたわけではないよ、同い年の子供と遊ぶくらいどうってことないだろう?」
「あるわたわけ!私は神様だぞ!あんな人間の子供と遊ぶほど幼稚ではないわ!」
「でも、遊んであげたんでしょう?」
「え、あぁうんまぁ帰ろうとすると泣き出しそうになるから、仕方なく構ってやったが」
「案外優しいんですね神様」
「ま、まあな私は慈悲深いからな」
ちょろいなこの神様ってか、慈悲深いとかどの口が言ってるんだか。
「ところで、お主名前をまだ聞いていなかったな」
「そうだったっけ?今さらな気もするけどまぁいいか、僕の名前は石上達也この世界ではシガミって名乗るようにした」
「ほほうシガミとな、うむなかなかいい名ではないか」
「神様は名前はないの?」
「私か?そうだな…、イータと呼ぶがよい」
「イータね、今度からそう呼ぶよ」
「本来なら神様と呼ぶのが礼儀なのだが、シガミは特別にそう呼ぶことを許そう」
「はいはい、ありがと」
体はちっこくなっても態度はでかいな、
「それより、ふぁ…そろそろ眠くなってきた、積もる話もあるだろうが、明日にしよう」
「神様も眠くなるんだ」
「受肉した時点で普通の人間の子供と変わりないからなふぁ…殆どの力はシガミにあげたし…」
眠たそうに目を擦りながら一つしかないベッドに向かい横になると、そのまますやすや寝息をたてだした。僕もそろそろ寝るか、仕方なく同じベッドに入ると僕も横になり目をつむった。今日は色々あったけど、これから先どうなるんだろう…ズキズキ
ん?なんかおかしいぞズキズキ寝ようとすればするほど頭が痛みだす。
「うぉぉい、イータ頭が痛くて寝れないんだけど!あの魔法まだ解けてなかったのか!?今すぐ解くんだ!」
「うーん、むにゃうるさいな…、それなら私にキスをすれば解けるぞ…ふぁすぴー」
なん…だと?きききキスなんてしたことないんだけど、ましてこんな子供にぼくなんかがキスなんてしたら問題なんじゃないか?いやまて、見た目は少女だけど中身は七万歳のロリババアじゃないかそれにここは異世界で、僕がここでこのロリババアにキスをしたところで問題はないんじゃないか?これは決して欲求的なものではなく、魔法を解くという正統的な目的であってその結果仕方なくするんだ。
僕は意を決するとイータを見つめる。長く白い髪は月明かりに反射しキラキラと輝いている、喋ると喧しいが眠っているこの姿は誰が見ても美少女という表現しか出てこないだろう。
「ゴクリ」
「すーすー」
ゆっくりと顔を近づけていく、イータの顔に近づくにつれて寝息が僕の唇に触れる。心臓はバクバクと破裂しそうに脈をうつ。
「くぅ、駄目だ!僕には無理だ」
こんなの無理ゲーだ、今まで女性と付き合ったことなんてないのにましてやキスなんて出来るはずがない、一日くらい寝なくても大丈夫だろう、明日他の方法を考えよう。
「なんだ、以外に産毛だの」
「え?」
急に話しかけられて思わず振り替えると、すっと唇に柔らかい感触が当たる。
「な、ななな」
「ほれ、これで解除された、もしかしてキスをするのは初めてだったか?それは悪かったなファーストキスをいただいてしまって」
「は、初めてじゃねーしぃ↑」
「ふむ、そうかその割には顔が真っ赤だが」
「あー、やれやれこれでやっと寝れるわーお休み」
僕はイータに背を向けると顔を隠すようにうずくまった。
「そうか私ももう限界ふぁ…、お休みシガミ…」
「…」
背中が暖かい、どうやらイータが背中にしがみついているようだ。心臓はまだバクバクと音をたてている。何を意識してるんだ俺は!僕はこの緊張を和らげるように大きく深呼吸をすると再び目をつむるのであった。